FF夢


 6-01








ニブルエリアを抜け、ロケットポートエリアに辿り付いた私達。

先程までの曇天とは打って変わり、空の向こうまでもが透けてしまいそうなほど、すっきりと晴れ渡った青空が広がっている。
爽やかな風が吹き抜け、平原の草木はその風に揺られてさわさわと心地よい音を奏でている。

そんな、ピクニックでもしたくなるような場所を歩く、かなり妖しい風体の一団。
特に、全身を赤い布と黒い衣服で覆った、不審者丸出しのヴィンセント。そして動くぬいぐるみのケット・シー。
私はこの二人に比べればまだまともな筈。そう自分に言い聞かせながら、奇妙な二人の後を追うようにして歩いた。




ニブルヘイムでヴィンセントが仲間になってから、数時間が経過していた。

最初こそ彼に対して不審な顔をした仲間達だったが、彼の神羅との因縁を聞いてからは誰も疑問を抱かなくなったようだ。
それどころか、ティファやエアリスに「不老不死に近いってことは、老けないのよね?」「ね、今、何歳なの?」と質問攻めにされるほど。
女性にとって永遠の話題である不老不死を持った人とはいえ、それを直に聞きに行く二人は流石に強い。

ちなみに実年齢は50代半ばである、その一言はどうしても言えなかった。


ニブル山を越えるにあたり、やはり通路が狭いことを危惧した私達はいつものように3パーティに別れて行動していた。
私とヴィンセントとケット・シー。エアリスとティファとクラウドの『両手に花』パーティ。そしてバレットとナナキ。

一番最後に出発した筈だったが、やはり地理を把握しているということは大きかったのか、一番最初に山を抜けたのは私達だった。

道に迷うことなくスムーズに山を抜けたとはいえ、その道のりは長く険しかった。
まず、雑魚モンスターが強いのだ。どれもこれも一癖二癖あるモンスターばかり、その中には強敵のドラゴンも居る。
何より不運だったのは、一番進みの早かった私達が、ニブル山のボスモンスターであるマテリアキーパーと鉢合わせてしまったことだ。

私は遠慮なく、主軸となる攻撃はヴィンセントとケット・シーに一任し、援護と回復に回らせてもらった。
にもかかわらず、度重なる激しいバトルにHPもMPも素寒貧だ。


彼等とパーティを組んだ当初は「わあ! ダージュ オブ ケルベロス組だあ!」なんて心躍ったりもしたが、後半に差し掛かるにつれ、私の脳内を占めていたのは「どうでもいいから早く山抜けたい」という一念だけだった。


それでも、いち早くロケットポートエリアに出た私達は、そこら辺をうろつくモンスターを一掃し、なんとか小休憩を取る事が出来た。
そのお蔭で、後から来たクラウド達よりは幾分体力も回復していた。

全員が合流し終わり、平原をしばらく進むと、ついに小さな村へとたどり着く。
空に向かって伸びるような大きさのロケットとその発射台。それらが目印の、ロケット村だ。



「うわー、ロケット!」
「随分錆びついているんだな」

村の入り口で、私達は私達はいの一番にロケットへと視線を向けた。
傾き、錆びついてはいるが、それがどれほど大きく立派なものなのかはすぐに分かる。

反応が薄そうなヴィンセントでさえも、しげしげとロケットを見つめているのには少々笑ってしまった。
やはりいつの時代も、宇宙とは男のロマンというものなのだろうか。

・・・むしろ、ヴィンセントがタークスとして活動していた時期が、ちょうど宇宙開発が進み始めた頃なのかもしれない。
彼のあの視線が「前に見た時はまだ試作品一号だったのになあ」などというものだったのなら、私は涙を流して笑い転げる自信がある。



「とりあえずよお、どっかで休まねえか?」
「オイラもクタクタだよ」

ロケット談義で盛り上がりつつある中に、バレットとナナキがぽつりと言い放つ。
一番最後に合流した彼らは、心身ともにボロボロといった様子だ。

彼らの言葉に皆が頷き、私達は行動を起こす前に少し宿で休養を取ることにした。


いそいそと宿屋に入っていく面々に、一言呼びかける。

「私はまだ元気あるから、ちょっと村の中を調べて回るよ。情報収集も兼ねてね」
「奈々、タフね」

ティファが感心したように言うが、いやいや、本当にタフなのはあなたの方ですよ。と言ってあげたい。

何せティファは、攻撃手段が肉弾戦なのだ。
常に最前線で身体を張って闘っていた彼女と、後方支援しかしなかった私とでは疲労の度合いは雲泥の差だろう。


何より私は、休んでいる暇があるならば一刻も早く会いに行きたい人がいる。

そう、シド・ハイウインドだ。
以前ここに来た時は定食屋でいくらか会話をしたのだが、果たして彼は私の事を覚えていてくれているのだろうか。

彼の事だ、すっかり忘れてもう一度自己紹介をすることにもなりかねない。
過度な期待はしないでおこう、と心に言い聞かせながら、私は皆と分かれてシドの自宅へと歩きだした。













目の前に、綺麗に整えられた庭が見える。

白木の柵で囲われたその中に、シドが大切にしている飛行機が停まっていた。

ピンクと水色の可愛らしい塗装がされた、タイニー・ブロンコだ。
思っていたよりも大きなそれは、確かにパーティ全員がしがみついてボート代わりにできそうなサイズだった。

もちろん、コクピットは一人用の小さいものだが。


勝手に思い入れのあるその機体に見入っていると、庭と家とをつなぐ扉のむこうから一人の女性が姿を現した。


「あら、何かご用ですか?」
「はっ・・・! すいません、可愛い飛行機だなって」
「ふふふ、それを聞いたら艇長が喜びますわ」

眼鏡をかけた白衣姿の女性。この人がシエラさんだろう。
公開されている設定資料もなく、ポリゴンが粗かったのもあり、彼女の詳細な外見を見るのはこれが初めてだ。
化粧っ気はないが、優しそうな女性だという印象を感じる、柔和な表情をしている。

彼女もメカニックとして日々活動しているだけあって、こういった飛行機の類が好きなのだろう。
タイニー・ブロンコを可愛いと言った私の言葉に、うんうんと何度も頷いている。


「そうだ、艇長・・・シドさんって、どちらに?」
「今は多分、ロケットのメンテナンスに行っているかしら。今日は一段と張り切っていたから・・・」
「張り切る?」
「ええ、なんでも、神羅の新社長のルーファウスさんがここへいらっしゃるそうなんです。艇長は、きっと宇宙開発の再開だ! って」

シエラさんの言葉を聞き、ようやく思い出した。
そうだ、このタイミングのロケット村にはルーファウスが来るんだった。

シドに会えると浮足立っていた気持ちが、みるみるうちにしぼんでいく。
艇長には会いたい。でも神羅怖い。でも会いたい。


そんな葛藤を胸の内で繰り返しながら、シエラさんにお礼を言ってその場を立ち去った。

行く先はもちろんロケットだ。とりあえずまだルーファウスは来ていない筈だから、この隙にシドに挨拶をして、その後はヴィンセントのマントの中にでも隠れていよう。
ここではタイニー・ブロンコを手に入れるのが目的だったから、最悪、合流は後からでもできる。


ルーファウスが来るというのは少々・・・かなり肝が冷える。
が、同時にパルマーのコミカルなバトルが見れるのかと思うと、それはそれで見逃したくない気持ちもある。

揺れるファン心に突き動かされるように、私はふらふらとロケットに吸い寄せられるかの如く歩き出した。




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