FF夢


 8-11



Side 【Cloud】

ユフィたちがジュノンでの一幕を終えたころ、少し前にロケット村に到着していたクラウド、ティファ、バレット、シドの4人はいつもより騒がしい村の中で息を潜めていた。
ヒュージマテリア騒ぎで、村のそこら中に神羅兵が居るのだ。この人数と正面衝突になったら、流石にクラウドたちと言えども厄介なことになるだろう。
ヒュージマテリアの所在がハッキリするまではこうして身を隠していた方が得策といえる。
そんなクラウドたちのもとへ、ジュノンへと戻ったケット・シーから通信が入った。

『クラウドさん! 3時間ちょい前に、そちらへヒュージマテリアの乗ったゲルニカが向かったそうです! スンマセン、さっきまで海底にいたもので連絡が入れられませんで…』
「気にするな。ゲルニカか…だとすると、もうすぐこっちに到着する頃か」
『あ、ジュノンのヒュージマテリアは無事に回収しましたんで、後は頼みましたよ!』

ケット・シーの報告に、クラウドは「そうか、分かった」と返して通話を切る。
これは身を隠しておいて正解だった。とクラウドは思った。ここで下手に騒ぎでも起こそうものなら、ヒュージマテリアはロケット村に来ることなくどこかへ持ち去られてしまっただろう。

クラウドとケット・シーの会話を横で聞いていたシドが、じっと目を凝らして空を凝視する。
そして「見ろ! 噂をすりゃあ飛んで来たぜ!」と声を上げた。豆粒ほどの小ささだが、確かに小型の飛空艇が飛来してきている。
クラウドたちはすぐに立ち上がり、飛空艇が着陸するであろう予測ポイントへと急いだ。


シドが予測したポイントに辿り着くと、そこにはちょうど今しがた着陸したばかりのゲルニカが停まっていた。中からは2人の兵士を引き連れたレノが姿を現し、クラウドたちの顔を見て「ゲッ」と嫌そうな表情を浮かべた。

「ジュノンでお前らのお仲間と会ってからそんな予感はいていたが…手分けとは、中々賢いじゃねえか」

つい3〜4時間ほど前にジュノンの海底魔晄炉に居たレノが、今度はヒュージマテリアと共にロケット村に居る。タークスが人員不足というのも本当のことらしい。

「お前らがここに居るって事は、情報源はやっぱり奈々か?」
「奈々はどこにいる? お前らはヒュージマテリアで何をするつもりなんだ?」
「質問は一個ずつ頼むぜ。こちとら不眠不休で疲れてんだ」

レノが奈々の事を知っているならば、うかつに手出しはできない。苦い顔でレノの言葉を待つクラウドたちに、レノはニヤリと余裕の笑みを浮かべながら言った。

「お前ら本当に仲間思いだな。ジュノンに居たお仲間も、奈々のことを教えろとうるさかったなぁ」
「御託はいいから、とっとと吐きやがれってんでぇ!」
「そう怒るなよ。短気は損気だぞ、と」

のらりくらりと質問をかわすレノ。彼はジュノンでの問答と同じように、ここでもあからさまな時間稼ぎをしているようだ。
クラウドたちが痺れを切らす一歩前で、ようやくレノは「あいつは生きてる」と言葉を発した。

「そもそも、生きてなきゃ攫ってきた意味がねえだろ? 今頃神羅で大事に軟禁でもされてるんじゃねえの」
「やはり…奈々と連絡が取れないのは、お前達の仕業だったか」
「まぁ俺もあいつと直接会ったわけじゃねえし、あんまり詳しくは知らないぞ、と」

レノがやれやれと言った様子で自身の時計を見る。そして、どこからともなく愛用のロッドを取り出し、戦闘体制に移った。

「俺が知ってるのはこの程度だ。あとは社長にでも聞いてくれよ」

突然の戦闘開始だったが、クラウドたちは躊躇う事無く武器を構える。負けじと、レノの両脇には銃を構えた兵士も加わった。

「残念ながら今の俺はものすごく機嫌が悪いんだ。接待プレイはできねえぞ、と」

珍しく感情を露にしたレノ。確かに今の彼はすこぶる機嫌が悪そうだ。
それもそのはず。本来であればこの任務におけるレノの担当はジュノンのヒュージマテリアのみだったのだが、ロケット村に来るはずだったルードが別の任務にあたっているため、その穴を埋めるために相当無茶なスケジュールで動いている。
ツォンもイリーナもミッドガルでの任務にあたっているので、この状況ではルードの穴埋めが可能なのはレノだけだった。
仕事は仕事、と普段であればスマートにこなす彼も、こうも過密に動き続けては疲労もストレスも溜まることだろう。


戦闘開始の合図は、兵士たちが放った銃弾からだった。
クラウドはそれをバスターソードで弾き、ティファとシドは空高く跳躍して銃弾を避ける。
反撃といわんばかりにバレットが銃を連射すると、レノは銃弾の着弾点から素早く飛び退いた。

「うぉらァ!」という掛け声と共に、シドが兵士の1人を頭上から叩きのめす。完全に視界外から浴びせられた攻撃に、兵士はなすすべなく地に伏せた。

「逃がさないわよ!」

シドの速攻が決まった次の瞬間、今度はティファがタイミングをずらしてもう1人の兵士を叩く。跳躍の勢いをそのままに、体重を一本の足にかけての踵落とし。兵士はそれをまともに食らい、一撃で昏倒した。

「あーあ、速攻かよ。泣けてくるぜ」
「後はお前だけだな」

クラウドの言葉に、レノは面倒くさそうに「チッ」と舌打ちをする。そして握ったロッドからバリバリと光線を出し、クラウドのバスターソードを受け流した。

「ぐっ…」
「おっと、金属製の剣じゃあ電流が通っちまうなぁ」

レノのロッドから放たれた電流が、バスターソードを通ってクラウドの腕に伝わったのだろう。
クラウドは両腕に襲い掛かる痺れに、手の力を失ってしまった。
その隙を突かんとロッドを振りかぶるレノだったが、クラウドを庇うように躍り出てきたバレットに攻撃を防がれる。

その時だった。レノの真横から音もなくティファのキックが飛んできたのだ。
レノは冷や汗をひとすじ垂らし、寸でのところで攻撃を避けた。しかし彼の体制が崩れたことを見逃すティファではない。彼女は鬼気迫る顔でレノとの距離を詰めた。

「奈々はどこなの! 今すぐに! 奈々を! 返しなさい!」

彼女がひとこと言うたびに放たれる、渾身のパンチ。やがてレノの回避が追いつかなくなり、ついにティファの拳がレノの腹部を捉えた。
ドスッ、と重い音がしたと思うと、レノはその箇所を押さえながら地面に蹲った。

「うぐ…ル、ルードのやつ…これを毎度食らってんのかよ…」

顔を青くしたレノは完全に戦意を失ったようで、力なくその場にうな垂れた。
しかし、曲がりなりにも彼はタークス。ただでは転ばない男だ。

「その中を調べたきゃ調べろよ。なにも、神羅が所有するゲルニカは1台だけじゃねえぞ、と」

その言葉に、シドがバタバタとゲルニカの中に駆け込む。しかし、しばらくして飛び出してきたシドは「中にゃ何もねえぞ!」と声を上げた。

「どういうことだ…まさか、マテリアは…」
「俺がいつ『ヒュージマテリアを持ってきた』なんて言った? 俺はただ『囮役』の任務としてここに来ただけだ」
「くそっ…やられたぜ…!」

ようやく、レノとこのゲルニカが囮であることを理解した4人。だが、そんな状況でもティファは諦めなかった。地に臥せたレノの胸倉を掴んで無理やり立ち上がらせ、凄みながら「ヒュージマテリアがどこにあるのか言わないと、今この場ですり潰すわよ」と言った。

「すっ…!? どこを? 何を?」
「ご想像にお任せするけど。で、どうなの?」
「…今頃、ロケットにでも乗っかってんじゃねえのか」

ロケット。その言葉を聞いた瞬間、ティファはレノの胸倉から手を離して「ロケットね、行きましょ!」とクラウドたちに呼びかけた。


バタバタと忙しなく立ち去る4人。その後姿を見送りながら、レノは1人で小さくため息を吐いた。

「1個ずつ質問しろっつったのは俺だが、答えを1つ貰ったくらいで満足しちゃダメだなぁ。言ったろ、俺は『囮』だって」

ニヤリと笑みを浮かべて立ち上がるレノ。
彼は服についた土をパタパタと払い、地面に倒れて気を失っている兵士2人をゲルニカの中へと投げ込んだ。


「ああ…俺としたことが。ヒュージマテリアすら囮だってことは言い忘れてたぞ、と」




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