FF夢


 5-13







「うっわあぁ〜!」

クラウド達と離れた瞬間、幼さのある言動を露わにし始めたナナキが歓声を上げた。
窮屈さを脱ぎ捨てるようにグッと伸びをした後、周りの煌びやかな風景に目を輝かせている。


「すごい、オイラ、こんな所初めて見た! そこらじゅうキラキラで目が痛いよ。奈々は前にも来た事あるんでしょ?」
「うん、一泊だけね」

と言っても、実際に来たのは2回目の事だった。
1回目はトラックのおじさんと共に、ゴールドソーサーに立ち寄った時。あの時は関係者用の搬入口から中に入れてもらって、少し得した気分だった。
2回目はザックスと別れ、バイクを取りに行った時の帰りだ。コレルプリズンからゴールドソーサーに入った私は、ささみと共にチョコボレースを駆け抜けた。
そして今回、これで3回目となるゴールドソーサーは相変わらずの賑やかさだ。

思えば濃い一年だった・・・と、一人感傷に浸っていると
私の足元を歩いていたナナキが、とんでもない衝撃台詞を落としてくれた。


「オイラ、てっきり奈々はクラウドとデートするのかと思ってたよ」
「デート・・・えっ、デート!? いつ? 何で!?」

確かにクラウドとのデートは夢だ。
まだ観覧車デートのイベントは起きないので、今回はほのぼのと回ってみようと思っただけだったが・・・

「だって、奈々はクラウドの事が好きなんでしょ?エアリスが言ってた」
「ええー、私、そんなに垂れ流してた?いや、そんなハズないんだけど」

旅が始まってからは色ボケする余裕も無く、ただ必死に生きて来たと思う。そんな中でナナキにもバレるような惚れ方をしていたのだろうか。

一人で思考の渦に巻き込まれ、うんうんと唸っていると
ナナキが怪訝そうに首をかしげながら、今度は端的に聞いてきた。

「結局、好きなの?」
「は、はい、好きです」
「やっぱり?オイラもそう思ってたんだよねー」

自分とエアリスの予想が当たったのが嬉しいのか、ナナキは頷きながら足取りを軽くする。

考えてみれば、この世界に来て一番最初に立てた目標が「クラウドとゴールイン!」なんてフザけたものだった気がする。
今でこそ皆について行くことに必死で意識していなかったが・・・そうだ、私はクラウドが大好きどころか、好きすぎて15年来のファンだった。


「ね、何で私がクラウドを好きだって分かったの?」
「ウーン、最初はエアリスに言われたんだ。それから暇な時に観察してた。奈々はクラウドと居る時、一番嬉しそうな顔するからすぐわかったよ」
「うわっ恥ずかしい・・・」
「他にもね、エアリスと居る時は優しい顔するし、ティファと一緒の時はずーっと笑ってて楽しそう。バレットと居ると気が楽なのかなあ?力が抜けてる気がする」

ナナキは思いのほか観察力があるようだ。野生の勘とでも言うのだろうか?
今しがた彼に言われた言葉は、全て面白いくらいに図星だった。

エアリスと一緒に居れば、彼女の笑顔に癒されて心が安らぐし、ティファと居ると彼女のハキハキとした態度に、こちらまで気分が明るくなってくる。
バレットと居る時は何だかんだ面倒見てくれるから、つい頼りがちになっているのかもしれない。

私は知らぬ間に観察されていた恥ずかしさを打ち消すように、両の頬を掌で擦った。


「ねえ! オイラと居る時はどう?」

そんな声に釣られて下を見ると、きらきらした瞳でこちらを見上げてくるナナキの姿があった。ちくしょう可愛いな・・・と呻きながら、ナナキと共に過ごした時間を振り返る。

「ナナキと?そうだなぁ・・・ホッとするかな」
「ほっと?」
「うん、温かい気持ちになって、安心する」
「そっかぁ・・・えへへ、そっか。うん!」

私の答えが満足いくものだったのだろう、ナナキは嬉しそうにその場でくるくると回った。こういう仕草は犬っぽくてすごく和む。
もしかしたら、彼の言動にはアニマルセラピー的な何かがあるのかもしれない。


「オイラね、奈々のこと大好きだよ。姉ちゃんがいたらこんな感じだと思う!」
「うわああ! 私もナナキ大好き!」

何故この子はこんな殺し文句ばかりを投下するのだろう。
私はしゃがみ込んで、ナナキの首にぎゅっと抱きつく。

服越しに伝わってくる温かさが、いつぞや一緒に見たコスモキャンドルの灯火を思い出させてくれた。





***




(第三者視点)



時は少し前に遡る。
ロビーでバレットが立ち去って行った直後のことだった。


ぼうっと突っ立っていたクラウドを見かねてか、彼の両腕をガッチリとホールドするティファとエアリス。
一見すると、花のような美女を2人も従えているように見える光景だが、実際はそうではなかった。2人の眼光はモンスターとの戦闘時よりも鋭く、決して彼を逃がすまいといった意志が読み取れる。


「何ぼーっとしてるのよ!クラウド、いいわね、奈々をデートに誘いなさい」
「はっ?」
「大丈夫、奈々は絶対断らないから、ね?」

2人の急な指令に、クラウドは「わけがわからない」といった表情をしている。
ティファは深いため息をついてから、クラウドに向かってこんこんと説教を始めた。

「あのねぇ、こういうところでは女の子をほったらかしにしちゃダメなのよ」
「そうそう。男の子の方から誘ってあげなくちゃ、ね」
「女同士3人で行って来ればいいだろ?」
「ホントに分かってないわね!」

ティファがクラウドの前に躍り出て、ピッと人差し指を立てる。

「奈々ね、コレル山で怖い怖いって言いながらすっごく頑張ったのよ。クラウドがそれを褒めてあげなくちゃ」
「なんで俺が・・・」
「そういう事はクラウドの役目、でしょ?」

エアリスもティファも、クラウドが狼狽えているのを良い事に2人揃ってニヤリと怪しい笑みを浮かべている。

どうやらこの2人は、奈々とクラウドをどうにかしてしまう気満々のようだ。


「とにかく、奈々を誘ってあげなさい。うん、そうしなさい」
「・・・分かった」


強引な押しに負けたのかクラウドは一度深呼吸をして、どこか緊張した面持ちで振り返る。両脇の2人もわくわくした感情を隠さず、行く末を見守った。

だが、決心をしたクラウドの向く先に既に奈々は居ない。


「おい、ちょっと待て、どこにもいないぞ」
「あ、あれっ?」
「もしかして・・・奈々、レッド13と一緒に行っちゃった?」
「もう!クラウドがぐずぐずしてるから!」


出鼻をくじかれたあげく、理不尽に怒られるクラウド。
彼の持つ不幸体質はこういう時にも力を発揮するらしい。

エアリスの「しょうがない、奈々を探しながら3人で歩きましょ」という言葉を聞きながら、クラウドはどこか腑に落ちない気持ちを抑え込んだ。






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