FF夢


 5-02







私たちはのどかな風景のグラスランドエリアを進んだ。


モンスターが出れば主戦力のクラウドが最前線で戦い、その後ろから私が隙を見て切り付け、後ろではエアリスが持ち前の高い魔力を駆使して回復魔法と攻撃魔法を使う。

予期せずバランスの良いチームとなったおかげで、体力の消耗も少ない状態で集合ポイントであるチョコボファームまで辿り付くことができた。



・・・のだが。

「ティファ達・・・来てない、ね」
「あいつらの方が先に出発したのにな」

エアリスの言うとおり、先にカームを発ったはずのティファ・バレット・ナナキのチームが未だ到着していない。
チョコボファームの責任者であるグリンに聞いてみても、私達より前にここへ来た人間はいないという。

とりあえずは休息も兼ねて、ファームの中で3人を待つことにした。


エアリスは物珍しそうにチョコボや周りの風景を眺めては、楽しそうに頬を綻ばせている。
クラウドはどうやら、放牧場にいるチョコボに懐かれたようだ。
チョコボダンスを披露してもらった上に、マテリアまでプレゼントされていた。

きっと仲間認定されたんだろう。というのは、私の心の中に秘めておこう。
私は2人の様子を眺めながら、ひんやりと柔らかい草の上に腰を下ろして体と心を休ませた。




しばらくして、大分体力が回復した頃。

行方知れずだったティファ達が、ようやくチョコボファームに姿を現した。
全身ボロボロで、一目見て満身創痍だという事がわかる。

一体どうしたのだろう。そう問いかける前に、ティファが怒りの篭った声で話し始めた。


「も、もう・・・私、バレットと同じチームは嫌よ」
「・・・・・・何があったんだ?」

あまりにもボロボロな3人を見て、エアリスとクラウドが心配そうに寄ってきた。
怒りをにじませるティファの後ろには、どこか気まずそうなバレットと、呆れ顔のナナキがいる。
クラウドがナナキに向かって視線で説明を促すと、ひとつため息を吐いた後に説明をし出した。

「ここに来る途中、道に迷ってしまったんだ。ファームを飛び越えてミスリルマインの方にな。ティファと私は一度引き返そう。と言ったのだが・・・バレットがな」
「"先に少し、中の様子を調べてやろうぜ!"なんて言って進んで行っちゃうから、私達それを追いかけたのよ!」


ここまでの説明で、既に話は見えた。
だがミドガルズオルムの存在を知らないクラウドとエアリスは、まだ不思議そうな顔をしている。

「洞窟の前にある、広い湿地帯に足を踏み入れたんだ。そこで、不運にも大型のモンスターと出くわした」
「本当に大きい、蛇!私達なんか簡単に丸のみしちゃうくらいのよ!」
「それで、必死に逃げてきたんだな」
「ああ」

きっとバレットは、何かしらの情報を持って来ればこの先役に立つと思ったのだろう。
彼に悪気が無い分、この言われようは少し可哀想だった。
まぁ、行き成りあんなに巨大なモンスターに遭遇しては、この怒りも無理はないが。

何より私が思うのは。出発前に、ミドガルズオルムの事を伝えておけば良かった・・・というひとつだけだ。



「ええっと、グラスランドエリアに生息する巨大な蛇っていうと、ミドガルズオルムの事かな。噂には聞いたことあるよ」
「あれ、どうにかしないと洞窟に入るなんて夢のまた夢よ・・・」
「うーん・・・倒すのはきついし、回避するのがいいよね」

そう言うと、回避という案に大賛成なのだろう。ティファとエアリスが揃って大きく頷いた。
やっぱり、女の子は蛇が苦手なのだろう。

ちなみに私は、蛇だけじゃなく爬虫類全般は平気だ。虫型のモンスターの方がよっぽど恐ろしい。

なんにせよ、この序盤でミドガルズオルムを倒すのはかなり骨が折れることだ。
ここは定石通りにチョコボを使って一気に駆け抜けた方がいいだろう。


「レッド13が居てくれたからなんとか逃げ出せたけど、人間の足じゃあとっても逃げ切れないわ」
「むしろ、よくこの程度の怪我だけで撒いてこれたな」
「私とバレットが逃げる間、レッド13が囮になってくれてたのよ」
「私は4本足だからな。足の速さならば2本足の者には負けないよ」

どこか誇らしげに見えなくもない表情をするナナキ。褒められて嬉しいのか、尻尾がふわふわと動いている。


「しかし、どうすんだ?あれじゃあ回避するっつっても無理だぜ・・・」
「今度は全員で私達の二の舞になってしまうかもしれないな」
「いや・・・手段はある」

表情の優れないバレットとナナキに、クラウドが自信ありげにつぶやく。

「ここはチョコボを育てる場所なんだろ。人数分のチョコボを用意すれば、モンスターに追いつかれず湿地帯を駆け抜けることができるはずだ」
「あ!それ、名案!」

その場に居る全員がクラウドのアイデアに賛成し、いざ!と勇み足になったまでは良かったのだが。




「おじさんたち、運が悪い!」

と、チョコボ小屋の少年グリングリンに一蹴されてしまった。
どうやら・・・ストーリー通り、現在チョコボファームには販売できるチョコボがいないらしい。

「そうだ、野生のチョコボを捕まえなよ!チョコボ寄せのマテリア、安くしとくよ?」
「・・・幾らだ?」
「うーん、そうだなー、じゃあ、特別価格で2500ギル!」
「高えじゃねえか!」

特別価格と言う割に、ゲームでの販売価格よりも割高になっているのは何故だろう。
まぁ、いたいけな少年相手に値切るのも気が引けるので、言い値で買うとしよう。

「わかった、買うよ。」
「おっ!おばさん、太っ腹だね!」
「ちょっとこっちでお姉さんとお話ししよっかクソガキ君」

言うに事欠いておばさんとは、この少年には少しお説教をしてやらないといけないらしい。
「いたたたた!」と喚くグリングリンの首根っこをつかみ、クラウド達からすこし離れる。

「何するんだよー!」
「私ね、知ってるんだ」
「何を?」
「マテリアの値段。元々2000ギルでしょ、それ」

そう言った瞬間、グリングリンは分かりやすい程にギクッと体を強張らせた。

「な、な、何で知ってるの?」
「それを特別価格なんて、ずるいなぁ」
「あわわ、ご、ごめんなさい・・・」

すぐにシュンと眉毛を下げて謝った所を見ると、彼は思ったよりも素直な子供らしい。

「ま、いいや。とりあえず買うけどね。その代わり、ギザールの野菜5個と鞍と手綱を4セット。おまけでつけてくれる?」
「う・・・わ、わかったよ」
「それから!客商売するんなら、男にはお兄さん。女にはお姉さんと言いなさい。じゃないと今みたいになるよ」
「うん、覚えとく」

渋い顔をしたグリングリンに代金の入った袋を渡し、マテリアと道具を受け取った。





「さて!とりあえず適当にチョコボを捕まえるかな。ティファ達はどうする?帰ってきたばっかりだし、少し休んだ方がいいんじゃない?」
「いいの?休んでいいならとっても嬉しいけど」
「チョコボの捕獲くらい、1人だって大丈夫だよ」
「俺も行く」

ティファとバレットにピースサインをしてマテリアを持つと、横からクラウドにそれを奪われてしまった。

「単独行動はさせないと言っただろ」
「平気なのにな・・・」

カームでの単独行動禁止宣言はまだ持続していたらしい。
一々逆らうのも面倒だし、有難い事には違いないので大人しく従うことにした。




***




チョコボファームを出てから小一時間。
私とクラウドの手元には、無事5匹のチョコボがいた。

捕まえた順番通りに鞍と手綱を付けて、いつでも乗れるように準備する。
ささみとクジャと一緒に旅をしていたおかげで、どういう触れ方をすれば嫌がられないか、どの羽が掴みやすいか、そんなチョコボの扱いが手に取るように分かる。

あの子たちは今元気でやっているのだろうか。今度ザックスに聞いてみようと決めた。



「随分チョコボに慣れているんだな」

クラウドが隣に立つチョコボを撫でながら、感心したように言う。

「まーね!ずっと一緒にいたし」
「ああ、確か・・・黒い?」

どうやら、ささみとクジャの事をおぼろげに覚えているようだ。

「そうそう!山川チョコボ。レアなんだよー。足は速いし頭も良いし、深い海以外の場所ならどこにだって行けるんだから!」
「奈々」
「ん?」

ささみとクジャの自慢をつらつら続けていると、至極真面目な顔でクラウドが言った。

「今度乗ってもいいか?そいつに」
「勿論!今はアイシクルエリアにいるんだけどね」

きっと、彼はクジャの背中に長い事乗せられていた事は忘れているのだろう。

未だかつて見たことが無いくらいに瞳を輝かせた彼の姿を見ると、そう遠くない未来、彼は一流のチョコボ狂になるんだな。という実感がわいてきた。











「奈々ー!クラウドー!」


クラウドと協力して4匹のチョコボに装備品をつけた後。
ティファ達がチョコボファーム方面から向かってくるのが見えた。


「わあ、野生のチョコボ!かわいいね」
「本当に5匹も捕まえやがったのか!すげえな」

先程までぼろぼろだったティファとバレット。体力は大分回復したようだ。
体中に付いていた泥も綺麗に落とされている。


全員が揃ったところで、私はチョコボに乗る時の注意を説明した。
万が一、湿地帯の途中で振り落とされでもしたら一大事だ。

手綱の扱い方、乗り降りするときの注意、チョコボの身体の上での体重の掛け方、など。私がささみに乗る時に苦労した事を事細かに話す。
手綱や鞍に関しては、乗馬の受け売りだ。
なんせ私は、一度もチョコボ用の鞍を使ったことが無い。今も、そのままの状態で乗る方が断然楽だ。


しばらくすると、全員が滞りなくチョコボを操れるようになった。




「それにしても、運が悪かったな。今日に限ってチョコボが一匹もいねえなんてよ」

チョコボの上で危なげに手綱を操るバレットがそうぼやく。

「まぁ、全員分のチョコボを借りるのも同じくらいお金がかかるし、買う事になったらもっと高額だし・・・結果オーライだったと思うよ」
「そんなにすんのか?」

バレットの姿勢を直しながら返すと、彼は思った以上の金額に目を丸くする。
後ろで聞いていたクラウドも、それに頷いた。

「最近は更にチョコボ関係の値段が高騰しているらしい。こういったチョコボファームとは違う、能力の良いチョコボを叩き売る密売人が出始めたんだ。チョコボを取り扱う闇業者が増えて、密猟された結果チョコボの数が減ってしまった」
「神羅の高い乗用車が買えない人が、チョコボ車に手を出すらしいわよ」

ティファのそのニュースに覚えがあるのだろう。優しい手つきでチョコボを撫でながら答えた。
すると、今度は暇そうに座っていたナナキが喋り出した。

「だが、ここ一年・・・妙な噂を聞くようになった」
「ウワサ?」
「ああ」

ナナキは、首を傾げるエアリスに頷いてから続きを話す。

「チョコボ密売人の車やアジトが、次々に襲われているらしい」
「へぇー・・・正義の味方、かな?」
「いや、それが違うようだ。どの売人も口をそろえて”チョコボに襲われた!”と言う」

そこまでナナキが説明すると、ティファが再び声を上げた。

「それ、聞いたことある!沢山のチョコボにキックされたおかげで、全身怪我だらけになったっていう人・・・何人かニュースで見たわよ。良い気味よね」
「・・・・・・・・・・・」


彼らが和気藹々と話すその内容に、かなり心当たりがある。
どうやら、以前私が手を貸したあのチョコボ達は私の知らない所で活躍していたらしい。



これも一種の反乱軍というものなのか、彼らの事を心の奥でそっと応援した。






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