はじめましてと握手して



第一印象は「人形みたいなやつ」だった。


「今日からこの家に住むことになった秋原綾人君だ。仲良くするのだぞ、恭」

父さんが突然連れてきたのは俺よりも少し小さい子供だった。性別は男だが、見た目は女とそう変わらない。光を受けると青みを帯びる艶々した黒髪は美しいが、病的な青白い肌は痛々しい。大きな丸い金の瞳が2つ嵌め込まれている。まるで巨大なアンティーク人形だ。

「綾人君、彼が私の息子の恭だ。飛行機の中で話しただろう。挨拶しなさい」
「…挨拶?どうやってするのですか?」

綾人が無言を貫いているので父さんが助け舟を出したが、綾人には意味がないようだった。抑揚のない小さな声。見た目は可愛いのだが、俺の目の前に立っているのに、目線を合わせようとしない。生を感じない。ただ無言でそこに在るだけのもの。

「名前とか年を言ってみなさい」
「名前は秋原綾人、年齢は10歳」
「よろしくお願いしますは?」
「よろしくお願いします」

他人の言葉を真似するだけの、自分で何も出来ない、気持ち悪いやつ。

「父さん、何でいきなりこんなのが家に住むことになったんですか?俺は何も聞いていませんが」
「初対面の子に向かってこんなやつは失礼だろう。改めなさい」
「…すみません父さん。でもなんで…」
「綾人のご両親が戦争で亡くなってしまったのだ。綾人の父さんと私は旧友だったので私が綾人を引き取ることにした。親戚は誰もが二の足を踏んでいたのでな。お前なら理解できるだろう」

父さんは防衛省の副大臣だから、子供一人を余分に養うだけの財力はある。戦争中は誰もが生きるのに必死だから、親戚といえど他人に構う余裕がないのは理解できる。でも、でも。

「恭、屋敷の中を案内してやりなさい」
「…先生が来る時間なので失礼します」
「おい、恭…」

父さんの言葉を無視して俺は屋敷へと引っ込んだ。俺の対応はあからさまに悪いのに、あいつはこれっぽっちも表情を変えなかった。きっと何も感じてないんだろう。

こんなのが俺の生活に入り込んでくるなんて。





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