FF夢


 3-00





ザックスside



静かな室内で、すでに眠りにつきかけている奈々。
俺は震える指先をなんとか抑え込み、封筒を開けた。

そこには幼いころ、毎日のように見た文字がそこに書き連ねられていた。


今何をしているのか。
ちゃんとご飯は食べているのか。
夜更かししていないか。
無茶ばっかりしているんじゃないか。
周りの人に迷惑かけていないか。
元気でやっているのか。
たまには声が聴きたい。
寂しくなったらいつでも帰っておいで。


懐かしい文字を読み進んでいくと、まるで2人が話しかけてくれているようだった。

まさか、月並みな手紙がこうも嬉しいとは思わなかった。
あの寂れたゴンガガの、小さな一軒家が懐かしい。
小さいころはあんな小さい村で一生を終えるのは死んでもごめんだと思っていた。
だけど、今ではあの静かな村でのんびりゆっくり過ごせたらどんなに幸せか。
あのロフト部屋の布団でもう一度眠れたら。今度は2人の畑仕事もしっかり手伝わなければ。

朝は寝坊して、母ちゃんの怒った声と美味しそうな朝食の匂いで目を覚ます事が出来たら。

じんわりと視界が歪んだと思ったら、それはぽろぽろと流れ出てくる。
ああ、俺、泣いてるんだ。
気付いたら一層泣けてきて、年甲斐もなく鼻をすすった。

奈々の眠っているベッドに座って、そのまま後ろに上体を倒す。
後ろですうすうと寝息を立てている奈々の上に、背中からのしかかる体制だが、熟睡している彼女は起きる気配すら見せない。

遠い故郷から、こんなサプライズを運んでくれた小さな郵便屋。
俺は彼女の頭を撫でて、小さく「ありがとな」と呟いてから顔を洗いに洗面所へ向かった。




***




目を赤くしたザックスが出て行った室内では、眠っていた奈々がうすぼんやりと目を開いていた。

だが覚醒はしていないようで、寝ぼけ眼のままだ。
彼女は自分の視線の先にいるクラウドに向かって、寝言のように小さな声で話しかけている。


「クラウド、私、寂しかった・・・クラウドとザックスがいなくて、寂しくて・・・毎晩泣いて、俯いて、ささみに心配されて・・・でも、今は、幸せ。みんな一緒に・・・クラウド、早く元気になってね・・・」

うわ言のような、寝言のような微かな声は、ふつりと途切れる。
再び奈々が眠りについたようだ。

安らかに眠るその寝顔は、旅をしていた時とは違って随分穏やかなものだ。
すぅ、すぅ、と規則的な吐息と時計の秒針が動く音だけ響く室内。
その室内で、柔らかな声がする。



「おかえり、奈々。会いたかった・・・」

静かな部屋に響いた、穏やかな声。
それは誰が発したものなのか。夢の中にいる奈々にはわからないことだった。







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