止まらぬ涙
私と彼は本来ならば幼なじみになんてなれないはずだった。
彼は四大貴族の嫡子で、私はその家の下っ端のメイドの家系の子。
本来なら話すことすらないはずだったけど、偶々両親の仕事を見に来ていた私と彼は出会い、その時の私は彼が嫡子とは知らなくて、一緒に遊んだ。
後々彼が嫡子だと知り、平謝りした記憶がある。
でもエリオット変わっていて、貴族の嫡子なのに私に向かって敬語はいらない、これからも仲良くしろと言ってのけた。
物凄く驚いたけど、彼の願いということもありその後もよく一緒に遊んだ。
従者を選ばなければならなくなった時も、彼は私とフィアナの家で出会ったリーオを従者にすると言ってくれた。
周りは大反対だったけど、最終的には受け入れてくれて、彼と同じ学校に入ることになった。
学校では彼に言い寄る女の子が沢山いた。
それを見る度に嫌な気持ちと羨望の気持ちがあった。
身分なんて気にしないで言い寄れる彼女たちがとても羨ましかった。
私の身分じゃ絶対に駄目だから、従者となれただけでも凄く嬉しかった。
例え従者という形でも、彼の側に居れるのだから。
そんな彼に、見合い話が持ち上がった。
もういい年だし、四大貴族の嫡子なのだから許嫁くらいいてもおかしくなかったのだが今まで一切いなかったのだ。
見合い話を聞いた彼、エリオットはとても嫌そうな顔をしていた。
『そんな嫌そうな顔しないでよ、エリオット。仕方ないことなんだから』
「………わかってる………」
四大貴族の嫡子である自分はちゃんと相手を見つけて家を守って行かなければならないとエリオットだって頭では理解している。
「わかってはいるが………まだいいんじゃねぇか?見つけた時でいいだろ」
『いやいや、本来なら既に決まってるはずだからね?』
私だって本心では見合いなんてして欲しくない。
でもちゃんと相手を見つけてもらわないと駄目だとわかっているから、ズキズキ痛む心を何とか押さえ込み、こんなところに私情なんて持ち込まないようにしている。
今の私は当主であるエリオットの父から頼まれ、エリオットに見合いを受けるように説得するのが仕事、と言い聞かせて。
『ナイトレイ公爵だって安心したいんですよ。エリオットがちゃんとした相手を決めてくれれば先は安泰ですから』
「………………わかった」
エリオットは渋々納得してくれた。
+++++
見合いの日、やってきた女の子とその両親と会い会話すると、エリオットは女の子と二人きりでお茶をする事になった。
咲はお茶の準備を乗せたワゴンを押し、二人がいるベランダに向かった。
扉の前で一声かけて中に入ると、女の子は明るい声でエリオットに話しかけていて、エリオットはそれに短く相槌を打っていた。
咲が来たのを見ると、エリオットは一息ついた。
まぁ、知り合ったばかりの人と、しかも女の子と二人きりにされたら大変だよね………
そう思いつつ、二人の間にあるテーブルにお茶やお菓子を並べていく。
並べ終えるとそのまま立ち去ろうとしたら、女の子に呼び止められた。
内心不思議に思いながら近づくと、女の子はエリオットには聞こえないように小言で話した。
「貴女、エリオット様とは親しいの?」
その言葉に咲は目を瞬かせた。
「他のメイドが来てもピリピリしてたのに、貴女が来たら空気が和らいだから」
女の子の言葉に咲は感心した。
まぁ長い間どれだけ話しかけてもそっけなく返されてたら気づくか………
『まぁ、長い間お世話をさせて頂いております』
メイドとしてというより友達のような感じなのだがそれは隠しておく。
「で、では一体どうすればエリオット様と仲良くなれるか教えて頂けると嬉しいのですが…………」
そう言う彼女は頬を赤く染めていて、あぁこの人はエリオットに惚れてるんだなってことがよくわかった。
『エリオット様は中々心を開いて下さりませんから、短時間で仲良くなるのは難しいのですが…………』
咲は女の子にエリオットが聖騎士物語やピアノが好きなことを教えてあげた。
ただし聖騎士物語の話をするときにはエドガーを好きといったような話をしないようにと注意しておいて。
女の子も聖騎士物語は読んでいるようだが、エドガー好きだったようで暫し思案していたがニコリと笑ってお礼を述べて、エリオットに向き直った。
漸くコソコソ話が終わって顔を上げると、エリオットが訝しげに此方を見ていた。
目が何を話しやがったと言っている。
そんなエリオットに咲は微笑むと一礼して退室した。
中からはまた女の子の声が聞こえてくる。
『どうか御幸せに…………』
私は例え従者としてでも、貴方の側にいられるだけで幸せですから………
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