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ワイヤーを巻き上げて飛行船の屋根にたどり着いた四人は、慎重に屋根を歩き、ハッチのある中程までやって来た。


「そんじゃ、まあグットラックってことで」
「おめえらは行かねえのか?」


コナンがたずねると、白と黒のマントをひるがせたキッドとブラックはフッと笑い、風を避けるために排気口の前に座った。


『あたしたちはここでしばらく様子見だ。宝石はリーダーの手に渡っちまったし······と、そうだ』


ブラックはスーツのポケットから何かを取り出し、「ほれ」と投げる真似をした。


『ちょ、ちょっと!』


花恋が慌てて近づいて受け取る。
それは一枚のシールだった。


「何だこれ?」
「次郎吉さんの指紋シールだ」


次郎吉が公園で毎朝体操をしていることを知ったキッドとブラックは、小学生の男の子にサッカーボールを次郎吉の元へ転がすよう依頼し、次郎吉にサッカーボールを拾わせて指紋をゲットしたのだ。


(こいつら、小学生に何やらせてんだ······)


思わず眉間にしわを寄せて花恋が二人をにらむ。


「今回は指紋認証式のガラスケース、って読みはズバリ当たったんだが······もう用ねえからおめえらにやるよ」


キッドはそう言うと頭の後ろで手を組み、排気口にもたれた。
その隣で花恋からの睨みに耐えていたブラックが思い出したように花恋の顔を見返す。


『にしても、おまえらの大事な幼馴染み、気をつけてやった方がいいぜ』
『え?』


天井のハッチに手をかけたコナンと花恋が顔を上げた。


『あの藤岡って男に両腕をつかまれてさ。けどすぐに飛びのいたし、咳やクシャミをしたわけじゃねえから、うつっちゃいないとは思うけどな。一応、知らせとく』


ブラックの報告を聞いた二人は一瞬、険しい表情をした。
が、すぐにハッチを開けて下りていった。


(百合華のヤツ······見てたんなら助けろ。お前も蘭の幼馴染みだろーが······)


***


船内に下りたコナンと花恋はハイジャックグループが仕掛け直した爆弾を探すことにした。
下段の通路を通り、喫煙室の裏側の外壁をのぞいてみる。
しかし、そこには爆弾はなかった。


「てっきりここに仕掛け直したと思ったのに······」


次に船首近くの燃料タンクを調べてみたが、そこにも爆弾はなかった。


『ここにもない。それとも、さっきとは別の場所に仕掛け直したのかな······?』


二人は通路に戻り、船体の後方へ移動した。
先ほど歩美と光彦が爆弾を見つけた燃料タンクをのぞくと───同じ場所に爆弾のケースが貼り付けられていた。


『新一、あったよ······!』


爆弾を取り外した二人は、元太が爆弾を見つけた別の燃料タンクに向かった。
すると、やはり同じ場所に爆弾が仕掛けられていた。


「結局、見つかったのは二つだけか······。しかも仕掛けてあったのは、元太や光彦たちが見つけたところ」
『なんで?どうして肝心の細菌をばらまいた場所には仕掛け直さなかったんだろう······』
「さあな」


二人は犯人の不可解な行動に疑問を持ったが、まずは爆弾の解除が先だと思い、爆弾のケースを開けようとした。
すると、花恋の携帯電話が鳴った。


〈こら、蓮華に工藤!またかける言うといて、ちーっともかけてけえへんやないか!〉
〈蓮華?くどう?〉


隣に立っていた和葉が眉をしかめる。


〈あ、いや······くどいでコナン君に花恋ちゃん〉


平次は慌てて横を向き、苦し紛れにごまかした。
電話に出たとたん、怒鳴られた花恋は一瞬顔をしかめてすぐに携帯のスピーカーを押した。


『あ、ごめん。すっかり忘れてた』
〈ったく。今どこにいてるんや?〉
「飛行船の中だ」
〈もう戻ったんか?すばしっこいやっちゃなあ〉
『それよりも何の用?今、忙しいんだけど』
〈何や、冷たいやつやなぁ。犯人がネットに飛行船のことバラしよったから、大阪中がパニックになってしもてるぞ〉
「『何!?』」


思わずコナンと花恋は顔を見合わせた。


〈電車の駅は、大阪から西へ逃げる人間で超満員や。高速道路や下の道も、大阪から西へ行く車で大渋滞やで。銀行の行員や警備員もみーんな避難させられとるらしいから、強盗するんやったら今やな〉


平次の笑う声が聞こえてきて、花恋も上にいる快斗と百合華を思い浮かべてハハ···と笑った。
すると、電話の向こうから小学生ぐらいの声が聞こえてきた。


〈それはやめた方がいいですよ。今はどこもセキュリティが万全ですから〉
〈冗談や、冗談。大人の話に口をはさむな!〉
「『セキュリティ······?』」


携帯電話ごしに聡の声を聞いた二人の胸に、何かが引っ掛かった。


『おい』


突然、二人の肩に手が置かれ、二人がビックリして振り返ると───キッドとブラックが立っていた。


「何だ。おどかすな!」
「面白いもんが見えるぞ」


キッドがニヤリと微笑み、天井を指さす。


『え?ごめん、またかける!』


花恋は慌てて電話を切り、キッドとブラックが指さす方向を見上げた。


***


飛行船の最上段に着いた二人は、キッドとブラックに続いて天井のハッチから屋根に上った。


「何だよ、面白いものって」


コナンに手をかしてもらい、屋根にのぼると───スカイデッキの左右に開いた展望窓から大量の白い煙が流れ出ていた。


『何、あの煙······!?』


二人はハンカチで鼻と口を押さえながら屋根を歩き、身体をうつぶせて展望窓からスカイデッキをのぞいた。
すると、スカイデッキの中央でキャットEが大量の発煙筒をたいているのが見えた。


「発煙筒!?どういうことだ?なぜ煙······」


身体を起こしたコナンは伸縮サスペンダーを屋根に取り付け、手でつかんで命綱にしながら屋根を慎重に下りて飛行船の下をのぞいた。
眼下には三重県・奈良県・京都府をまたがる笠置山地が見える。


「この山を越えれば、奈良だ。飛行船が煙吐いてるんで、奈良の人たちがぶったまげるだろうな」


白いマントをひるがえしながら屋根の上に立っていたキッドが言うと、


「たまげるだけじゃない。パニックだ!」


コナンは伸縮サスペンダーを引っ張りながら屋根に上った。


『パニック?』
『ヤツらがネット上で細菌や爆弾のことを公表したんだって。今頃、街中の人が避難させられて───』
「まあ、奈良がそうなっとしたら、泥棒にとっちゃ大ラッキーだけどな!」
「バーロ!人がいなくなっても、今はどこでもセキュリティが───」


と言いかけて、コナンと花恋はハッとした。


『セキュリティ······?』


花恋の言葉にキッドとブラックがフッと微笑む。


『まさか!だから奈良に───』
『かもしれないな』


ブラックとキッドも二人と同じ結論に至ったようだった。


((でも、だとしたら······))


二人の脳裏に疑問が浮かぶ。


((何でアイツら、こんなことのために細菌を······?))
_9/14
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