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澄み渡った青空の下、トロピカルランドの城から鳥たちが飛び立つと、その鳥を追うように、巨大なクジラのような形をした飛行船が現れた。
ボディの横には『BellTree T世号』と書かれている。
飛行船の船首近くには小部屋のような操舵室のゴンドラが、そして中ほどと後方には昆虫のような四機のプロペラが据えられたエンジン室のゴンドラがあった。
飛行船には下層のBデッキ、上層のAデッキ、さらにその上にはスカイデッキがあり、コナン、花恋、蘭、阿笠博士、園子、灰原、歩美、元太、光彦はAデッキのラウンジに設けられた傾斜した長い窓から、眼下に広がるトロピカルランドを眺めていた。


「トロピカルランドだ!」
「お城が小さく見えますね!」
「おもちゃの遊園地みたい!」


元太、光彦、歩美がはしゃぐと、園子も「うーん、絶景、絶景!」と満足そうに眼下の景色を眺め、蘭はラウンジで背中を向けて座っている小五郎に声をかけた。


「お父さん、すごい景色だよ。ねえ、こっち来て見れば?」
「うるせえ!今考えごとしてんだ!」


小五郎は背中を向けたまま叫んだ。
その顔にはじっとりと汗がにじみでている。


「そういえば、毛利君は高い所が苦手じゃったな」
「そんなんじゃねえ!」


阿笠博士の言葉に小五郎は必死で否定したが、展望用の窓に決して近づこうとしない小五郎を見れば一目瞭然で、コナンと花恋はハハハ······と笑った。


「ねえ。キッドさんとブラックさんはいつもこんな景色を見てるのかなあ」
「うらやましいですね」


歩美と光彦が話す横で、元太が「でもよぉ······」と園子を見た。


「キッドとブラック、ホントに来んのか?」
「来るわよ。次郎吉おじ様の所にちゃんと返事が来たんだから。ほら!」


園子は携帯電話を取り出し、写メしたキッドとブラックの予告状を見せた。


「えー、『へのご······んでお······けします』?」
「『はあ?』」


園子と花恋が眉をしかめ、園子が携帯の画面を見る。


「あんたねえ、ひらがなだけ読んでどーすんのよ!」


元太がエヘヘ···と頭をかくと、園子は「ったく。いーい?」と予告状を読みはじめた。


「『飛行船へのご招待、喜んでお受けします。ただし、七十二歳のご高齢の貴方に六時間も緊張状態を強いるのは忍びなく、夕方、飛行船が大阪市上空に入ってからいただきに参ります。それまでは存分に遊覧飛行をお楽しみください。怪盗キッド 怪盗ブラック』」


文面の最後にはおなじみのキッドとブラックの自画像が描かれていて、


「あ〜、私のこともいただきに来てくれないかしら、キッド様〜!ブラック様〜!」


頬を赤く染めた園子は携帯電話の画面に何度もキスをした。
その姿を見た灰原がコナンと花恋を振り返る。


「前から思ってたけど、彼女、かなりユニークな性格ね」
「フッ······まあな」
『見てて飽きないっしょ?』

(そのブラックの正体が私の双子の妹って知ったらどーなるかねぇ······)


コナンと花恋が苦笑いをすると、ラウンジを見回した阿笠博士が園子にたずねた。


「ところで、今回の客はわしらだけなのかな?」
「え?ああ確か、藤岡さんってルポライターの人が······あ、あの人」


園子はラウンジに入ってきた半袖シャツ姿の男を指差した。


「次郎吉おじ様とキッドとブラックの対決をぜひ書かせて欲しいって、自分から売り込んできたのよ」


藤岡はズボンのポケットに両手を突っ込んだまま展望デッキに腰掛け、窓から下を眺めた。
園子が「他には······」とラウンジを見回すと、


「あの、すみません。毛利小五郎さんでいらっしゃいますね」


メガネをかけた小太りの男が小五郎に声をかけた。
男は名刺を渡し、


「初めまして。日売テレビディレクターの水川と申します。それから、レポーターの西谷かすみとカメラマンの石本順平です」


と後ろに立っていたスタッフを紹介した。


「よろしくお願いします」
「ああ、どうも······」


かすみと順平が一礼し、小五郎も会釈を返した。


「今回、鈴木氏とキッド、ブラックとの対決を、うちが独占中継することになりまして······」
「ああ。確か、夕方から特番を······」


小五郎が言うと、水川は「はい」とうなずいた。


「本当は、いつかの空中歩行のときのように、局をあげて放送したかったんですが、あいにく時期が悪くて······」
「時期?ああ、『赤いシャムネコ』か」


水川は申し訳なさそうに笑った。


「ええ······七日以内に次の行動を起こすと予告があってからは、局では緊急事態に備えています」

((確かに······予告どおりなら、今日がその期限だが······))


小五郎と水川の会話を聞いていたコナンと花恋が眉をしかめると、次郎吉がルパンと四人の部下を連れてラウンジにやってきた。


「ふん、おかげでワシの自伝映画用のヘリの飛行許可が降りんかったわ。全くいまいましいドラネコどもじゃ!のう、ルパン」


ルパンがワンと吠えて答える。
水川はかすみと順平を連れて次郎吉に歩み寄った。


「どうもどうも、鈴木相談役。本日はよろしくお願いします。それにしても素晴らしい飛行船ですなあ」
「ふん。その素晴らしい船から中継するのにスタッフが三人とはのう」


次郎吉が不満げに水川たちを見る。


「あ、いや······例の事件で局が手一杯でして······」


水川が苦笑いすると、順平とかすみは事件の話をしだした。


「それにしても、犯人たちはあの細菌をどうするつもりなんすかね」
「そうそう。感染したらほとんど助からないって言うじゃない?」
「何か、飛沫感染でうつるらしいじゃないっすか」
「怖いわよね〜」


二人の会話を聞いていた元太が「冷やしタンタンメンでうつるのか?」と光彦に聞いた。


「飛沫感染です」


光彦があきれた顔で言うと、灰原がわかりやすく説明した。


「咳やくしゃみでうつるってこと。特に子どもにはうつりやすいから気を付けることね」


隣にいたコナンと花恋がフッと笑う。


((おめえ/哀だってガキだろ/じゃん······))


灰原の説明を聞いた歩美たちが「え〜!」と怖がっていると、藤岡が近づいてきた。


「なーに。殺人バクテリアだが何だか知らねえが、オレなんか病原菌がウヨウヨしてる所を飛び回って来たが、こうしてピンピンしてるぜ。人間様は細菌より強いんだ」
「で、ですよね!」


光彦がホッとした顔をする。


「もっとも、おめえらみたいなガキはコロッといっちまうだろうがな」
「やめてください!子どもたちを怖がらせること言うのは」
「そうよ。無神経すぎるわ!」


蘭と園子が注意すると、藤岡はハハッと笑い「平気、平気」とラウンジを出ていった。
不安げな表情を浮かべる子どもたちを見て、次郎吉が「なあに」と笑った。


「たとえ日本のどこで細菌がバラまかれようが、この飛行船に乗っていれば大丈夫じゃ。安心せい」


そう言って豪快に笑う次郎吉に、コナンと花恋はハハッと苦笑いした。


((ずっと飛んだままでいるならな/ね······))


***


飛行船が優雅に空を飛ぶ中、コナンたちはラウンジから通路に出て、左舷側のキャビンに足を踏み入れた。
ラウンジと反対側のキャビンはダイニングになっていて、白いクロスがかけられた丸いテーブルと角テーブルが並んでいた。


「こっちにも窓があるぞ!」


元太、光彦、歩美がはしゃぎながら手すりで仕切られた展望デッキへと走っていく。
そんな三人を見ながら灰原、阿笠博士、花恋、コナンも展望デッキの中央へと歩み寄った。


「ほんと楽しそうね、あの子たち」
「ああ。あんな小さなうちから飛行船に乗れるとは、園子君に感謝せんといかんわい。彼らにとっては、まるで大空に浮かぶ雲に乗っているようなもんじゃからのぉ······」


阿笠博士の言葉に、花恋とコナンはフッと笑う。


「ん?」
「あ、いや······ちょっとガキの頃のことを思い出してさ」
『蘭のヤツ、初めて飛行船が飛んでいるのを見たとき、『UFO』だって大騒ぎしたんだ。まあ、風船のバケモノが空を悠然と飛んでるんで、ビックリしてそう思ったんだろうけど······』
「おめえかって、最初は蘭と一緒に騒いでたじゃねえか」
『なっ!最初だけでしょ!』


からかうようにニヤニヤしながらこっちを見てくるコナンに花恋が顔を赤くして怒鳴り返した。
蘭と飛行船を眺めたときのことを思い出して花恋が笑みを浮かべていると、


「あら。メルヘンチックなお姫様の自慢話?」


灰原が嫌味っぽく言って窓に近づいていった。


『べ、別に自慢じゃないよ』
「でも、十分女の子らしさはアピールしてるのよ。私だって、この空飛ぶ魔法の船に乗って、雲の上の夢の国に飛んで行きたいもの······」


微笑みながら外の景色を眺める灰原の意外な発言に、コナンと花恋と阿笠博士が呆然となった。
灰原が三人を横目でチラリと見る。


「冗談よ」
「だ、だよな······」
『なんか、ちょっと焦ったわ······』


コナンと花恋と阿笠博士は苦笑いをした。
すると、そこへ蘭と園子が出入り口から顔を出した。


「みんなー、次郎吉おじ様がスカイデッキに案内してくれるって!」
「ビッグジュエルが見られるわよ!」


窓から景色を眺めていた元太たちは「やったー!お宝、お宝!」と出入り口に向かって走ってきた。


「よぉし!お宝が見たいかー!?」
「「「おー!」」」


拳を突きあげた三人が園子の後を着いていき、蘭が「花恋ちゃんたちも行くよ」と声をかける。
花恋とコナンが行こうとすると、灰原がフッと笑みを浮かべた。


「まぁ、どっかのピーターパンたちに横取りされて夢の国に連れて行かれないように、しっかり手綱握っとくのね」
「······何だそりゃ」


コナンは眉をしかめながら灰原の後ろ姿を見つめる。


『あ、博士。さっきのUFOの話、蘭には内緒だよ』
「わかっておる」
「蓮華の話もあるしな」
『っるさいなー!』


阿笠博士がウインクし、二人で追いかけっこをしているコナンたちも灰原に続いてダイニングを出ていく。
すると、ダイニング中央にある配膳室の前に立っていた、そばかす顔の若いウェイターと髪の長いウェイトレスが、フッと微笑んだ───。
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