ナルサスの思惑 7/7
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エラムは昨夜、上機嫌にぶどう酒を口にするナルサスの様子を頭に浮かべ、それから、となりで馬に鞍を置く異国の使者に目をやり、少し考えすぐに問うた。
「ナーマエさま。つかぬことを伺いますが、昨晩、ナルサスさまとどんなお話をされたのですか?」
自分がそんなことを聞くのが意外であるのか、ナーマエは驚いた様子になった。
「興味があるの?」
小屋の入り口から朝日が差し込んでいて、まぶしくてエラムは目を細める。
「はい。ナルサスさまが懐かしそうに話しておられたので」
エラムは尊敬する主人のことに口をはさむつもりはない。少年にそうさせたのは昨夜のナルサスの様子だった。
自分の主人は気まぐれなところがあるけれど、昨日は明らかに部屋を出たときと戻ってきたときの様子が違っていたのだ。
ナーマエは小首を傾げる。
「昨夜は、なにを話したか。カーラーンどのの話だったかな……」
「カーラーン……ですか」
どうも話の的を外したらしい。エラムは怪訝な顔をした。浮いた答えを期待したわけではないが、その話でナルサスが心を浮かすとは思えなかった。
そういえば自分の主人とこの使者はいつ出会ったのだろう。賢い少年はそう思って、そのあと手際よく質問をした。
やがて単純明快な質問が続き、そのうちにエラムは、ナーマエが輝く瞳を自分に向けていることに気がついた。少年はそれを不審に感じつつもしかし顔には出さなかった。
このときナーマエはエラムにひたすらの感心を寄せた。
ナーマエは仮にも学者であった。少年の主人への探究心の強さに、若い才能の新芽を見出したのかもしれない。