「GW明けたらすぐ予選かー早っえーなー」

「あと3週間ぐらい?」







GWを控えたある日の練習中、ふと一年の一人が呟くように言った。

春はGWが終わればあっという間にIHに向けての予選が始まる。

勝ち進めば夏にIHという全国の大舞台に出られるのだ。







「けど先輩たちって去年決勝リーグまで行ったんだろ?しかも今年は火神と黒子もいるし、1〜2回戦はまぁ行けんじゃね?」

『そんな楽観的な見方はしない方がいいんじゃないかな』

「え?」

「虹村の言うとおりだ」

「あいてっ!!」







美琴が一年二人にそう言うと、美琴に同意しながら日向が一年たちの頭を殴った。







「スイマセン………」

「一度負けたら終わりのトーナメントだぞ。一回戦でも決勝でも気を抜いていい試合なんてねーよ」







日向の言葉に一年たちは息を呑んだ。

美琴は日向の言葉に中学時代のことが脳裏を過ぎった。








二軍や三軍の練習試合はまだしも、一軍の試合は………

正直、中学三年の時は気を抜きまくっていたように思う。

お遊びのように試合をこなして、それでも勝っていた。








『だから、嫌なの………』

「主将ー、予選トーナメント表コピーしてきましたー」

「サンキュー。じゃ、みんなに回して」







部員の一人が予選トーナメントの表をコピーしてきた。

美琴もそれを受け取ると、トーナメントを確認した。

東京都で行われる全国大会都予選。

誠凛はAブロックに属しており、その中には"キセキの世代"の一人である緑間真太郎が進学した秀徳高校もある。








『緑間君とあたるのは………決勝ね』

「こーやってみるとやっぱ多いなー………って二枚目!?」

「A〜Dまで4ブロックある。各ブロックの頂点一校のみが決勝リーグ進出。更にその決勝リーグで上位3チームに入ってインターハイ出場。300校以上の出場校から選ばれるのはたった3校。1%の選ばれた高校生しか立てない夢の舞台、それが……インターハイ」

「…………なんとなく分かったけど、一つ間違ってるっスよ。選ばれるんじゃなくて勝ち取るんだろ。……です」

『!』









選ばれるんじゃなくて勝ち取る、か………








「ただいまー」







そこへ、他校に偵察に行っていたリコが戻ってきた。

今日、リコは予選の第一回戦で対戦する新協学園に行っていたのだ。








「海常の時にはスキップしてたけどしてねーな」

「カントク、今日はスキップとか………」

「するか!!」







そういうリコは明らかに不機嫌で怒っていた。







「公式戦でもヘラヘラしてるわけねーだろ」

『でも何かあったんですか?新協学園ってそんなに強い学校なんですか?』

「ちょっと厄介な選手がいるのよ。とりあえずビデオは後で見せるとして、まずは写メ見て」







そう言うとリコは日向に携帯を渡した。

携帯を見た日向は目を見開いた。

部員たちは日向の後ろから画面を見る。







『え?』








画面にはそれはそれは可愛らしい猫が映っていた。









『可愛い………』

「………ゴメン、次」

「次?」








日向が次の画像へと移ると、それを見て目を見開いた。

美琴も横から覗かせてもらうと、思わず息を呑んだ。








『こ、これって………』

「名前はパパ・ンバイ・シキ。身長200cm、体重87kg、セネガル人の留学生よ」

「セネガ………でかぁ!!」

「アリなの!?」

「留学って………てゆーかゴメン、セネガルってどこ!?」

「でかいだけじゃん?」

「…………………」

『いや、でかいっていうか………』








肩より上しか写ってないからあれだけど、肩幅からして体格は細身。

これで身長200cmってことは………もしかして、長い?








「このパパ・ンバイ………なんだっけ?」

「パパ・ンバ………」

「話が進まん!黒子君なんかあだ名つけて」

「パパ………"お父さん"で」

「何そのセンス!!?」

『パパだからか………』

「だからこのお父さんを………聞けよ!!」








黒子のあだ名に思わず腹を抱えて笑っている部員たちをリコは一喝した。








「特徴はセだけじゃなくて手足も長い。とにかく"高い"の一言に尽きるわ!戦力アップに外国人選手を留学生として入れる学校は増えてるわ。次の相手の新協学園も去年までは中堅校って感じだったけど………たった一人の外国人選手の加入で完全に別物のチームになってるわ。届かない……ただそれだけで、誰も彼を止められないのよ」







リコの言葉に部員たちは黙り込んだ。

リコの言葉に完全にビビっている。








「………あのね、だからって何もしないわけないでしょ!!ってわけで………火神君と黒子君、二人は明日から別メニューよ。予選本番は5月16日!!それまで弱音なんて吐いてる暇ないわよ!!」

「おう!!」








この日から予選に向けて更に厳しい練習が始まった。

毎日毎日練習を行い、本番に向けての実力をつけていく。

美琴もそんな部員たちを支えるために駆け回った。

そして迎えた5月16日、美琴たち誠凛バスケ部一行は予選が行われる体育館にやってきた。

誠凛は第一試合のため、10時からと早い時間だ。

第一試合のため着いて準備をするとすぐにコートに出た。

新協学園も既に反対側のコートで準備を始めているが、あの"お父さん"の姿が見当たらない。


<< >>