練習試合明けの学校。

いつも通り授業を受けていると、ポケットの中に突っ込んであった携帯が震えた。

先生にバレないように携帯を見ると、リコからメールが一斉送信できていた。

メールの内容を確認すると、一年生は全員昼休みに二年生校舎に集合と書かれていた。







『昼休み………?』







何かあるのかな………







授業が終わり、昼休みになって二年生の校舎に一年生揃って行くと、リコが笑顔で出迎えた。

そして笑顔で言ってのけた。








「ちょっとパン買ってきてv」

「は?パン?」

『パンですか?』

「実は誠凛高校の売店では毎月27日だけ数量限定で特別なパンが売られるんだ。それを食べれば恋愛でも部活でも必勝を約束される(という噂の)幻のパン。イベリコ豚カツサンドパン三大珍味(キャビア・フォアグラ・トリュフ)のせ!!2800円!!!」

「高っけぇ!!………し、やりすぎて逆に品がねぇ!!」

「海常にも勝ったし練習も好調。ここで幻のパンもゲットして弾みを付けるぞ!ってわけだ!」








リコの後ろにいた先輩たちもそう言った。








「けど狙ってるのは私たちだけじゃないわ。いつもよりちょっとだけ混むのよ」

「パン買ってくるだけだろ?チョロいじゃんですよ」

「ほい!」

「?」

「金は勿論2年生が出す。ついでにみんなの昼飯も買ってきて。ただし失敗したら………釣りはいらねーよ。今後筋トレとフットワークが3倍になるだけだ」








そういう日向は笑顔だが目が笑っていなかった。







「ホラ、早く行かないとなくなっちゃうぞ。大丈夫、去年俺らも買えたし」

「伊月先輩………」

「パン買うだけ………パン………パンダのエサはパ「「「行ってきます」」」








さっさと行こう、という一年の気持ちが一緒になり、美琴たちは購買に向かった。

購買の方へ行くと、いつもより騒がしく聞こえた。








「やっぱいつもより人多いみてーだな」

『早く行こう!』








購買に出る扉を開けると、美琴たちは目の前の光景に目を見開いた。









「パン買うだけって………マジかよ?」

「ほとんど全校生徒いねぇ!?」








購買の半径数メートルは人人人の人の山だった。

男も女も関係なく、皆周りの人を押しのけながら購買まで向かいパンを買おうとしている。







「カ……カオスだ………」

「とにかく行くしかねー。筋トレフットワーク3倍は………死ぬ!!」

『各自頑張って目指す?』

「虹村さんはここで待っていてください。女性が行くのは危険です」

『え?でも女の子も混じってるし大丈夫じゃない?』

「男も混じってんだし、俺らもいるんだからここで待ってろよ」








そう言って行こうとした火神を河原が止めた。







「待て……まずは俺が行く………火神ほどじゃねーが、パワーには自信があるぜ………」







そう言って河原は雄叫びを上げながら人ごみに突っ込んでいった。

だが人の壁は厚く、すぐに跳ね飛ばされた。








「ってゆーかよく見たらこれ………ハンパな力じゃ無理だぞ………ラグビー部のフォワード、アメフト部のライン組、相撲にウェイトリフティング、奴らのブロックをかいくぐるのかよ………」

「おもしれぇ………やってやろーじゃん」

「火神!」







火神は人ごみに突っ込んでいった。

何分か格闘していたが、すぐに人ごみから押し出されてきた。








「これが日本の混雑………!!」

「火神ィィィィ!!?」

「やっぱ全員行くしかねぇ!!」

「誠凛ーファイ!!オオ!!」







掛け声と共にバスケ部員たちは人混みに飛び込んでいった。







『が、頑張れー………』







男性陣に行くのを止められた美琴は離れた場所で彼らを見送った。

だが何度やっても彼らは人混みを突破できずにいた。

跳ね返ってくる彼らに自分も行くべきかと検討していると、ふと黒子の落ち着いた声が聞こえた。








「あの………買えましたけど………」

『え………?』








バスケ部の面々は黙り込んだ。

黒子の手には例の幻のパンがあった。

暫し沈黙した後、火神は黒子に掴みかかった。








「なっ………オマ………どうやって!?」

「人混みに流されてたら先頭に出ちゃったんで、パンとってお金置いてきました」








そう言うと黒子は火神の手にパンを置いた。







「?どうかしたんですか?

「いや……なんでもねーよ」

「さすがは幻の六人目はちげーな………」

『あはは………』







影の薄さってこんな時にも使えるのね………








その後、幻のパンが売り切れて人が減ったあとに他のパンや飲み物を買い込み、先輩たちが待つ屋上に向かった。








「買ってきま……した………」

「おつかれーありがとっ」

「こ……これ……例の………」

「あーいーよ。買ってきたお前らで食べな」

「え?いいんですか!?」

「いいって遠慮するなよ」







先輩たちに勧められてパンを一年で食べることになった。

まずは一番の功労者ということで黒子が食べることになった。







「………!これは………めっちゃ美味しいです」

「うお!?こんな幸せそうな黒子初めて見た!!」

『黒子君、そんな顔できたんだ………』







超幸せそうなんですけど。







黒子の次に降旗や河原、福田といった一年たちも食べていく。

火神は大きい方がいいと言って別のパンを食べ始めた。

そして最後のひと切れを美琴がもらった。







幻のパンは予想以上に美味しかったです。








 のパン
(IHに向けて)
(弾みをつけて)


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