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「なんか、しんみりしちゃいましたね······」
「うん」


光彦の言葉に歩美がうなずく。


「そうじゃ!こんなときは」


子どもたちが沈んでいるのを見た阿笠博士が人差し指をピシッと立てた。


「え?」
「まさか」
「もしかして······」


子どもたちの顔が一斉に曇る。


「いつものクイズで明るく楽しくいきましょー!!」


蘭が苦笑いし、小五郎と園子も「またか······」とげんなりした。


「ではでは、皆さんもご一緒に!」


阿笠博士の声に榊と本浦が足を止めて振り返った。
山森と薫もキョトンとしている。
ベンチに座っていた中岡もチラリと阿笠博士を見た。
注目を集めた阿笠博士はウゥンと咳払いをし、みんなに語りかけるように両手を広げた。


「サッカー選手の車の特徴は、サッカー用語に由来して、ドアがよく閉まることだと言われておる。はて、その用語とは次のうちのどれかな?一、オフサイド。二、ハンド。三、コーナーキック。四、イエローカード」


クイズを出題された一同は「うーん」と考え始めた。
榊と本浦、山森と薫も考え込んでいる。


「今回は少し難易度が高かったかな?」


阿笠博士が満足そうに微笑むと、


「花恋ちゃん、わかった?」


と歩美が訊いた。


『え、うん。答えは───』
「二番!ハンドリングのハンド!!」


背後から声がして、一同が振り返った。
すると、Jリーガーの遠藤を先頭に、楢崎、中村、今野が歩いてくるのが見えた。


「ドアがよく閉まるってことは、半ドアがないってことでしょ?半ドアなし。ハンドなし!」


遠藤が自信満々に答えると、阿笠博士は「正解じゃ!」とうなずいた。


「スゴ〜イ、遠藤選手!サッカーだけじゃなく、頭もいいんだ〜!」


園子がすばやく前に出て遠藤に近づき、うっとりした顔で見つめる。
そこに「チィースッ!」とビッグ大阪のユニフォームを来た男が近づいてきた。


「貴大ッ、遅いじゃないか!」


比護が険しい顔で言うと、その男は「いやぁ、寝坊しちゃって······」と頭をかいた。


「誰だ?あの兄ちゃん」


元太が小声で光彦に尋ねる。


「真田選手ですよ。今年ユースから上がった新人で、ワントップの比護さんのサブです」


その隣では、花恋がじっと懐かしそうに目を細めて真田を見ていた。
それに気づいたコナンがくっと花恋の袖を引っ張る。


「おい、いつまで見てんだよ」
『え!?そんなに見てた?』
「穴があくほど見てたから工藤君も嫉妬したんでしょ」
『はい!?待って!そんなに見てないよ!?』
「ほぉ〜」


信じられないという風に目を細めて見てくるコナンに花恋は慌てながら弁解した。
スパイクの踵を踏んでダルそうにフラフラと歩いてくる真田の姿を見て、比護はあきれた顔をした。


「前半をすっぽかすなんて、いい度胸してんな」
「オレ、子ども苦手なんスよ」


真田はそう言うと元太らの前に立ち、「おい、ガキどもっ」といきなり顔を近づけてにらみつけた。
びびった子どもたちが「ヒッ!」と悲鳴を上げる。


「オレはサブとちゃう。スーパーサブや!おぼえとけ!」


そこまで言うと子どもたちはまた悲鳴を上げながら今度は花恋の後ろに隠れた。
いきなり後ろに隠れられた花恋は戸惑いながら後ろを振り返る。


『は?ちょ、ちょっと!なんで隠れんの!?』


そこで視線に気づいた花恋が前を見ると、花恋を見つめる真田と目が合った。
花恋の頭の中に懐かしい記憶が甦る。


***


バスケ部の助っ人の帰り道、公園でじっと桜を見ていた蓮華の耳に「いってぇ!」と声が聞こえた。
慌てて声の聞こえた方に行くと、そこにはウインドブレイカーを着た男の人が片膝を抱えて地面に寝っ転がっていた。
近くにはサッカーボールが転がっており、他にも視線を移すと少し離れたところにあるベンチの上にバッグとスポーツドリンクがあるのが見えた。
蓮華は持っていたハンカチを近くの水道で濡らしてくると、寝転がっている男にハンカチを差し出す。


『どうぞ。血が出てるんでこれで拭いてください』
「え······。あ、悪いな。ありがたく使わせてもらうわ」


男は起き上がると、そのままハンカチを受け取ってケガをした部分に押し当てる。
蓮華はその男の隣にしゃがみ込むと、「サッカー好きなんですか?」と聞いた。
男は「ん?」と一度サッカーボールに目を向けて蓮華に顔を向けると、


「ああ。Jリーガーの比護さんって知っとるか?」
『はい』
「その比護さんのサブになるから、ここで練習しとったんや!ただのサブやなくてスーパーサブになるためにな!」


ニカッと笑った男に蓮華は「へ〜」と目を細めて微笑んだ。
その笑顔に男は胸が高鳴って頬を赤くしたが気づかれないように「あんたは?」と訊き返した。


『え?』
「あんたはなんでここにおんねや?」
『桜を見に来たんです』
「桜?」
『ここの桜、結構綺麗なんですよ。あ、てゆーか私、あんたって名前じゃないんで。ちゃんと黒瀬蓮華って名前があるんで』
「黒瀬······蓮華······」


確かめるように名前を呼ぶ男に蓮華は頷くと男はまたあの太陽のような笑顔で笑った。


「オレは真田貴大。比護さんのスーパーサブや。覚えとき」
『あははッ。じゃあ、真田さんでいいですか?』
「そんな堅苦しくなくてええわ。貴大でええって」
『じゃー、貴大くんで』


***


(そういえばあの後、貴大くん「今度ハンカチ新しいの返すで連絡先、教えてくれへん?」って必死になって聞いてきたな。花恋の姿になってからはあんまり連絡とってないけど)


いろいろと思い出していた花恋は目の前に真田の顔があるのに気付いて少しあとずさった。


「なあ、どっかで会うたことあるか?」
『い、いえ。初めてだと思いますけど······』

(この姿ではね)

「せやんなぁ」

(どっかで会ったことあると思うんやけど······)

「おい、真田!」


赤木が注意すると、真田は花恋から上体を起こして赤木に鋭い視線を向けた。


「ヒデさん。オレ、あんたをライバルにって決めたから。今度の試合で決着をつけましょうや」


赤木はフッと笑った。「その前にまずゲームに出ることだな」


「もちろんですよ」


赤木と向かい合った真田が自信満々に言うと、カメラのシャッターを切る音がした。
二人が音の方を向くと、薫が二人にデジカメを向けていた。
その隙にコナンは花恋の腕を引っ張って、真田から引き離す。


「おい、どういうことだよ」
『何が?』
「とぼけんな。なんで真田選手のこと知ってんだよ」
『私、知ってるなんて言ったっけ?』


不思議そうに首をかしげる花恋にコナンはため息をつく。「オメーの顔見ればわかる」


「工藤君は蓮華のことが心配なのよ」
「茶化すなよ、灰原」
『とりあえず、貴大くんとは何にもないよ』
「「貴大くん?」」
『あ······』


しまっという風に口に手を当てる花恋にコナンは眉を寄せると不機嫌そうに視線をそらした。
そのときちょうど薫が山森から逃れようと体の向きを変えたため、背中に隠した手帳が二人の目の前に現れた。
左のページには『O・Y』と書かれた下にスケジュールらしき細かい文字が並び、一番下には『十二月三日 汐留アリーナ』と大きな文字で書かれていた。
そして、右のページには『S VS A』と書きかけたその上に『杉並運動公園 AM六時〜 K・K』と書かれていて、『K・K』には赤丸がつけられている。


((K・K······?何だろう······))


二人が薫の手帳を見ながら考えていると、赤木が「あっ、ヤベッ」と声を上げた。


「悪いな、真田。続きは最終戦。東都スタジアムでやろう!」


何か用事を思い出した赤木は真田に手を振り、颯爽と駆け出した。
その後ろ姿を見送っていた歩美がキラキラと目を輝かせる。


「ヒデ、走る姿もカッコイイね〜」
「オレ、走んの苦手だからなぁ」


元太がうらやましそうに赤木を見つめ、光彦も「ボクもです」とため息をついた。


「足が遅いとサッカー選手になれないんでしょうか······」
「そんなことないよ」


子供たちがその声に振り返ると、今野がニッコリと微笑んでいた。


「足が遅い選手は、Jリーガーの中にもたくさんいるよ」
「そうなんですか!?」


思いがけない事実に光彦が驚く。


「足が遅ければ、他の選手より先に走り出せばいいんだ」


楢崎が言うと、中村が「ただし」と付け加えた。


「そのためにはゲームの流れを読む力や、判断力を磨かなきゃならない」


中村の言葉に今野がうなずく。


「そう。要は足のスピードより、考えるスピードを速くすること」
「足が遅いためにかえってそういう力を身につけて、活躍してる人は大勢いるよ」


最後に中村が言うと、Jリーガーのアドバイスを聞いた光彦たちの表情がパァッと明るくなった。
子どもたちの笑顔を見た遠藤が優しく微笑む。


「他人からはマイナスに見えるような個性でも、自分なりに生かせる方法を見つけ出せたら、プラスに変えられることだってたくさんあるんだ。例えば、背が低くてもサッカーはできるし、それを武器にすることもできるだろ?そこにサッカーの面白さがあるし、自分は自分だって思えるんだ」


遠藤の言葉に小五郎と阿笠博士もうなずいた。


「なるほど······プロの言葉は含蓄があるのぉ」
「他に何か聞きたいことあるかな?」


遠藤が言うと、コナンが「ハーイッ」と手を上げた。


「フリーキックのコツを教えて」


するといきなり小五郎が「コラーッ!」とコナンの頭をつかんだ。


「ガキのくせに生意気だぞ!」
「うわあああ」


頭をゆすられたコナンが悲鳴を上げると、遠藤が苦笑いしながら歩み寄った。


「そんな、かまいませんよ」
「えっ?」


コナンの頭をつかんだ小五郎が驚く。


「まだ少し時間あるから、ちょっとやって見せようか?」
「うん!」


小五郎の手から逃れたコナンが満面の笑みでうなずく。


「マジかよ!」
「やったー!」


元太たちも両手を上げて大喜びした。
その様子を見ていた灰原と花恋は顔を見合わせると、


「工藤君、嬉しそうね」
『さすが、サッカーバカなだけあるよね』


嬉しそうな顔のコナンを見て微笑んだ。

遠藤によるフリーキックのデモンストレーションが急きょ行われることになり、観客が大勢集まってきた。
ペナルティエリアの外側、ゴールから二十五メートルほどのやや左の位置にボールが置かれ、遠藤がその前に立った。
キーパーは楢崎で、向かって左から比護、真田、今野、中村の順に並んで左側に壁を作っている。
コナンたちは遠藤の背後でワクワクしながら見つめていた。
遠藤は力強い眼差しをゴールに向けると、ボールの左横やや斜め後ろから四、五歩助走して、ボールを蹴った。
ボールはジャンプした今野と中村の頭上を越えて横回転で鋭く左へ曲がり落ち、飛びついた楢崎の指先を抜けてネットの左隅に突き刺さった。
_4/16
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