FF夢


 5-06







身体の周り、四方を囲む鉄の壁。
息をするにも息苦しいこの場所・・・ロッカーの中に私は息を潜めていた。

扉一枚隔てた所には、数人の神羅兵に混じって困り顔のクラウドが服を着替えている。




つい数分前のことだ。

延々と柱を上りきった私達は、まんまと敵地へ潜入することができた。
だが、ここで安心している場合ではない。


軍用の通路に入ったその時、私とクラウドのすぐそばを兵士が慌ただしく走り去っていったのだ。

幸いにも忙しそうな兵士たちの目に私の姿は止まらなかったようだが・・・如何せん男所帯の中に紛れ込むには、私の姿はあまりにも不釣り合いだった。

これからどうするか思案すると、次の瞬間に起こるイベントを思い出した。
赤い軍服を着た上級兵士が、クラウドを引っ張ってパレードまで連れて行くのだ。
そうなると本格的にマズイ。軍服を身に纏ったクラウドだけならばまだしも、普段着で突っ立っている私は明らかなる"侵入者"だ。

対策を考えて居るその時、通路の向こう側からコツコツという足音が響いてくる。
とりあえず今は身を隠すべきだ。そう思った私は、すぐ傍のロッカールームの狭いロッカーの中に飛び込んだ。



そうして待つこと数分間。

ロッカーの扉に付いている隙間から外を見ると、真正面に半裸姿のクラウドが居る。
少し恥ずかしそうな表情の彼は、きっと私がここに潜んでいるということを察しているのだろう。
生憎だが、私はクラウドの着替えなどとっくに見慣れているので、恥じらうと言った可愛らしい反応も出来やしない。
むしろ眼福。と唱えて生着替えを見ながら、扉の外が静かになるのを待った。

更に待つこと十数分、兵士が高らかに"ルーファウス歓迎式典"の曲を歌い終えた。

神羅兵の軍服に着替えたクラウドは、そのまま赤服の上官に引っ張って行かれてしまう。
勿論、これも想定の範囲内なので焦ることも無い。



周りにひと気がなくなってから、私はロッカーからそうっと外に出る。
そして余っている軍服を身に付けて、ヘルメットをかぶった。

「・・・・・・くさい・・・」

微妙に臭うヘルメットだが、素顔を晒して歩く訳にもいかない。
しょうがないので、できる限り鼻呼吸をしないように心掛けた。

「さーて、ここからどうしようか・・・」

とりあえずパレードに潜り込んで、そのまま運搬船に乗るのが一番良いだろう。

何日かぶりの単独行動に、少し気分が軽くなる。
仲間と共に行動するのは好きだけど、今まで悠々自適な一人旅だったというのもあって単独で動くのも嫌いじゃない。

幸いにも、この歓迎式典のスケジュールは詳細まで把握している。
ジュノンの地形、基地の造り、ハイデッカーなどの上官がいる場所。

全ての情報を引き出しながら、私はロッカールームから通路に繋がる扉をくぐった。






遠くから響いてくる歓声と、華やかな音楽。


それをBGMにしながら、私は基地内の物置付近で息を潜めている。勿論これも策あっての行動だ。

パレードで、兵士は9人ずつの小隊を組んで行進している。
その中に紛れ込む方法・・・それは誰かと入れ替わるというのがベストだろう。

私は行き交う兵士の中から、比較的華奢な体型の人物へと目を付けた。
運悪くターゲットになってしまったその少年・・・周りの兵士からは『ジャン』と呼ばれている。
声も少年声と言うか、実際にまだ年端もいかぬ若者なんだろう。

ジャンという少年の周りから人が失せた所を狙って、私は物置から顔を出して声を上げた。


「おい・・・ジャン、こっちだ」

出来る限り声を低く出して、彼の名前を呼ぶ。
すると少年は、ピクリと反応してこちらに歩み寄って来た。

「ん、どうしたんだ?もうすぐ小隊ごとに集合の時間だぞ」

涼やかな声で話す少年・・・ジャンは、親切にもそう教えてくれた。

「ああ、そうだな。お前はどこの小隊だったっけ?」
「一番最後尾さ。俺達みたいな新人が、パレードの中心を歩けるわけがないだろ」

俺達、というからには、この軍服の持ち主とジャン少年は知り合いなのだろう。
私はボロを出さないように気を付けながら口を開いた。

「その通りだ・・・そうだ、お前にちょっと確認してもらいたいものがあるんだ。こっちに来てくれよ」
「なんだよ、こんな時に」

ジャン少年は呆れたように笑いながらも、大人しく私の後に続いてきてくれた。
いたいけな少年を騙すのはかなり気が引けるが、四の五の言ってられない。

私は振り向きざまに「スリプル」と唱え、ジャン少年を昏倒させる。
そして彼の名前が刻み込まれたドッグタグを首から取り、自らの首に付けた。

「悪いけど、少しの間"君"を借りるよ」

ジャン少年の手足を縛ってから、私は物置の扉をそっと閉じた。




***




行進パレードも無事終了し、私は今運搬船が停泊している港に居た。


左右には同じく軍服を身に纏った兵士が並んでいる。おそらくこの中のどれかがクラウドだろう。
運搬船の積荷の間からは、ナナキがチラチラとこちらの様子を伺っている。


「ルーファウス・・・様、到着よ!」

明らかに不審な掛け声を合図に、基地と港を隔てていたゲートが音を立てて開く。
その向こうから現れたのは、ルーファウスとハイデッカー。久しぶりに見るその顔に、内心ドキドキとしながら平静を保った。

「ジュノン軍隊式お見送りー!」

上官の高らかな声と共に、見送りのパフォーマンスが始まる。
自慢じゃないが、私はこの見送りイベントで失敗したためしがない。
音楽に合わせた掛け声にあわせ、私も指示通りに体を動かした。

ライトターンから始まり、クロス、再びライトターン。一度トライアングルを挟んで、正面に向き直る・・・

本当は好感度をあまり上げず、HPアップのマテリアを頂きたいところだ。
だが、あまり醜態をさらすわけにもいかない。私がどういう働きをするかで、このジャン少年の評価にもつながってくるからだ。

勝手に名前を借りてしまったせめてもの恩返しに、この見送りくらいは完璧にこなしてみせようじゃないか。



「サークル!スクウェア!」

気分が乗ってきたのか、上官の声もトーンが上がっている。
その後ろからはルーファウスの視線がこちらに向けられていた。
バレている様子では無いので、おそらく4人いる兵士の中で私が一番良い動きをしているのだろう。

「最後に〜・・・スペシャール!」

スペシャル、確かクラウドの勝利ポーズだったな。
動きを思い出しながら、マシンガンを掲げながらクルクルと回して肩に担いだ。
隣の兵士の動きが妙にこなれていたので、きっと彼がクラウドなのだろう。

最後にビシッと整列をして、全員ルーファウスの方へと向き直った。

彼は中々に満足げな顔で全体を見渡し、口を開いた。


「上出来だ。今後とも我が神羅カンパニーの繁栄の為、全力を尽くしたまえ」

金色の髪を払いながら、あの冷たい声で言ったルーファウス。
その後ろからハイデッカーが現れ、各々に褒美を渡し始めた。

「ガハハハハ!ルーファウス社長のご厚意だ、有難く頂戴しろ!」

確か、数分前のイベントで「その笑い方はやめろ」と言われていた気がするが・・・
私はその言葉を口の中で封じ込めながら、褒美を受け取った。

手に上に乗ったのはフォースイーターではなく、銀色に光った美しいダガーだ。武器という事は最高の評価をもらったのだろう。
もしかしたら兵士の体格を見て、渡す武器の種類を変えているのかもしれない。
切れ味の良いそのダガーは両手剣よりも使い道がありそうで、正直な所有難かった。

ルーファウスはこちらに背を向けて運搬船に乗り込んだ。
ハイデッカーに話しかけているのか、少しだけ声を潜ませている。


「セフィロスが現れたと広まれば、じきにクラウド達も姿を現すだろう」
「ええ勿論!全員捻り潰します!」
「全員・・・?」
「あ、ええ、その、例の女性を省いた、全員で・・・」

例の女性。言わずもがな、それは私の事だろう。
目の前で自らの噂話をされるというのは、こんなに気まずいものだったのだろうか。
思わず引き攣りそうになる口元を、根性で抑えつけた。

「万が一にも、彼女に傷を付けたならば・・・それ相応の処分が待っている。その他の連中は片付けろ。邪魔をされてはかなわないからな」
「お任せください!」

ガハハハハ!と元気よく笑うハイデッカーに、ルーファウスは眉根を寄せて辛辣に言った。

「その笑い方はやめろ、と言ったはずだが」
「ガハ・・・」

ハイデッカーは顔を引きつらせ、すぐさま大人しくなった。
だがルーファウスが姿を消すと同時に、こちらへ鋭い視線を放ってくる。
八つ当たりされると思ったのだろう。上官含む兵士たちは、気まずそうに目を逸らした。

だが、運搬船が放った出航の合図を聞いて、ハイデッカーは渋々と言った様子で船へと乗り込んで行った。



私とクラウドもその後に続き、船に乗り込む。


この中で起こるイベントに思いを馳せながら、私は海を渡り始めた。






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