皆さんこんにちは、私の名前はなまえって言います。高校一年生です!実は私…とある人に恋をしてるんです!先日、困っているところを助けてくれて、その優しさにハートを貫かれてしまいました。その日の夜は、一睡も出来ませんでした!その事を友達に話したらなんと!その人の誕生日がもうすぐだと聞きました!そして私は、お礼も兼ねて誕生日プレゼントを渡すことになりました!ハッキリ言って、私には難易度が高過ぎます。なので、私は何度も何度もシミュレーション、イメージトレーニングをしました。そんな特訓の日々が過ぎ、いよいよ当日が来ました。

この物語は、ど緊張の私がテンパりながら想いを寄せる人にプレゼントを渡すというだけの話です…



10月14日、私は学校の渡り廊下で目的の人を待っている。


「ハァ…ちゃんと沢田先輩に渡せるかな…」

…沢田綱吉先輩、一つ年上の先輩で、女子に人気がある人です。そんな先輩がこの前、自転車の鍵を無くして困っていたところをたまたま通り掛かって、“どうしたの?”と尋ねて来たので、私が事情を説明したら、快く鍵を捜すのを手伝ってくれたんです。その時の先輩が本当に優しくて!それから先輩のことが気になって気になって、現在に至る訳です。

…って、思い出したらまた緊張してきた!どうしようどうしよう!!一人焦っていると、沢田先輩の声が…

き、来たー!

沢田先輩は何やら楽しそうにお喋りしている。沢田先輩の両脇には、これまた女子に人気のある獄寺先輩と山本先輩がいる。山本先輩は野球部の要であり、この前主将に就任した。獄寺先輩は見た目が怖い、それに謎の人だ。何故か沢田先輩のことを“十代目”って呼ぶんです…“十代目”って何?何の十代目?

沢田先輩は…言い方があれですけど、変な人とよく一緒にいる。三年の笹川先輩とか雲雀先輩、外国人とか赤ちゃんとか…って!そんなこと考えてる内にどんどん近付いて来るよ!が、頑張れ私!頑張れなまえ!私なら出来る!


「…よ、よし!」

私は気合いを入れて、勢いよく沢田先輩の前に出る。


「さ、沢田先輩!」
「誰だテメー!!」
「!?」

今さっき入れた気合いはどこかへ行ってしまったみたい、私は言葉も出ず怯えきってしまう。だって…獄寺先輩が怖いんだもん…どうでもいいですけど、獄寺先輩が持ってる筒状の物は何ですか?


「…!ス、ストップ獄寺君!」
「で、ですが…敵かもしれないですよ…」
「それはねぇーだろ、あの子すげぇー怯えてんぞ」

そう言いながら、野球部なのに何故か構えていた竹刀を仕舞う山本先輩。それに…て、敵?敵って何ですか!?私は敵じゃないですよ!


「キミ、大丈夫?」
「…は、はい」

沢田先輩は半泣きの私に心配そうに言ってくれた。やっぱりいい人だよ、この人!


「確かキミ…」
「は、はい!この前、困っていたところを助けて貰いました一年のみょうじなまえです!」
「ああ、やっぱり」
「十代目に助けて貰っただぁ?テメー本当にマフィ「ゴホンゴホンッ!ご、獄寺君!?」
「…?」
「あ、あーそうか!獄寺、お前そんなに“マフィン”が食いてぇーんだな!この子、ツナに用があるみてぇーだし、オレと二人でマフィン食いに行こうぜ!」
「は?何言って…って!離せ野球バカ!!」
「じゃあオレ達は先に行ってるから、後でツナん家でな!」
「う、うん!」

山本先輩は獄寺先輩を無理矢理どこかへ連れてってしまった。私と沢田先輩の二人だけになる。そういえば、何で会話の中に急に“マフィン”が?獄寺先輩はそんなにマフィンが好きなのかな?まあ、私も好きだけど、マフィン…ん?二人だけ?

…わ、私!今、沢田先輩と二人きりだ!

私の顔は一気にゆでダコの様に真っ赤になる。どうしようどうしようどうしよう…!ピーポーピーポー、エマージェンシーエマージェンシー!緊急事態発生!緊急事態発生!


「…だ、大丈夫?」
「は、はひっ!大丈夫です!」

私ってば何して…って!今“はい”を“はひ”って言っちゃったよ!もう、恥ずかしいよ〜!


「…みょうじさんは、オレに用があるんだよね?」

その言葉で私は我に返った。私はホントに何やってるの!?プレゼントを渡さなきゃ!


「そ、その…友達から今日が沢田先輩の誕生日だと聞きまして…」
「うん、今日はオレの誕生日だけど…」
「そ、それで…この前のお礼も兼ねまして、誕生日プレゼントをと…」

たどたどしい言葉と共に、私は用意していたプレゼントを沢田先輩に差し出す。嗚呼、全然シミュレーションの意味がなかったよ…


「ホントに?別にお礼なんていいのに、ありがとう!」
「いえ、大した物じゃないんで…」
「開けて見てもいいかな?」
「えっ!まあ、いいですけど…」

私がそう言うと、沢田先輩は嬉しそうに包装紙を解く。
そんなに嬉しがられても、本当に大した物じゃないんですけど…


「わあ!手袋とマフラーだ!これ、高かったんじゃない?」
「いや、安物ですよ…」

プレゼントを何にしようか考えて考えて、考え抜いた結果が無難に手袋とマフラー、


「時期がちょっと早いですけど…」
「みょうじさん、ホントにありがとね!絶対に使うから!」
「は、はい…」

沢田先輩は眩しい程の笑顔を浮かべて言ってくれる。先輩は本当に優しくていい人だ。嬉しくて、せっかく落ち着いてきたのにまたドキドキしてきた。顔も煙が出るんじゃないかって位また熱くなる。


「そうだ!これからオレの家に来ない?」
「…えっ?先輩のお家…?」

えっ、えっ!?沢田先輩のお家!?いやいやいや…!お家って!お家で何をするんですか!?ダメダメダメ…!!


「友達がオレの誕生日パーティーを開いて…って、みょうじさん大丈夫?顔が真っ赤だけど…」

私は焦って、変な事を勝手に想像して勘違いして、もうパニック状態だ!ピーポーピーポー、緊急警報発令!緊急警報発令!至急その場から避難して下さい!至急その場から避難して下さい!


「あ、あ…あの…」
「ん?」
「す、すみません!ごめんなさい!お断りしますー!!」

私は早口でそう言い捨て、沢田先輩を一人残して走って逃げた…



マフィンとテンパり少女



その日の夜、


「ハァ…もうヤダ…恥ずかしい…こんな私、死んでしまえ…」

帰りに買ったマフィンを少しずつ口に入れながら、私は何度も呟いた。その時食べたマフィンの味はよく覚えてないけど、しょっぱい様な、ほろ苦い様な…とにかく、甘くはなかった。

その日、醜態を晒した私が沢田先輩…いや、ツナ先輩とより深く関わる様になるのは、まだ先の話…


end.