FF夢


 8-25



Side 【Cid】

神羅のウェポン討伐隊がルビーウェポンを撃破した頃、シドたちは未だにエメラルドウェポンに苦戦を強いられていた。
エメラルドウェポンはルビーウェポンよりも巨大でHPが高いだけでなく、非常に面倒な攻撃パターンで攻撃を仕掛けてくるのだ。更にはこのエメラルドウェポン、独立して行動をする『目』が4つもついている。
本体ばかりに気を取られると4つの目から集中砲火を受けてあっという間に戦闘不能状態まで追い込まれてしまう。そんな厄介なウェポン相手に、シドたちは消耗戦に突入していた。

「も、もう魔力がからっけつや…」
「ええ〜! ケット・シー、エーテルターボ何個めだよ!」
「そんなん言うても仕方ないやろ! ボク、あの目が開くたびにアルテマ2発ずつ打ってんねん!」
「オイオイ、喧嘩すんな。余計に疲れちまうぞ」

ユフィが奈々からくすねていた『せんすい』マテリアの効果で、シドたちとエメラルドウェポンの周囲はすっかり水が無くなって空気のドームができている。この現象を見た奈々は『えっ、潜水じゃないじゃん!』と突っ込みを入れたが、おかげでシドたちは普段通り動くことができているようだ。
しかし、それにしてもエメラルドウェポンは体力がありすぎる。中々決定打を与えられないまま、疲労とダメージばかりが蓄積して行った。

『ウェポン討伐隊がルビーウェポンを撃破! みんな、あとはそのエメラルドウェポンだけだよ!』
「ほぉ〜、アイツらもやるじゃねェか。こっちも負けちゃいられねえなあ」
「くっそー! 先越された!」

奈々からの速報に触発されたユフィが、属性マテリアによって雷を帯びた手裏剣を振りかぶる。そのまま勢い良く放たれた手裏剣がウェポンに命中すると、当たった場所にバリバリと青白い雷が走った。

「この調子でユフィちゃんがアイツを倒しちゃうもんね〜!」
「せやけど…アイテムが無くなって来てしもたなぁ。倒しきれるんやろか」
「情けねえ事言うんじゃねえ! …って言いてェ所だが、確かにこりゃあ厳しいな」
「ちょっとちょっと! せっかくアタシがやる気出してんのに!」

なんとか通常攻撃を与えているので着実にダメージは蓄積しているだろうが、数値にして100万HPを誇るエメラルドウェポンに対して決定打にはなり得ない。どうしたものかと3人が頭を抱えた瞬間に奈々からの通信が入った。

『まずい、そろそろ目が開くと思う』
「アカン、魔力切れや〜!」
「ええー!?」

度重なるアルテマの連発によって、とうとうケット・シーの魔力が尽きてしまったらしい。
エメラルドウェポンの肩部にある4つの目が開き、シドたちを見据える。このままでは集中砲火を受けてしまい、戦況が一気に崩れてしまう可能性がある。
とはいえ魔力が切れてしまってはシドたちに成す術は無く、彼らは来たる攻撃に備えて防御体勢を取った。

すると突然、エメラルドウェポンに夥しい量の爆撃が降り注いだのだ。3人揃ってポカンと口を開いていると「せんすい」マテリアによって作られた空気のドームの上を、何者かの影がぐるぐると旋回していることに気がついた。

「あれ…潜水艦?」
「神羅製じゃねえか。何だって、こんな危ねぇ所に来たんだ?」
「もしかして…援軍、ですやろか」

小回りを利かせて方向転換した潜水艦から、脱出ポッドのようなものが射出される。そのポッドは真っ直ぐにシドたちの元まで落下し、中から赤い衣の塊が飛び出して来た。

「ヴィ…ヴィンセントぉ!」
「久しぶりだな」

忘らるる都でエアリスの護衛にあたっていたヴィンセントが、何故ここに居るのだろう。そんな疑問を感じ取ったのか、彼は誰に聞かれる前に自らの口で語った。

「先ほど、ナナキが忘らるる都に来た。自分がエアリスを守るから、ウェポン戦の加勢に行ってくれとな」
「ナナキ、やるじゃん!」
「色々思うところはあったらしいが、ウェポン相手では自分の爪や牙よりも私の銃の方が効果的だと考えたらしい。賢明な判断だ」

ヴィンセントは銃を構えながら「それと、土産だ」と言ってアイテムを使用した。まばゆい光が広がると共に魔力と体力が一斉に回復する感覚からして、彼はラストエリクサーを使用したようだ。
シドは呆気に取られていたが、やがてニヤリと笑ったあとにヴィンセントへ自分のつけていたイヤホンを投げ渡した。

「これは?」
「奈々と繋がってる。聞いておきたい情報もあんだろ、つけとけ」
「ああ、わかった」

イヤホンを外したシドは、次いで「てきのわざ」マテリアを外してユフィへと投げた。黄色く輝くマテリアを見事にキャッチしたユフィは「バトル中にマテリア外すとか、正気〜?」と文句を言う。

「オレ様にゃ行動パターンだのルーチンだのってのは合わなかったんだよ。これで、空を駆けるみてェに自由に戦えるってモンだ!」
『確かに、シドはその方が本領発揮できるかもね。ヴィンセント、エメラルドウェポンは雷属性に弱いから、属性マテリアを持っていたら装備しておいて』
「了解した」
『それと…あの4つの目、独立して攻撃を仕掛けてくるだけじゃなく、目が開いていると強力な攻撃を使ってくる。開いた瞬間に範囲の広い攻撃で一気につぶして!』
「そこはボクのアルテマ2連発と、シドさん…やなくて、ユフィさんのベータで潰してます!」

奈々の説明を聞きながら素早く装備を整えたヴィンセントは、さっそく雷属性が付与された銃でエメラルドウェポンを撃ち始めた。それだけでなく、彼が「お前たち、聞いていたな」とどこかに呼びかけると、空気のドーム周辺を旋回していた潜水艦から夥しい電流が流れた。
海生モンスター駆除用の電流は真っ直ぐにエメラルドウェポンに命中したが、同時に近接攻撃を仕掛けていたシドも「あががが!」と叫び声を上げた。

「オイてめェら! 気をつけやがれってんだ!」
『も、申し訳ありません!』
「うわー、知らないオッサンの声がしたんだけど」
「ユフィ。奴らは以前、ヒュージマテリアの件で捕虜にしていた兵士たちだ」
『その話を聞いて、もしかしたらまだジュノンに居るかもって…連絡を取ってもらったの』

ヴィンセントの言葉に、ユフィは「ああ!」と彼らの存在を思い出したらしい。ヒュージマテリア争奪戦の折に神羅の潜水艦を占拠したヴィンセントたちは、逃げ腰になっていた兵士たちに温情をかけて捕虜にしたのだ。

『神羅軍人として恥ずべきことかもしれないが…我々はあの時、貴殿らに命を救ってもらった事を感謝しているのだ。本来であればジュノン海底魔晄炉を守るのは自分たちの役目だが、ウェポン相手に自分たちではあまりにも力不足だというのは理解している。ならばせめて、共に戦わせてほしい!』
「ケッ、良いじゃねえか! その心意気、受け取ったぜ!」

嬉しそうに笑ったシドが再び槍を構え、呼吸を整えた。美しく水平に保たれた槍の穂先には、雷がパリパリと青白い軌跡を残す。次の瞬間、シドはエメラルドウェポンに向かって走り出し、勢い良く横薙ぎの攻撃を食らわせた。
彼の猛攻はその一発だけに留まらず、2回、3回と目にも留まらぬ速さの攻撃を数度くり返した。流石のエメラルドウェポンもかなりのダメージを受けたようで、その巨体が一瞬動きを止めた。

「今だ、ユフィ!」

連撃を終えたシドがサッと横にはけると、シドの背後で気を溜めていたユフィがウェポンと相対する。ユフィが精神集中すればするほど彼女を取り巻くオーラは輝きを増し、果てにはユフィをすっぽりと覆い隠してしまうほど大きなものになった。

「秘術、森羅万象!」

ユフィの掛け声と共に巨大な球状だったオーラが勢い良くウェポンへと襲い掛かる。眩い光の帯となったオーラがウェポンを包み込み、大きなダメージを与えた。
エメラルドウェポンが反撃に踏み出そうと目を開けば、その瞬間に奈々の『開いた! 全体魔法よろしく!』という声が響き渡る。

「ボクだってやったりまっせ! アルテマ2連発や!」
『電流チャージ完了、発射する!』

ケット・シーのアルテマと神羅潜水艦からの電流がエメラルドウェポンを襲う。遠くから銃撃を食らわせていたヴィンセントがこの好機を逃すわけもなく、彼は「忌まわしき力だが…役立つ瞬間が来るとはな」と呟く。
突如吹いた突風にシド、ユフィ、ケット・シーが振り返ると、その視線の先には異形の姿に変わったヴィンセントが黒い翼を広げていた。

「何アレ!」
「ヴィンセントさんのあの姿、話には聞いてましたが…物凄い迫力やなぁ〜」

突風を巻き起こしながらエメラルドウェポンのすぐ傍まで飛翔したヴィンセントは大きく上体を反らし、その蝙蝠のような羽根を素早く何度も振りかぶった。あまりにも早い羽ばたきから繰り出されるのは無数の風の刃。数え切れない真空波を食らったエメラルドウェポンは、ついにバランスを失って海底に崩れ落ちた。

「アイツ、飛空艇も無しに空を飛んでやがる。いいご身分なこった」

シドが口に咥えた煙草に火をつけながら言う。ヴィンセントは攻撃の手を緩めず、エメラルドウェポンから距離を取って銃を構えた。エネルギーが充填されるにつれて銃口には雷電を帯びた光が集まり、そして「とどめだ」という一言と同時にヴィンセントは引き金を引いた。
魔晄キャノンにも似た、目が眩むような銃撃にユフィたちは思わず目を閉じる。ようやく光が収まった頃、彼らが目にしたのは完全に動きを止めたウェポンが光の粒と化して星に還って行く様子だった。


「た、倒した…ウェポン…アタシたちが!」
『すごい…みんな、本当にすごいよ、お疲れ様! 怪我は大丈夫?』
「おうよ!」
「奈々さんも、おおきに! あのデータが無かったら、ボクたち全員踏み潰されとりましたわ!」
『ううん、少しでも力になれてよかった』

彼らがエメラルドウェポンを撃破したことにより、晴れて全てのウェポンを倒しきることができた。あとは北の大空洞へと向かったクラウドたちがセフィロスを倒してさえくれれば、この星を迫り来る危機から救い出すことが出来る。
奈々は挨拶もそこそこに『私、このまま避難誘導してる人たちのお手伝いに行くよ。みんな、本当にお疲れ様。ゆっくり休んでね』と言い残し、通信が終了した。

「ウェポンと戦ってる最中、奈々が帰って来てくれて本当に嬉しいなぁって思ったよ。まるで一緒に戦ってるみたいでさ」
「ボクは奈々さんの魔力量の多さを思い知らされる一方でしたわ…あんなモン普段から連発しとった奈々さん、ホンマに頭おかしいんとちゃいます? 良い意味で」
「ね、早く地上に戻ろうよ! もう海底も飽きちゃったしさ。デブモーグリさ、エンジンとかついてないの?」
「ユフィさんの言うようなエンジンはありませんよ。ご自慢の足で歩いたらええんちゃいます?」

賑やかに会話しながら海底を歩く2人と、一歩下がった場所でそれを眺めるヴィンセントとシド。いくつかの試練を乗り越えた彼らの元には、ひと時の平穏が訪れていた。

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