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14
ブラックの唇が重なる寸前───蘭はハッと目を開け、ブラックの胸に置いた手に力を込めた。


「あなた······蓮華じゃないわね」
『え!?』


ブラックがギクリとした瞬間、エレベーターが到着した音がした。
ドアが開き、花恋とコナン、園子が飛び出してくる。
花恋は正面の円台で抱き合う蘭とブラックを見て、顔をしかめた。


『ブラック、あんたねえ!!』


と叫んで駆け出す。
ブラックはそっと離れると膝をつき、蘭の手の甲にキスをした。


「そう······私たちは探偵ではなく、泥棒。泥棒は盗むのが商売」
『たとえそれが、人の心でもね』
「え······」


蘭が顔を赤く染める。
キッドとブラックはワイヤー銃を抜くと、天井の開いた展望窓に向かって撃った。
勢いよく伸びるワイヤーの先のフックが窓枠をつかみ、二人は駆けてくる花恋に向かってニヤリを笑いながら小さく手を振った。
あっという間に二人の身体が上昇し、花恋が円台に駆けつけたときにはハンググライダーで飛び立っていた。
円台の左右にある壁のセンサーには、しっかりとトランプが貼られている。


「キッド様とブラック様、素敵······!」


駆けつけた園子がうっとりとした顔で空を見上げると、蘭はしらけた顔をした。


「あんなことされた後で言われてもねえ······」
「「『え?』」」


園子とコナン、花恋が驚いて蘭を見る。


『あんなことって?』


花恋がたずねると、蘭は「えっと······」と顔を赤らめ左手を口元に持っていった。
すると、いつの間にか左手の薬指に宝石がはめられていた。


「あ!レディー・スカイ!ブラックとキッド、返していったのね」
『ねえねえ、ブラックに何されたの!?』


気になった花恋が再びたずねると、蘭は恥ずかしそうに「だから」と言った。


「蓮華がやらないことよ!」


蘭はブラックにキスされそうになったときのことを思い出した。
ブラックは蘭を抱いたまま顔を近づけるが、そこで蘭は思ったのだ。
いくら蓮華でも、女の子にこんなことするわけがないと気づき、ブラックの手を思いきりつねってやった。


『え?何で?何で蓮華姉ちゃんならやらないの?』
「どうしてそう思うの?」


さっぱり意味がわからない花恋とコナンがしつこくたずねる。


「だから、それは······」


と二人に顔を近づけた蘭は、花恋の頬に貼られた絆創膏に気づいた。
園子からもらった『蓮華 LOVE』と小さく書かれた絆創膏だ。
蘭の顔が見る見るうちに真っ赤になり、


「す、好きだからじゃないわよ。勘違いしないでね!」

 
そう言って、エレベーターに向かってスタスタと歩いていった。


『は?』
「え?」
「何が?」


わけがわからない花恋とコナン、園子は目をぱちくりさせる。


『ちょ、ちょっと、蘭姉ちゃん!』


花恋が慌てて呼び止めたが、蘭は無視してエレベーターに乗ってしまった。


(おいおい、何なの、あんなことって······。何したの、あいつら)


蘭の不可解な言葉が頭を駆け巡り、花恋は呆然とエレベーターを見つめた───。


***


後日。
花恋は快斗に電話をかけると、快斗は慌てたように言い訳をした。


〈あれはだな······!そのぉ〜、なんて言うか〜、あ〜〉


言葉を濁して何も言わない快斗に花恋が眉をひそめて低い声で「あれは······なに?」と言うと電話の向こうで〈ヒィッ〉と悲鳴を上げる快斗の声が聞こえた。


〈お、オレが止めるヒマもなかったんだよ!しかもなんかオレまであの高校生探偵に思われちまってたし······〉
『それはあの百合華バカが道連れにしたんでしょ。まさにバカがやりそうなことじゃん。私が聞きたいのは何であんなことしたかってことなの』
〈や、それはオレに訊かれても······〉


飛行船での出来事を思い出して快斗は苦笑いをした。
花恋はあの後もずっと自分の顔を見ては顔を赤らめる蘭を不思議に思っていたのだ。
しかもずっと「蓮華のことなんか······」とブツブツ言っていることにコナンと首を傾げていたがよく考えれば、あの時の飛行船で蘭とブラックが抱き合っていたときからだ。
なぜ抱き合っていたのかは知らないが、そのときにブラックが何かしたのは明白だった。


(快斗も、快斗だよ。何で隣にいたのに止めないかなぁ〜!)

〈オレのせいじゃねえぞ!やり出したのは百合華からでッ!〉


電話の向こうから焦った声が聞こえてきた直後、ドアが開く音がして〈快斗〜〉となんとも呑気な声が聞こえた。


〈百合華······!〉


ピクリと花恋の眉が動いた。


〈誰と電話してんだ?〉
〈蓮華だよ〉
〈ゲッ〉


百合華は自分の姉の名前が出たとたんに顔を歪めた。
その声が聞こえていた花恋は「快斗」と呼びかけ、


『今すぐ百合華に変われ』


怖いぐらいの低い声で言った。
快斗は近くにいるわけでもない花恋の顔が容易に想像できて、首をブンブンと縦に振って百合華に電話を渡した。
携帯を渡してくる快斗の顔は真っ青だ。
そんな快斗の顔を見て百合華は顔を引きつらせると恐る恐る携帯電話を受け取って〈······はい〉と小さい声で返答した。


『私が何言いたいかわかるよね』

(どうしよう。普通は疑問で質問するはずなのに、命令で言われたぜ。はてなも何もついてないし)

『わかるよね······』
〈はい!〉


急いで返事を返すと電話の向こうでため息をつかれた気がした。


(あれ、ため息?ひどくね?)


百合華が苦笑いをする。
花恋が頭を軽く振って、無言で続きを託した。


〈えーっと、あの時はその〜。何て言うか、テヘ······〉
『早く言え』
〈すいません!蘭にキスしようとしてました!〉


早口でそう言った百合華に快斗が〈あ〜あ〉と首を振ってため息をついた。
花恋は思わず「はあ!?」と声を上げた。


『ちょっと待ってよ!あんた、確か私と思われてたんだよね!?』
〈う、うん······いや〜、蓮華ならそれぐらいするかなーと思ってさあ〉
〈『しねーよ』〉


意味のわからない言い訳をする百合華に快斗と花恋が口を揃えて突っ込む。
すると、向こうから歩美、光彦、元太が駆けてくるのが見えて花恋は「ゲッ」と顔をゆがめた。
百合華のときと同じ反応である。
さすが双子。
昔から一緒にいただけはある。
花恋のその声を聞いた快斗が不思議そうに〈どうした?〉と訊くと、「ちょっとめんどくさいことになりそう」と返ってきて、快斗と百合華は顔を見合わせた。


「花恋ちゃん、早く来ないとサッカー始めちゃうよ?」
「誰かと電話してたんですか?」


光彦が訊くと花恋は「あー、いや」と言葉を濁した。
元太は眉を寄せると「オレらずっと待ってんだぞ!」と向こうから歩み寄ってくるコナンと灰原を指さした。


『ごめんごめん。今いくよ』


苦笑いをした花恋を見て、子どもたちは踵を返してさっきの場所に戻っていった。
遅れてやってきたコナンが不思議そうに首をかしげる。


「誰と電話してんだ?」
『百合華』
「ゲッ」


花恋と同じ反応で嫌そうに顔をゆがめるコナンに灰原がフッと笑う。
すると、電話の向こうから元気な声が返ってきた。


〈やっほー、新一!元気してた?〉


先ほど花恋に怒られて怯えていたとは思えないほどの声である。
コナンの方に花恋が電話を向けると、嫌そうに受け取った。


「おめー、その名前で呼ぶなって何度言えばわかるんだ?」
〈何度でも。だって新一は新一だろ?それに誰も聞いてねーって〉

((聞いてるって······))


百合華の言葉に花恋と快斗が心の中で突っ込む。
が、コナンは百合華の近くに快斗がいることを知らないので、即答で返事をした百合華にため息をついた。


「で?今度は何で蓮華に怒られたんだ?」
〈怒られること前提ですか。ひどいなー、あたしの幼なじみ様は〉
「蓮華がオメーに電話かけるなんてそれしかねえだろ?」


確認するようにコナンは花恋の方を向くと、花恋はその言葉に首を縦に振っていた。
すると、向こうから子どもたちのせかす声が聞こえて花恋とコナン、灰原は歩き出す。


〈え、なに。今遊んでんのか?〉
『そうだよ』
〈え、なになに。おままごとでもすんのか?〉


電話の向こうでかすかに吹き出す声が聞こえた。
快斗だ。
花恋とコナンは眉をひそめると、「切るよ/ぞ」と言ってコナンがボタンを押そうとすると、


〈ごめんなさい!あたしが悪かったから切んなよ!〉
『新一、切っていいよ』
「ああ」


コナンは電話の向こうで騒ぐ百合華の声を無視してためらわずに電話を切った。
そんな様子を見ていた灰原がクスッと笑う。


「ずいぶん、楽しそうな妹さんね」
『うるさいだけだって』
「私にはずいぶん楽しそうに見えたけど?」


核心をつく灰原に今度は二人が黙った。


「それにしても、よかったわね。夢の国にさらわれなくて」
『まだその話してんの?』
「あら、言っておくけど私、飛行船をUFOに間違えたことはないわよ?」


クスッと笑って言った灰原を花恋は横目でにらむ。
隣で笑いをこらえているコナンに肘打ちすると「グッ」と横腹を抱えた。


「だからそれはいてぇって言ってんだろ」
『笑ってるからじゃん』


べー、とコナンに向かって舌を出す花恋にコナンは口元をひきつらせて追いかけ始めた。


「待てこら!」
『待たない!』


笑いながら追いかけっこをする二人に子どもたちが不思議そうに首をかしげる。
歩美が「どうして花恋ちゃんとコナン君、追いかけっこしてるの?」と訊くと、


「子どもなのよ。彼らも」


フッと笑った灰原はもう一度花恋とコナンを見た。
コナンが追いかけて花恋が笑いながら逃げる。
捕まりそうになったら避けて、そしてまた追いかけっこが始まって。
今の二人は本当に無邪気な子どものように見えて、灰原はフッと笑った。
中身が高校二年生でも体は子どもなのだ。

ああやって無邪気に走り回るのもいいかもしれない───······。
歩美、元太、光彦、灰原に見られながら、追いかけっこをしているコナンと花恋は笑っていた。


「待てよ、花恋!」
『いやっぷーー!』


二人の楽しそうな声が公園に響いていた。
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