春空の下で
「一緒にお花見に行きましょうヨ、咲」
『お花見?』
寒い冬が段々姿を消していき、ぽかぽかとした春の陽気が増えてきたある日の朝、レインズワース家の使用人である咲は同僚の言葉に首を傾げた。
今日は咲も同僚兼恋人 ザークシーズ・ブレイクも休みで、暇をもて余しているのだ。
『お花見って………花を見に行くってこと?』
「そうデス」
ブレイクはニコリと笑った。
「何でも春になるとお弁当や茶菓子などを持って外で花を見るそうデスヨ?」
『へぇ………ピクニックみたいな感じかしら?』
「そうじゃないデスカ?」
何でも桜という綺麗な花を咲かす木の下で、お弁当を食べたりしながら桜を見るらしい。
だが残念なことにこの国には桜はないし、そもそも桜という植物を見たことがない。
「ですが別に桜にこだわる必要なんてないデスヨ。時間も時間ですし、綺麗な花が咲いている場所でお茶をするというのはどうでしょう?」
本当はお弁当のような物を作って花を見ながら昼食にしたい所だが、今から作っていては昼食に間に合わない。
だからせめてお茶をしようとブレイクは提案をした。
『うん!やろっか、お花見!』
ニコリと笑って了承すると、ブレイクは嬉しそうに笑った。
+++++
各自でお菓子などの準備をして、昼頃に馬車に乗り、お花見をする場所に向かった。
レインズワース邸の庭でいいのではないかと咲は思っていたのだが、ブレイクに却下された。
お花見の場所はブレイクが選んだため、咲はどんな場所か知らなかった。
『でもザクスがお花見出来そうな場所を知ってたなんて意外だなぁ』
「酷いことを言いますネ…………私だってそれくらい知ってますヨ。提案したのは私なんですし」
ちょっと拗ねた様子で言うブレイクに咲は失礼だとは思うが笑みが溢れてしまう。
『ごめんごめん。でもザクスがお花見に誘ってくれて嬉しかった。最近デートも出来てなかったし』
色々と事件が立て込んでいて二人とも休みなど取れず、酷いときは何日か会えないときもあった。
それを見かねたお嬢様たちが僅かな休みが被るように配慮してくれたのだということを咲とブレイクは知っている。
馬車に乗って暫くすると、森の前で馬車は停止した。
馬車を降りるとブレイクは森の中にある一本の小道を歩いていく。
咲は日が差し込んで綺麗な森を見渡しながらブレイクを追いかけた。
「着きましたヨ」
『わぁ………!』
立ち止まったブレイクの横に立った咲は目の前に広がる光景を見て目を輝かせた。
森を抜けたその場所には色とりどりのたくさんの花が咲き誇っていて、蝶々がヒラヒラと舞っている。
あぁ春だなぁ、と実感する光景だ。
『お嬢様にも見せてあげたかったなぁ』
咲は花畑の中を駆け回りながら言った。
『連れてきてくれて有難う、ザクス!』
花畑の中で立ち止まり、ブレイクの方を見てニコリと笑いながら咲はそう言った。
「………っほら、お茶の準備をしますヨ!!」
『あ、そうだね』
持ってきた籠の中から地面に敷く布を取り出した咲はそれを広げた。
お茶の準備をしている咲を見ながら、ブレイクは片手で自分の顔を覆った。
あんな笑顔を突然こちらに向けてくるのは反則でショウ………
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