落とし穴 6/7
「話によると、日の国には不思議な力をもつ者がいるとか」
ナーマエはなんとなく、肩車の相談をされると思っていたので、急にそんな話題をふられて一瞬戸惑った。
「と、いいますと?」
「つまりですな、日の国の使者。わたしが言いたいのは、その力でわれらをここから外に出せぬかということです」
このパルスの騎士はなんて無茶苦茶なことを言うのだろう。
ナーマエは呆気にとられる。
「急になにをおっしゃるのです。それにどこでそんな話を……?」
「できませぬか? さすればあれはただのうわさでしたか」
騎士のひょうひょうとした様子に、ナーマエは調子がくるってしまった。
「いやなに、そんな力があるならばぜひこの目で見たい。それに、肩車をする必要などないのではと思ったのです」
「そういわれましても」
ナーマエは困惑した。実際のところ、騎士の話は嘘ではなかった。日の使者である彼女は不思議な力をもっていた。
しかしその力は万能ではないし、いつでも使えるわけでもなかった。
「騎士様、残念ながら私にそのような力はありません。そもそもそんな力があれば、ここに落ちたりしないのです」
「なんと……これは失礼いたした。日の国と聞いたものでどんな手練れが参ったかと……いや、それでは仕方がない」
騎士は気が抜けたような様子でそう言ったあと、こう続けた。
「ここはひとつ、手を貸していただきたい」
ナーマエは、こんどこそ肩車の話だろうと期待の目を向ける。