FF夢


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 [ν]εγλ‐0007 12月5日 天気・快晴

とうとうミッドガル目前まで戻って来ました。
ザックスは大丈夫かな・・・
クラウドは相変わらず魔晄中毒の症状が治る気配がない。
ザックスの死が無い、この状況で彼の自我を取り戻す事は出来るのかな・・・





停車させていたバイクの上で走り書きした日記。
書かないと決めた日記なのに、どうしても一言だけ吐き出したかった。

随分表紙のすり減った日誌を閉じると自分の鞄の中にねじ込む。
後ろで私にもたれるように座っているクラウドの体勢を整えてから、バイク用のゴーグルをかけ直し、エンジンをかけた。

先程双眼鏡で確認したが、先には神羅のヘリや軍用車がちらちらと見えていた。
私はその包囲網に見つからないように遠巻きにミッドガルへと近づいて行く。



「もうすぐ・・・もうすぐミッドガルだからね。クラウド、頑張ろうね」
「う・・・うあ・・・・・・・」

相変わらず話しかけてもうめき声しか帰って来ないが、反応無しだった時に比べればかなり良くなっているのだろう。

いよいよゲートが近くなり、逸る気持ちを抑えながら深呼吸をする。
グリップを握る腕に力を込めると同時に、突然目の前の地面に銃弾が撃ち込まれた。

その衝撃に驚いてハンドルを揺らしてしまい、バランスを崩したバイクは倒れそうになる。
私はなんとか両の足で転倒を防ぎ、バイクが完全に倒れる前に己の足とクラウドを引き摺りだした。

クラウドを支えながらバイクの横に立つと、岩陰から神羅兵が数人出て来た。


(しまった・・・向こうも隠れてるかもってこと、すっかり頭から抜けてた・・・)

「そこのお前、ミッドガルに何か用か?」
「あはは、用事に決まってるでしょ。 神羅さんって、いきなり一般人に襲いかかる人の集まりなんですか?」
「お前が一般人か、それとも脱走者に手を貸す共犯者かはこちらが判断する事だ」
「申し訳ありませんが、心当たりがありませんね」

部隊長と思われる人が手を上げると、後ろに控えていた兵が一斉に銃を構える。
数は4人、隊長を入れて5人か・・・もしかしたらまだ岩陰に1人か2人いるかもしれない。

残念ながら、銃を持った軍人5人と戦って無傷で切り抜けられるような力量は私にはない。
ふいうちならまだ可能性はあったが、警戒態勢なうえにクラウドも守らなくてはならない。


(せめて、クラウドだけでも逃がせれば・・・)

モタモタしていれば他の隊にも連絡が行き、すぐに人数が増えて行く。
もう既に私たちの情報が軍全域に行っているのかも。
そう思うのと、身体が動くのは同時だった。


「バリア!」

自分の目の前に防護呪文を放ち、急いでバイクの車体を起こす。
クラウドを車体に乗せようと立ちあがらせた瞬間、バリアで出現した盾を破り、一発の銃弾が私の太股に命中した。
足に痛みが走り、私はその場に崩れ落ちた。
体中の血液が沸騰しているような感覚が広がり、ドッと冷や汗が吹き出してくる。

「・・・流石に、プロの銃撃は違うね・・・」
「確保しろ!!」

血が流れ出ている傷を押さえながら、私はありったけの力でクラウドに保護呪文をかけた。

「・・・リジェネ・・・ウォール・・・リフレク・・・」
「女を捕縛しろ!!男の方は邪魔であれば始末しておけ!」

(捕縛の命令が出てるのは・・・私とザックスだけか・・・本編でもクラウドは放置だったもんな・・・)

魔法をひとしきりかけ終わり、相手の言葉に耳を向ける事しかできなくなった私は、部隊長の言葉を聞いていた。
そして、クラウドだけでも生き残れる可能性があることを思い出した。

周りを神羅兵に囲まれ、腕を掴まれて私は無理矢理立たせられる。
2メートルほど離れた所で指示を出している部隊長に向かって、私は話しかけた。


「ねぇアンタ・・・隊長さん、私の話を聞く気はない?」
「無いな」
「それは許さないよ。・・・私は今、14種類の自害の方法を持っているわ」
「何だと?」
「折角捕縛した手柄に、死なれちゃ困るわよね?あなたは私の話を聞くしか無いの」
「・・・・・話してみろ」


もちろん、自害の方法があるなんて嘘だ。
常に生き抜く事を考えてきたんだから、自分で自分の命を断つ事など思いもしなかった。
でも、今を切り抜けられるのなら、私の人生なんてどうなろうと構わない。

我ながら、大した神経だと自虐の笑みさえでてくる。


「・・・金髪の彼を無傷でミッドガルに連れて行ってくれれば、私はおとなしくついて行くわ。選んで。2人とも生かすか、2人とも殺すか」
「・・・・・・チッ、わかった。今からこの男をゲート内に入れる。お前はそれを見届けてからこちらに着いてきてもらう。その代わり、お前が自害した時点であの男も捜索して殺す」
「構わないわ。私だって命は惜しいもの」


部隊長がクイ、と兵の一人に合図をすると
その兵士はクラウドの腕を掴むと、そのまま肩に担ごうとした。


その瞬間、ズガッ!という大きな音。 
クラウドに近づいた兵士が吹っ飛び、岩に身体を叩きつけられていた。







「え」

「なっ・・・構えろ!! ・・・貴様、最初からこのつもりでいたのか・・・!」
「い、いやいやいや!!だって魔晄中毒・・・あ、ほらあの人が足を滑らせたんですよきっと」
「ふざけるな!」

ガション、と私の頭に銃が突き付けられ、私は再び冷や汗が背中を伝うのを感じ取った。

そして、数秒の静寂の中、真っ白だった頭の中に誰かの声が流れて来た。



"お姉ちゃん、そのひと、めがさめた"

"だいじょうぶ、おねえちゃんが、まもったから"

"あのひとの事、わすれちゃったけど、やくそくは、おぼえてるよ"



"アンタを、守る。約束、したんだ。"








「・・・・・・だれ?」

まるで子供が話すような、たどたどしい言葉が聞こえる中で
一つ、ハッキリと聞こえる、凛とした強い声。

「クラウド・・・のこえ?」

私がそう呟くと同時に、クラウドが背中の大剣を振り上げ、また一人兵士を薙ぎ払った。

その双瞳は澄んだ空色、そして強い光を携えていた。


「な、クラウド・・・大丈夫なの? 痛っ!」
「おい貴様!大人しくしなければこの女を殺す!!」

ゴリッ、と後頭部に押しつけられた銃口。
そのせいでクラウドの動きがピタリと止まり、2人の兵士がクラウドを囲んだ。

しかし、私も黙って助けを待つヒロインではない。
部隊長がクラウドに気を取られている隙をついて、腰の剣で手首を切りつける。
怯んだ腕からマシンガンを奪い取り、生きている方の足で立ち上がって間合いを取る。


「くそ・・・この女・・・緊急信号を出せ!!」
「はっ!」

後ずさりした隊長は、兵士の一人にそう告げると、1人岩陰のほうへと離れて行った。
返事をした兵士も通信のためだろうか、クラウドから身を離し通信機のボタンを押した。

無論、ただ1人クラウドの前に取り残された兵士は言わずもがな華麗に吹っ飛んで行ったのだが。


私とクラウドの間に障害物がなくなると、クラウドはこちらに走り寄ってきて
再び座り込んでいる私を抱き上げ、そのままゲート下まで走って行く。



「あ・・・あの、クラウド?」
「大丈夫、じゃあないよな・・・でも、アンタは俺が守る。約束しただろ?」
「う、うん!ありがとう、大丈夫だよこのくらい!」
(ザックスとの約束・・・そうか、この出来事があって自分とザックスを混合するようになるのかぁ・・・)

クラウドの腕の中でガッツポーズを取ると、クラウドは安心したように薄く笑みを浮かべ、目の前にそびえ立つゲートに視線を移した。


「クソッ、これを突破しなければミッドガルには入れないか・・・」
「それなら・・・多分私が持ってるカードキーが使えると思う!」

財布のポケット部分に入れておいたカードキーを取り出し
両手が塞がっているクラウドの代わりにカード差し込み口へ入れる。
すると、【ピピー】という電子音の後、ゲートがゆっくりと開いた。


「あー、良かった・・・使用不可になってたらどうしようかと・・・・・・」
「よし、このままスラムまで逃げるぞ」


そう言ったクラウドが一歩足を踏み出すと、足元に一発の銃弾が撃ち込まれた。
まさか、と思い後ろを覗きこむとそこには、先程の部隊長が銃を構えて立っていた。


「逃がしはしないぞ・・・」
「げっ・・・」


あちらさんは見事に殺気立っていて、とても話の通じる状態ではなさそうだ。
しかも今クラウドは私を抱えている。剣は振るえない。

万事休す。そんな感覚が私を包み、今度こそ腹を括る時が来たのだと実感した。


「・・・さっきはごめんなさいねー。今からそっちに行くから撃たないでね」
「貴様の言う事など信用できるか!」
「だいじょーぶ、今度はちゃんと私1人でいくからさ」

驚いた表情のクラウドから身体を離し、ふらつく足を叱咤しながら兵に近づく。

未だに塞がっていない傷からはドクドクと血潮が溢れだし、頭は貧血と緊張で真っ白。
視界はボヤボヤと揺れ動いて、今にも倒れそうな状態だ。


「駄目だ!!奈々、そいつらに着いて行ったら何をされるか・・・!」
「来ないでクラウド。遅かれ早かれ、誰かが犠牲にならなきゃいけない時って来るんだよ。今がその時で、私がそういう役目だってだけ」
「でも・・・・・・」
「女々しい! ・・・その代わりに、私のバッグと剣預かっててね。大事なものばっかりだから。ああ、一応言っとくけど、乙女の日記は読まないでよね?」

いらぬ心配をさせないように、少し振りかえって笑顔を送る。
私の鞄を持ったクラウドはそこに立ちすくんだまま、悔しそうに歯を食いしばっていた。


(ああ・・・あのクラウドの事だ。きっと自分の責任だと思っちゃうんだろうなぁ・・・)

せめて、優しい彼から私の記憶が抜け落ちてくれれば良いのに。
そんな願いが聞き入れられる事など、無いのだけれど。


私は部隊長の目の前に立つと、視線を下げて両手を上に上げた。
それを確認した兵士は素早く私の両腕を縛り目隠しをする。



私はそのまま、誰かに担がれながらいつの間にか意識を失っていて。
次に気がついたのは、見知らぬ無機質な部屋のベッドの上だった。







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