午後5時50分。腰に巻いたエプロンの紐を、おへその下でキュッと結ぶ。今日は金曜、明日は休み。社会で忙しく働くおじ様方にとって羽目を外すには充分すぎるシチュエーションだ。さぁ、今日は決戦の金曜日!かかってこい親父ども。
 大学に通うため、実家を遠く離れ一人暮らしをしている私は、近くの居酒屋でアルバイトをして生活している。


「おはようございます。」

午後6時。仕度を整えて挨拶をすれば、一週間で最も居酒屋が忙しくなる夜の始まりだ。


「あ、おはよーなまえ」

 挨拶を返してくれたのは職場で唯一の同い年、沢田綱吉くんだ。バイトでは先輩にあたる彼だが、グラスは割るわ、おつりは多く渡すもわ、料理は別のテーブルに提供するわで、失敗ばかりを繰り返し社員さんからはダメツナと呼ばれている。しかし、その失敗をカバーしても余りある程、彼の笑顔は素敵で、ある意味抜群の営業体質だ。


「今日も予約多いね。」
「金曜日だから、しょうがないよ。」

手を洗いながら、ふにゃりと細められた琥珀色の瞳に、その優しい笑顔に癒される。あぁ、今日も頑張れそうだ。


「やだなぁ、毎週毎週。」
「金曜が忙しいのはわかってるんだから、たまには休めばいいのに。」

なまえはお人よしなんだから、と笑う君。あぁ、綱吉。貴方は何にもわかってないのね。


「だって金曜日は綱吉も入ってるでしょ?」

学校も生活環境も違う貴方との唯一の接点。
手を拭いたペーパーをごみ箱に捨てようと一歩踏み出せば、近づく貴方との距離。


「気がつかなかった?私、綱吉より遅くシフト出してるのよ?」

ポカンッとする君にそっと顔を近づけてやる。


「綱吉に会いに来てるって言ったら、店長に怒られちゃうかな?」

ペーパーを目的のごみ箱に捨て、微動だにしない綱吉を一人残しその場を立ち去る。
決戦は金曜日。これから覚悟してよね、綱吉!


いつも以上にグラスを割っている君に少しの期待を膨らませて。