デッド・オア・アライブ



以下の文は残虐な表現を含んでいます。苦手な方はブラウザバックしてください。













今日は学校を昼から休んで防衛省舎で父さんと一緒に取材を受けていた。父さんは戦争の勝利を約束して、取材現場は興奮に満ち溢れていた。

やはり、戦争の勝利を望む声はとてつもなく大きい。父さんが偉業を成し遂げると信じているが、手伝いがしたい。戦争が長引くなら俺が防衛大臣になって父さんの跡を継ぐのだ。
その夢を再確認できただけでも大きな収穫だ。

取材が終わると家から迎えの車が来る手筈だった。駐車場で見つけた黒塗りのベンツの傍に運転手が直立不動の姿勢でいた。

「お疲れ様です、恭様。取材はいかがでしたか」
「父さんのお話を聞けただけでも有意義だった。帰りに書店に寄りたいんだが」
「かしこまりました」

この国では電子書籍が市場を席巻している。書店に寄らなくても本を買うことが出来るが、高島先生の影響で俺は書店で紙の本を手に取りながら選ぶのが好きになった。
本をたくさん読んで父さんのためになる知識を得よう。そんなことを考えながら運転手がドアを開けるのを待って後部座席に乗り込んで――――俺は驚いた。

「綾人!お前、なんでここにいるんだ」

綾人が後部座席にちょこんと座っていた。

「今日は学校が早く終わったので恭様のお迎えにご同行したいと仰りまして」

運転手がにこにこと言う。いたずらが成功したような笑みだ。

「おかえりなさい」
「…ただいま」

俺がシートに座ると車は発進した。綾人は何を話すでもなく窓の外を眺めている。俺が話しかけなければ綾人は無言になるが、この沈黙は別に嫌じゃない。


「あ」
「ん?どうした」
「高島先生」

綾人は窓の外を指差した。街頭テレビに確かに高島先生の顔が大きく映っていた。討論番組のようだ。

「先生は高名だからたまにテレビに出てるぞ。でもお前よく顔を覚えてたな。家に来た日に会ったきりだろ」
「恭の授業の後に本をくれる」
「…せめて物だけでも…か」

物では綾人の傷は癒えない。それは俺がやるべきことだ。先生はそう俺に言った。それでも、先生は戦災孤児である綾人のために何かがしたかったのだろう。

「ちゃんとお礼言ってるか?」
「言ってる。ありがとうございますって」
「そうか、偉いな」

気がついたら俺は綾人の頭を撫でていた。丸くて触り心地のいい頭だ。綾人のぽかんとした顔が目に入って、そこで俺は我に返り慌てて手を離した。

「あ、いや…まあ、俺の言ったことを実践してるから…うん」
「ありがとう?」
「こんなことに言わなくていいぞ…」

俺はいたたまれなくなってそっぽを向いた。窓の外の景色は市街地から住宅街へと移り変わっていた。書店まであと10分もかからないな。







突然だった。車ががたりと揺れて失速し、運転手は車を道路脇に寄せた。

「おい、どうしたんだ?」
「すみません。どうやらタイヤがパンクしたようです。見てまいりますので恭様はそのままでいらしてください」

運転手はドアを開けて車を降りた。綾人はスモークの窓をじっと見つめている。

どん、という音が聞こえた。何か大きなものがボンネットの上に乗っかった。スモークは後部の窓だけだから、フロントガラスからは外の様子がよく見える。


鮮血。フロントガラスに飛び散ったそれはゆっくりと下に流れていく。ボンネットに乗っているのは黒いもの――――運転手の身体だ。

「な、なに…おい、大丈夫か!?」

俺は急いで車の外に出ようとハンドルに手をかけたが、腕を掴まれた。

「綾人、放せ!」
「駄目!」

綾人は今まで聞いたことのない大声を出した。真剣な表情にたじろいでしまう。

「頭を撃ち抜かれた。即死」
「な、んでそんなことわかるんだよ。病気かもしれないだろ」
「見えた。この車は複数の銃に狙われてる」
「は…」

銃?死んだ?

「何言って…」
「撃ってこないから殺人や強盗じゃない。多分誘拐目的」
「誘拐って…俺を…か?」

なんで綾人は冷静なんだ。何がどうなってるんだ。

「早く逃げないと、そうだ、助けを」

俺は携帯を取り出して震える指で通話ボタンを押そうとしたが、

「こんにちは恭様。余計な真似はしないで俺達についてきてもらおうか」

後部座席のドアが開いて銃口と男達が顔を出した。

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