ピンポーン。ピンポーン。
インターホンの音が何度もして、ベッドで寝ていた新一はようやく目を覚ました。
誰だ、こんな朝っぱらから······。
ベッドから起き上がった新一は隣に視線を移して首を傾げた。
抱きしめて寝ていたはずの人物はいなく、シーツに触れてみるとほんのり暖かかったため数分前に起きてそのまま顔を洗いにでも行っているのだろうと推理をして、ふあぁ···とあくびをしながら階段を下りて、玄関に向かった。
その間もインターホンが鳴り続ける。
『あれ、新一起きたんだ』
「ん?よぉ、蓮華」
洗面所から出てきた蓮華が新一を見て驚いた顔をした。
妹が彼氏の家に泊まるからと蓮華も新一の家に泊まりに来ていたのだ。
部屋着のままだったが蓮華も鳴り続けるインターホンに気付いて玄関まで来たのだろう。
〈あ、新一?〉
インターホンに出ると、蘭の声が聞こえてきた。
「んあぁ、蘭かよ。何だよこんな朝っぱらから······」
〈何言ってんの!?もう11時よ、11時!〉
「え、マジ!?」
蘭の声が聞こえていた蓮華も目を丸くした。
新一はインターホンを切ると、サンダルをつっかけて玄関のドアを開けた。
「おじゃましまーす」
と玄関の前に立っていた蘭が入ってくる。
そして蓮華の姿を見てやっぱり···と目を細めた。
「蓮華の家に行っても誰も出てこないから新一の家に来たけど、やっぱりここにいたのね。百合華、いないの?」
『あー彼氏のとこかな』
「んで?今日は何だよ、日曜だってのに······」
新一があくびをしながら蓮華と一緒に廊下を進むと、背後で蘭がハァ〜と深いため息をついた。
「やっぱり忘れてた······」
『ん?何かあったっけ?』
「何かあったじゃないわよ!今日は久しぶりに空手の稽古が休みだって言ったら、じゃあ携帯買いに行こうって言ったの蓮華でしょ!?」
蘭に詰め寄られた蓮華は「ご、ごめん」と苦笑いをした。
そういえばそんな約束したっけ。
すっかり忘れてた。
「······ったく!どーせ2人して朝方までミステリーの本でも読んでたんでしょ」
「『ハハハ······当ったり〜』」
蘭はハァ〜とため息をつき、あきれた顔で新一と蓮華をにらんだ。
「とにかくさっさと着替えてきて!その間に何かお腹に入れるもの作っとくから!朝ごはん、まだなんでしょ?」
そう言ってキッチンへと進んで行く蘭の背中に、二人は「サンキュー」と声をかけた。
「いーい?ナマコ男のストラップ、忘れないでよ!」
『了解!!』
蓮華が敬礼をすると、振り返った蘭は疑いの眼差しを向けて、ハァ〜とまたため息をついた。
***
蘭が作ってくれた朝食を食べ終えた新一は、アイランドキッチンのカウンターでコーヒーを飲みながら新聞を読み始めた。
「あれ?」
ある記事を読んだ新一が声を出すと、流しで食器を洗っていた蘭が「ん?」と顔を上げた。
洗面所でヘアアレンジをしていた蓮華も丁度部屋へと入ってくる。
三つ編みのハーフアップが綺麗に出来上がっていた。
「ほら、先週水族館に行った日の夜、米花港の近くで車が爆発しただろ?」
『それがどうかしたの?』
「それがまだ解決してないらしいんだ」
新一が言うと、蘭は水道を止めてタオルで手を拭き、カウンターに広げられた新聞を覗き込んだ。
蓮華も新一の後ろから覗き込む。
“米花港での自動車爆発事件 いまだ原因つかめず被害者の身元も不明のまま──”「······ホントだ、何か怖いね」
記事を読んだ蘭は肩をすくめた。
「でもまぁ、じきに解決するだろ···日本の警察は優秀だからな」
新一の言葉に、蘭は「ははーん」と意地悪そうな笑みを浮かべた。
「その優秀な警察に依頼されるオレと蓮華って超優秀!って言いたいわけ?」
「まあな」
あっさりと返されて、蘭は眉をひそめた。
「······ちょっとは謙遜しなさいよ」
「ジョークだよ、ジョーク!」
苦笑いをした新一は飲み干したコーヒーカップを置いて、新聞を閉じた。
それを見た蓮華が財布と携帯をポケットに入れて二人に声をかける。
『んじゃあ、そろそろ出かけようか』
「そだね」
「ああ」
蓮華が歩き出すと、蘭と新一も後をついていった。
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