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『堂本一輝?』


蘭から蓮華の携帯に電話がかかってきて花恋は、歩きながらコナンに貸してもらった蝶ネクタイ型変声機を口に当てた。


〈知ってるよね、蓮華〉
『うん。先週、爆破事件のあった音楽アカデミーの創設者でしょ?』


花恋が答えている横で、コナンは目の前の黒焦げになった建物を見た。


(ってゆーか、今そこにいるんだけど······)


爆破事件を知った二人は、今まさに現場の堂本アカデミーに来ていたのだ。
爆発が起こった別館の前には警察によってブルーシートが張られ、立ち入り禁止になっている。


〈堂本さんって有名なピアニストだったのに、突然オルガンに転向しちゃったのよね。それで、新しいホールを作るのに、ドイツの古い教会のパイプオルガンを運んできたって······〉
『うん。バッハが実際に弾いたとかっていうヤツでしょ?』
〈その堂本ホールのこけら落としコンサートを見られることになったの。しかもリハーサルも見せてくれるって!園子の口利きで〉
『そういや、堂本ホール作ったの、鈴木建設だったね』


鈴木建設は、鈴木園子の父親が会長を務める鈴木財閥傘下の会社だ。
花恋は携帯電話で話しながら、コナンと一緒に別館と道路を隔てた正面の木立のところを歩いた。
下を向き、芝生のあたりを注意深く見ていく。


((······!))


すると植え込みの下に、ススが付着したピアノの鍵盤が落ちていた。
おそらく爆発現場の練習室にあったピアノの鍵盤だ。
爆発で飛んできたのだろう。
コナンはハンカチを使って拾い上げると、別館を振り返った。
道路を隔てた別館からここまではずいぶん距離がある。


((こんなところまで飛んできてたのか······))

〈ねぇ、行こうよ蓮華、新一!あのストラディバリウスを生で聴けるんだよ!〉


蘭の声が聞こえてきて慌てて携帯電話を耳に近づけた花恋は、別館の近くで誰かがたたずんでいるのに気付いた。
コナンの袖を引っ張り気づかせると二人で顔を見合わせ、花恋はポケットにいれていたメガネを取り出してコナンと一緒に犯人追跡メガネをズームアップさせてみると、それは初老の紳士だった。
白髪に黒縁メガネをかけ、紺のジャケットをはおったその紳士は、爆発現場の方をじっと見つめると、自分の手元に視線を落とした。
二人がさらにメガネをズームアップする。
すると、紳士の手には焦げたピアノの鍵盤が握られていた。


((何だ、あの人······?))


やがて紳士は少し離れたところに停めてあった車に戻っていった。
二人はとっさにその車のナンバープレートを見た。

〈新宿501 つ 52−83〉

車が去っていくのを見送っていると、


〈ちょっと!聞いてるの、蓮華!?〉


携帯から蘭のイラついた声が聞こえてきて、花恋はハッとした。


『ああ······ごめんごめん。あいにく今、事件の調査で忙しくてさ』
〈少しでも時間取れない?リハーサルは明後日で······〉
『残念だけど、私と新一はパス』


コナンがズボンのポケットから手帳を取り出すと、花恋がそれをのぞきこんだ。


〈コンサートは来週の火曜日〉
『無理だってば。事件の調査だって言って───』


言い終わらないうちに蘭が〈でも〉と口を挟んだ。


〈終わってるかもしれないじゃない。一応、蓮華と新一の分も園子に······〉


コナンは手帳をパラパラと片手でめくり、車のナンバーを書き込んだ。
花恋の顔が真横にあるためコナンにも蘭の声が聞こえていた。


「いらねえって言ってんだろ?余計なおせっかいは······」


やめてくれと言おうとしたとき、手帳が芝生の上に落ちた。


〈余計なおせっかい?〉


蘭のカチンとした声が聞こえてきて、コナンはしまった!と思った。
その隣では花恋が頭を抱えている。


「あ、いや······」
〈えーえー、そうでしょうよ!どーせ私は余計なおせっかい焼きの空手バカですよ!〉
『な、何もそこまで新一は言ってないって······』
〈いいわ。どーせストラディバリウスを聴いても、新一はホームズになんかなれっこないんだから。蓮華はなれるけどね〉
「何ぃ?」


今度はコナンが蘭の言葉にカチンときた。


〈蓮華はともかく、新一······音痴だし!〉

(蘭、てめえ······)


花恋が首を振ってため息をついている横で、弱点を突かれたコナンが思い切り不機嫌になると、


〈じゃあせいぜい頑張ってね。音痴の名探偵さん!またね、蓮華!〉


捨てゼリフをはいた蘭がブチッと電話を切った。


「······ったく」
『アハハ······』


苦笑をして電話を切った花恋が小さく息をつくと───すぐに携帯が鳴った。


『うわっ!』


驚いて持っていた携帯を見たが、鳴っていたのはポケットに入れた花恋用の携帯電話だった。
しかも着信は蘭からだ。


『もしもし?』
〈あ、花恋ちゃん?今日の晩ごはん、何がいい?コナン君もそこにいるなら聞いて欲しいんだけど······〉


携帯から聞こえてきたのは先ほどまでの怒った声とは打って変わり、いつもの明るい蘭の声だった。


〈カレーでいいかなぁ、それとも何か───〉
『あ、うん。カレーがいいや』
「ボクも花恋と一緒でいいよ」
〈よかった。ほんと花恋ちゃんとコナン君は素直で助かるわ〉


二人はアハハハ···と苦笑いした。


〈じゃあ気をつけて。暗くなるまでに帰ってらっしゃい〉
『はーい』


とびきり子どもの声で返事をすると〈じゃあね〉と電話が切れた。
携帯を切った花恋を見てコナンはハァ…と大きくため息をついた。


「コナンとしてなら、素直になれるんだけどな······」
『アハハ······それは私もだから』


新一と蓮華に戻ると、ついつい憎まれ口をたたいてしまう。
もう少し素直になれたら蘭とケンカせずにすむんだろうけど······。

花恋は携帯を腰巻にしているパーカーのポケットにしまうとコナンが手帳を拾い、車のナンバーの続きを書いた。
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