FF夢


 3-07






トントン拍子でチョコボレースに参加することになった私とささみは、早速チョコボレースの会場にスタンバイしていた。

しかし、私はレーサーとしての練習も勉強もしていないので、走行ルートはささみに任せることにした。


「ささみに乗るのも久しぶりだなぁ・・・私は乗ってるだけだから、ささみよろしくね!頼むよ!」
「クエエェーッ!」

私を背に乗せたまま伸び上って、まかせろと言わんばかりに羽根をバタつかせるささみ。
元気いっぱいだし、どうやら心配なさそうだ。

そうこうしている間にもレースに参加するチョコボと騎手がスタート地点に集合した。
毎回思うけれど、あの赤とか紫のチョコボはどうやって入手しているんだろう。
しかし、見たところ私以外に山川チョコボに乗っている人はいない。
イコール、トウホウフハイとジョニーはこのレースに参加していないということだ。

ゲームプレイ時、海チョコボを手に入れるまでに散々苦汁を飲まされたのだ。
あの騎手がいなくて、正直ほっとした。

チョコボが全員位置に着き、遂にレース開始の合図が響く。
各々のチョコボが鳴き声と共に一斉に走り出す。


「よし、頑張れささ・・・みィッ!?」

随分張り切った様子のささみが、一気に加速してコースの一番前に躍り出た。
その加速についていけず、私はのけぞった体勢から普通に座り直すので精一杯だ。

「ちょっ、ちょっとささみ!いくらなんでも加速しすぎ・・・スタミナ持たないよ!」
「クエッ!」

ズドドドドドド、とけたたましい足音を響かせながら坂道を駆け上がるささみは、今まで一緒にいた中で一番活き活きとした表情をしていた。

目がいたくなるような色彩のコースを走り抜け、後ろを確認すると後続のチョコボは随分と遠いところを走っていた。
だがささみはスタミナ切れを起こすどころか、更に足を速めている。
その上中継用のカメラの前で飛び上がってみせたり、余裕そのものだ。

しかもむやみにスピードを出しているだけではなく、きちんとインコースをとっている所を見ると、ささみは天才的なレーシングチョコボなのかもしれない。


私とささみは他のチョコボと大差をつけて、一位でゴールした。
ゴールゲートでは、勝利のファンファーレが鳴り響き、ささみもその場で何度も飛び上がって喜びを現している。
私は初めてのチョコボレースだというのに、ささみの圧倒的なスピードに呆気にとられてしまい、素直に楽しむことも喜ぶこともできなかった。

まさか、彼女がここまで早いなんて。




***




「おつかれさま、ささみ。すっごい早かったねー、天才的だよ!」
「クエックェッ!」

会場から戻った後、頑張ってくれたささみの顔をわしわし撫でて褒め倒した。
ささみも嬉しそうに頬を摺り寄せてくる。可愛いなぁ、もう。
そんなほのぼのとした癒しの時間に、乱入者が一人いた。

「見事!素晴らしい走りだったよレディ」
「ありがとうございます。でも、頑張ったのはこの子ですよ」
「ははは、そうか。確かに、スピードもテクニックも素晴らしかったよ」

園長のディオが満足げな様子でこちらに歩いてきた。
その後ろには、チョコボレースアシスタントのエストが親指をたててウインクをしている。
ショッキングピンクの制服はどうかと思ったが、実際見てみるととても可愛らしかった。
これではジョニーが惚れてしまうのも無理はない。
エストが私の荷物を預かっていてくれたようで、彼女から鞄を受け取る。


「君には面倒をかけてしまったからな、園長である私からのプレゼントを受け取ってくれたまえ」

鞄をしっかり体にかけたと同時に、ディオから何やら紙袋を手渡される。
まさか・・・と思って中を見ると、案の定ディオのサイン色紙と2冊の本。タイトルには「ディオの激闘日誌」と「人生バクチ打ち」と書いてあった。
あまりにも予想通り過ぎるそのプレゼントに苦笑いすると、後ろのエストも同じような表情になっていた。

「あの、すいません、私、女なので、こういった熱血はよくわからないんですけど・・・」

しどろもどろになりつつ、それとなく「いらない」アピールをするが
ディオは豪快に笑ったきり、私の肩をばしばし叩くことしかしなかった。

「なあに、それはお嬢さんの恋人にでもプレゼントしてくれ!メインのプレゼントはこれだ」

そう言って勿体ぶった様子のディオが手渡してきたもの。
彼の手に乗せられたそれは、キラリと光を反射して輝く金色のカードだった。
受け取って見てみると、カードの表面にはエンボス加工で「Gold Saucer ticet」と描かれている。

金色の ごーるど そーさー ちけっと

頭の中で片言のように反芻すると、私のテンションが一気に最高潮まで達した。

「こ・・・こ、こ、こ、これは、もももしかして・・・!ゴ・・・ゴ・・・」
「うむ。ゴールドチケットだ。思う存分ここを堪能してくれたまえ」
「きゃあああやったぁ!ありがとうございます!嬉しいー!!」

正直、こんなに嬉しいプレゼントが頂けるとは思っていなかった。
頭の中は未だ喜びで真っ白なのに、体は嬉しさを精一杯に表現している。
いつの間にか、その場で飛び跳ねていた。

ディオは満足げに何度か頷いたあと、「ゆっくり休んで、明日出発すると良い!」と言ってくれた。
やっと頭が働きだして落ち着きを取り戻した私は、まだ私の目の前にいるエストに視線を移した。


「ふふふっ、そんなに嬉しかった?」
「とっても!」
「喜んでもらえてよかった。あのね、あなたのチョコボのささみちゃん。私が預かってるから、出発の時になったら声かけてね。それと、あなたのバイクは駐車場に止めてあるから、キーだけ持ってきたわ。あと、ゴーストホテルのスイートルームを取ってあるの。宿泊料はタダだから、ゆっくり休んでって」

エストから伝えられた伝言の数々を、何とか頭に入れて頷く。
彼女はデイトナの鍵を私に手渡したあと、手を振ってチョコボスクェアへと引き返していった。


「んー・・・せっかくだし、回るか!」

大切なチケットを財布に入れてから、ゴールドソーサーの光の中へと足を踏み入れた。



2回目となるゴールドソーサー。
砂漠の真ん中に建っているからか、夜になるとかなり冷え込むようだ。
私は鞄の中から上着を取り出しつつ、どこを攻略しようか考え込んでいた。

「こないだ来た時はあんまりゆっくりできなかったからなぁ・・・やっぱりまずはワンダースクェアに行ってミニゲームで自分の最高記録を塗り替えるでしょ。それからスピードスクェアのシューティングコースターで40000点最高記録出すでしょ。その後はどこに行こうかな・・・」

ぶつぶつと呟きながらマップを眺める一人の女。ぶっちゃけかなり怪しいだろう。
そう思うとまるで『一人デ○ズニー』のような、なんとも空しい気持ちになる。

だがそんな怪しい私にも声をかけてくれる人物がいたようだ。

「ヘーイそこのお嬢さん!ゴールドソーサー楽しんでますかー?」
「ん・・・?うわ、わあああ可愛い!楽しんでるよー!」

目の前に現れたのは、自称ゴールドソーサーのマスコット、ケット・シー。
何故このタイミングでここにいるのかはわからない。
きっとリーブさんはゴールドソーサーの監視も仕事なんだよ、と自分に言い聞かせてケット・シーに近づく。

ふかふかのデブモーグリに乗った、可愛らしい黒猫。
実物を見ることができて、本当に感動した。

「そない嬉しいそな顔されたら、ボクもマスコット冥利に尽きますわ!」
「私、奈々って言うの。あなたは?」
「ボクはケット・シー。どうぞお見知りおきを、奈々さん!」

メガホンを持っていない方の小さな手がこちらに差し出される。
その手を恐る恐る握ると、気のせいか若干暖かかった。
思わずそのままデブモーグリとケット・シーに抱きつく。

「わわわわ、可愛いー握手っ!ぎゅってしてもいい!?」
「おじょーさん、ボクが"イイ"言う前にギューしとるやないか」

ケット・シーは少し呆れたような声色だったが、短い腕で私の背中あたりをぽふぽふ撫でてくれた。
こういう大人な対応は、やはりリーブさんから受け継いだものなのだろうか。


こんな癒し要素が、ゆくゆくはパーティメンバーなんて・・・やっぱりこの世界に来て良かった。




 [ν]εγλ‐0007年 04月02日 天気・曇り

ゴールドソーサーで思う存分遊んだら、いつのまにやら日付が変わっていました。
ゴーストホテルのスイートルームは怖さもスイート級らしいです。
深夜に一人きりは怖くて、ついダリアさんに電話してしまいました。
出来るだけ早く帰って、ザックスとクラウドとクジャに会いたいなぁ・・・







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