穏やかな日差しに意識が浮上する。
いつの間に帰ってきたのか、隣に潜り込んでいる熱に自然と目が細まった。
ふわりとした薄色にそっと手を添えてみる。少しだけその感触を堪能してから、なるべく静かに熱の中から抜け出した。
背にまわっていた腕が力無くシーツの上に落ちる。すうすうと起きる気配を見せない彼は相変わらず疲れているのだろう、とても忙しい人だから。
無防備な姿を見せてくれることが、こんなにも嬉しい。もう一度だけ薄色を撫でてから、そっと部屋を後にした。


***


カーテンを開け太陽の光を存分に迎え入れる。
あの人はいつ起きてくるだろうか。少し冷たい空気を取り込んで、もうすっかり秋だなぁと息を吐いた。
ついこの間までは暑くて寝られない日が続いていたというのに、季節というものは人知れず移り変わっているものらしい。
温かいコーヒーでも淹れよう。そう思ってキッチンに進もうとした時、リビングの扉がかちゃりと開いた。
誰だかなんて、そんなことは分かりきっていて。


「おはよう・・・いつの間に起きたんだよ」


すごく眠そうに、そして少しだけ不貞腐れたように。
どうやら寝ている間に抱き枕が無くなったことがお気に召さなかったらしい彼が大きな欠伸をこぼしていた。


「おはよう。そっちこそいつ帰ってきたの?」
「ん・・・3時くらい」


帰ってきてそのままベッドに入ったらしい。スーツの上着こそ着ていないものの、ワイシャツに黒いネクタイはそのままだ。
さすがに下だけは着替えたのかラフなズボンを穿いている。
まだ寝ててよかったのに。首がかたっ苦しいのだろう、ダルそうにネクタイを緩めようとしているのを手伝おうと近付けば、伸ばした手をとられ引っ張られた。
そのままぎゅう、と抱きしめられる。甘えるように首筋へと埋められた頭、あたる髪が少しくすぐったい。


「シャワー浴びてきたら?」
「んー・・・」


動く気は無いらしい。
何かを訴えるように少し強まった腕の力。それに小さく苦笑しこちらも腕を背へとまわせば満足そうな溜息が首にかかった。やっぱりくすぐったい。
昔は同じくらいだった身長も、気付けばすっかり見上げるようになっていて。丸々1つ分高い彼は、この体制に首が痛くはないのだろうか。


「ね、綱吉」


彼の名を呼び、とんとんと首をたたけばゆっくりとその頭が上がった。
自然と見上げる形になる。やっぱり1つ分高い身長、変わらないどこまでも優しい瞳。
やんわりと彼のネクタイを引っ張り、近付く唇に自分のそれをそっと重ねる。
一瞬だけ、すぐに離す。普段はあまり自分からはやらない行為。だって、やっぱり恥ずかしい。


「誕生日、おめでとう」
「・・・ありがとう」


目と目を合わせて言葉を紡げば、くしゃりと表情を崩した彼の熱が額へと降りてくる。
なんだかくすぐったくて幸せで、一度離れた距離を今度は自分から抱きついてゼロにしてみた。お返しとばかりにちょっと背伸びして彼の首筋に顔を埋める。


「シャワー浴びないの?」
「一緒に入る?」


髪を撫でる手に心地よさを感じながら先程の問いを繰り返すと、予想外の言葉が返ってきた。
思わず身体が固まる。顔を上げてまじまじと見上げてみれば、彼は面白そうにこちらを見ていた。
彼は少し意地悪になったように思う。何というか、むず痒いような。
決して嫌なわけでは無いのが困ったところだ。きっと、こんなこと全て気付かれているのだろうけれど。
ぷいっ、と顔を背けてみれば、頭上で小さく吹き出した気配、次いで足が床から離れる。


「・・・入るだけだからね」


今日は特別だから。誤魔化すようにぎゅっと抱きついた。


***


――こら!入るだけって言ったでしょ!?
――うん?そうだっけ?
――ちょっと、・・・っ!もう!