世界征服狂走論 チカちゃん | ナノ
────屋上の、扉をひらいた。
そこには、痛いくらいにまぶしい青が広がっていて。
…空は、快晴。いつかのような空だ。いやな、きらいな、表情の空だ。
ひどくゆっくりとした動作で柵にむかう。
まるで、勇気を出してふみだす一歩のように。
まるで、一歩ごとにあの日に巻き戻るように。
ここからの、グラウンドの眺めもなつかしい。目が痛い。サッカー部たちがかけ回っている。少し前までは俺だってそこにいたんだ。俺たちの、居場所だったんだ。そこは。
無意味なため息をこぼして柵に背を預けると、ああ、思い出した。いつの話だ。一年前だ。
まぶたの裏にはりついて、やきついて離れない光景は、お前と離れてから何度もくりかえした。
ここに来たら、余計に、それこそ痛いくらいにはっきりと、だ。
喉の奥が痛い。
三年間とじこめられて、不満がうずまいた夏空の下でのこと。
理不尽だと気付いた世の中をたしか、恨んでいた。グラウンドにいた一年生がはるか遠くに思えて、キラキラしてるね、って言い合った。
…だけど、たぶん
あの頃の俺たちもきっと、キラキラしていた。
────なあ、知ってるか。
現国の武井はもうここにいないし、あの頃あった紙パック牛乳の自販機もなくなった。そもそも、この屋上だって立ち入り禁止んなっていた。「もしものために!」とか言ってお前がつくった合い鍵、役立ったんだ。
お前がいない間に、けっこう世界は変わったよ。
それぞれの道を歩き出して3ヶ月目で姿を消したお前はいま。今日であの作戦会議から一年だけど。
まさか宇宙人にでも会いに行ってんじゃねえだろうな。
……な、
あの日たてた作戦を、世界征服を、まさか。
言ったこと全部ちゃんと、覚えてんのかよ。
すべてが終わったらまた会おう、って
もしも覚えていたら、なんてそんなの
痛いくらい
きらいな表情をした快晴の空をまた、とじこめて。
屋上の扉を、しめたのだった。