FF夢


 6-11




ゴールドソーサーを出発し、古代種の神殿があるウッドランドエリアへと辿り着いた私たち。

このエリアは温度も湿度も少し高めで、肌がじっとりと汗ばむ。古代種の神殿がある森の中はまるでジャングルのようで、濃い緑色をした植物が密集している。
古代種の神殿内部へと赴くに、クラウドとエアリスと私というパーティが編成された。私たち三人は、苔むした石造りの神殿目指して森の中を抜けていく。ここまで来ればケット・シーの道案内など、もはや不要だった。



古代種の神殿に到着すると、エアリスが辺りを見回しながら耳を澄ませる。きっと、彼女にしか聞こえない星の声がするのだろう。だが、星の声が何を言いたいのかいまいちわからなかったようだ。彼女は小さく首を振って「ごめん、わからない」と呟いた。
推測に過ぎないが、星の声というのはとても抽象的かつ、断片しか聞き取れないようなものなのだろう。あまり明確な言葉は期待しない方が良さそうだ。

急ぎ足で神殿の入り口まで階段を駆け上がると、入り口の前にセフィロス・コピーと思わしき黒いマントの男が佇んでいた。
彼はフラフラとした足取りで歩いていたかと思えば「黒マテリア…」と呟き、静かに倒れ込んだ。露になった首元には「No.\」と刺青が入れられている。
元々はジェノバの頭部を捜し求めるという習性を持ったコピーだが、セフィロスの強い思念に引き寄せられ、黒マテリアを求めてここまできたのだろう。だが、彼らでは黒マテリアまで辿り着く事などできない。私たちの胸中に虚しさがジワリジワリと広がっていくなか、息絶えたコピーの男はライフストリームへと還って行った。柔らかい緑色の粒子を見送ってから、私たちは神殿の内部へと足を踏み入れた。



中は松明の光だけがゆらゆらと揺らめき、薄暗く重たげな雰囲気が漂っていた。
入ってすぐの祭壇のような空間に、見知った顔の男が座り込んでいることに気が付く。黒いスーツを身に纏い、苦し気に呼吸するその男性はツォンだった。よく見てみると、彼のスーツには血がにじんでおり、松明の光をテラテラと反射させていた。スーツが黒色なので分かりにくいが、かなりの深手を負っているように見える。

「やられた…セフィロスが、探しているのは…約束の地などではない…」
「セフィロスが居るのか?」
「フッ、自分で確かめるがいい…キーストーンを祭壇に、置いてみろ…」

ゼェゼェと息を吐きながらなんとか言い切ったツォンが、己の血で濡れた手にキーストーンを握り、それをこちらに差し出して来た。
クラウドがキーストーンを受け取ると、彼は薄く笑って目を閉じる。とうに体力の限界を迎えていたに違いない。ツォンが意識を失うと同時に、そっと見守っていたエアリスが息を呑み、その両目に薄く涙を浮かべた。


「…どうした、泣いているのか?」
「わたし…わたし、ツォンは敵だけど、小さいころからの知り合いだったの。わたしの事を知っている人、世界中探してもほんのちょっとしかいないから…」

そう語るエアリスを尻目に、私は項垂れるツォンに歩み寄る。深い傷を負ってはいるが、まだ僅かに息がある。今のうちに手当をすれば助かるだろう。いや、助かってもらわなければ困る。私は、クラウドやエアリスに「彼の傷の回復をする、いいね?」と問いかけ、二人が頷いたと同時にケアルラを唱えた。眩い光がツォンの体を包み込み、彼の呼吸が穏やかなものに変わった。

このまま彼を置いて行っても、おそらく大丈夫だ。だが、もしも万が一、この神殿が崩れ去るその時まで助けが来なかったら。そんな嫌な予想がふと頭をよぎってしまった。


「傷はもう大丈夫だけど、ここに置き去りにしておくのは危険だと思う。私、この人を外まで連れて行くよ。後を追いかけるから、二人は先に進んでいてくれる?」
「一人で大丈夫か?」
「うん、今は一刻も早く進まなきゃならないし、クラウドはエアリスのことをしっかり守ってあげて」
「ああ、わかった」
「奈々、気を付けて、ね?」

心配そうにこちらを見てくるクラウドとエアリスに頷きかけてから、私はツォンを支えるようにして連れ出す。
幸いにも彼は薄っすらと意識が戻りつつあるようで、ある程度自力で歩いてくれている。これならば私一人の力でも、階段から転げ落ちるようなことは無いだろう。

「酔っぱらいの介抱よりは、楽かな」
「…満身創痍の人間を捕まえて…酔っぱらいと、同格に扱わないでほしいものだ」
「あ、気が付きましたね」

まだ苦しそうではあるが、先ほどよりは容体が良くなったようだ。そうは言っても派手に出血していたようだし、今の彼は貧血でまともに動けないだろう。

「社長は、判断を誤った…エアリスや君を手放し、セフィロスを追う事に躍起になり過ぎたんだ」
「手放すもなにも、私もエアリスも神羅の所有物になった覚えはありませんけどね」
「手厳しいな」

慎重に階段を降り、古代種の神殿の敷地外にツォンを座らせる。

「神羅からの迎えは来るんですか?」
「ああ、そのうちな。面倒をかけて済まなかった」
「いいえ。でもこれで借りは返しましたからね」

青白い顔をしながらも、私の事を気遣ってくれる程度には回復したようだ。万一のことを考え、バッグの中からエクスポーションを取り出し、手渡す。
ツォンはきょとんと私の顔を見ながら「借り?」と一言呟いた。

「道を教えてもらったり、ミスリルマインでは見逃してもらったり…込み込みで一括返済ってことにしといてください」
「…全てひっくるめても釣りが出るぞ」
「それなら、今度亀道楽でご飯でも奢って頂けます?」

そう言ってツォンに笑いかけると、彼は両目を少しだけ見開いた後に「覚えておこう」と穏やかに言った。その口角が極僅かにだが、弧を描いているのが見えた。



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