期末テストも無事終え、夏休みがやってきた。
WCに向けてここでどれだけ有効に力をつけるかが鍵になってくる。
練習終了後、リコの前に集まって夏休みの予定が発表された。
「今年は夏休みの始めと終わり、海と山で合宿二回よ!合宿は主に予選及びこの前の練習試合で感じた弱点克服が目的よ。更にうちは少人数だから体力向上は不可欠。通常練習は今まで以上に走るわよ」
「夏休み明けたらWC予選はすぐそこだ。この夏休みをどこまで有効に使えるかが大事だ。気合入れていくぞ!!以上!解散!!」
「「っつかれしたぁ」」
『あ、カントク。武田先生が練習後に来て欲しいそうです』
「あ、そう?じゃゴメン、先上がるわ。お疲れ〜」
『お疲れさまです』
リコに武田先生からの伝言を伝えると、リコは体育館を出て行った。
練習が終わったので選手たちは体育館の片付けを始め、美琴も片付けていく。
「全員!もっかい!!集合ー!!!」
『え?』
「なんすか一体………?」
「今日はもう練習終わりじゃ………」
日向の集合の掛け声に全員不思議に思いながら集まった。
日向は部員たちが集まったことを確認すると、真剣な表情で口を開いた。
「いいか……さっき合宿の話が出たがそれにあたって………俺たちは今……重大な危機に直面している」
「「!?」」
「今年、合宿を二回やるために宿は格安の民宿にした。よって食事は自炊だ………が、問題はここからだ。カントクが飯を作る」
日向が絶望した表情でそう言うが、リコの料理の腕を知らない一年たちは首を傾げた。
「………え?ダメ……なんですか?」
「当たり前だ!レモンはちみつ漬けとか見たろ!!つまりその………察しろ!!」
「料理の域は最早完全に超えてたな」
「じゃあ自分らが作ればいいんじゃ………?」
「そうしたいのは山々なんだが………練習メニューが殺人的すぎて、夜は誰もまともに動けん!!」
「でしたら、虹村さんが作れば良いのではないですか?」
そう口を開いたのは黒子だった。
黒子の言葉に伊月は美琴を見た。
「虹村さん、料理できるの?」
『えっと、人並みにはできると思いますけど………』
「虹村さんは中学の時も合宿で食事を作っていましたし、家で家事もされていてお弁当も自分で作っていますから大丈夫ですよ。一度おかずをもらいましたが、とても美味しかったです、卵焼き」
「ただマネージャー業も力仕事多いだろ?一人で全部できるか?」
『た、多分………』
「帝光の時は他にもマネージャーがいましたしね………」
「合宿は練習が一日中だもんなぁ………」
「………つーわけでな………」
翌日、美琴たちは日向に言われて家庭科室に集まった。
黒板には合宿メニュー試食会と書かれており、ここで今から表向きは合宿中のメニューを考えることになっている。
調理台には沢山の材料と調理器具が並べられ、リコはエプロンと三角巾をつけて準備万端だ。
一方、向かいのテーブルでは他の部員たちが冷や汗をかきながら完成を待っていた。
リコは手際よくトントンと音をたてながら包丁を使い、鍋で何かを煮込んでいる。
「………試食会?ですか」
ここで降旗が小声で声をかけた。
「ただの名目だ。"不味いから練習しろ"なんていきなり言えねーだろ。食べてからアドバイスして上手くなってもらう!」
「ちなみに先輩たち料理できるんですか?」
「そこそこ」
「大体なんでもー」
「できん!!」
「一番は多分水戸部かな。黒子は?」
「ゆで卵なら負けません」
「何ヒソヒソ話してるの?できたわよ!一品目は………カレーよ!!」
そう言って机に置かれたカレーは野菜が全て丸ごと入っていた。
『え!?』
「なんで!!?」
「いや……え?丸ごと!?さっきのトントントンはなんだったの!?」
「え?食べにくかった?」
「てゆうかなんでカレー?………カレーだよね?これ………」
「定番でしょ?まぁ見た目はともかく味は大丈夫よ!ただのカレーだし!」
「じゃあ……いただきまーす………」
意を決してスプーンを持ち、カレーを口に運んだ。
口に入れた瞬間、美琴は固まった。
『………………』
…………どうしよう…………何て言ったらいいのか………
正直、カレーならそう不味くなる料理でもないし、逆に不味く作るほうが難しいと思っていたのだけれど…………
お米は幾ら何でも柔らかすぎる………水の入れすぎ………?
野菜と肉は火が通ってないし………何でルーを入れただけのはずなのに謎の酸味と苦味………?
これ、アドバイスでなんとかなるのかな………!?
「おかわりジャンジャン言ってね!」
しかもカレーは寸胴に作られていて、まだまだ沢山あった。
先輩たちは顔を真っ青にしながらも必死に口に運んでいく。
「やっぱりあんまり………おいしくない………っかな………」
少し落ち込んだ様子でそういうリコの指にはいくつも絆創膏が巻かれていた。
それに気づいた日向は無言で口にカレーを運んでいく。
そして何とか完食すると立ち上がった。
「ごっそさん。うまかったけど、ちょっと辛かったから飲み物買ってくるわ」
そう言って日向は家庭科室を出て行った。
更に木吉も立ち上がると、寸胴にあったお玉を手にとった。
「味は個性的だけどイケルよ。料理に一番胎児なもんは入ってる、愛情がな。けどもしかしたら作り方がどっか間違ってるかもな。もう一回作ってみないか?」
「………うん」
『主将………木吉先輩………』
男前過ぎですよ、先輩方………
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