りんごちゃんは貴方の名前は?ともう一度僕の名を催促してくる
僕の名前、僕の名前、
僕は必死に名前を思い出す事に努めた。
しかし、どうしても思い出せない。
せっかく僕が黙り込むからりんごちゃんは気をつかって先に名乗ってくれたというのに。
早く、早く思い出さないと、
沈黙が続きブランコから鳴るキィキィ、とした音だけがそこに響く。
りんごちゃんはいつまでたってもだんまりな僕にしびれをきかせ、とうとうどうしたの?と声をかける
「あ・・・」
ハッ、と我に返りりんごちゃんのほうへ顔を向ける。
まだ、名前を思い出せていない。どうしよう。
僕の顔を見てりんごちゃんは目を見開いた。
「あっ・・・その、なにか悪いことでも言ったかな、私。だったら、ごめんね。」
りんごちゃんは焦った声音で僕に謝った。
僕は酷く困った顔をしていたのだろう。自分でもわかる。今にも泣き出しそうだ。
何も悪くないのに、僕が一人で勝手に泣きそうになっているだけなのに、
優しいこの子は僕に謝ってしまった。申し訳ない気持ちが込みあがってくる。
「え・・・と、名前、何か言いたくない理由でもあるの?」
僕を泣かすまいとりんごちゃんはひたすらに優しく声をかける。
この子は、本当に優しい子だなあ。胸がきゅうと苦しくなる。
とにかく、何か言わないと。
「・・・わからないんだ」
「え?」
素直に、直行に伝える。
幾ら考えても僕の名前は出なかった。思い出せなかった。きっと自分の名前がわからないんだ。そういう答えにたどり着いた。
でも、名前がわからないだなんて、おかしいよね。
遊ぼうと先に誘っておいて、名前を聞かれて泣きそうになる。
どこからどう見ても普通とはずれた僕を、君は嫌ってしまうかな、軽蔑してしまうかな。
「・・・そうなの」
ほら、目を伏せた。
なんて言おうか、困っているんでしょう
「じゃあ、手伝ってあげる!」
「へっ?」
思わず間抜けな声が出た
手伝う?何を?
「貴方は見たところ名前が無さそうには見えません。きっと忘れたんでしょ?思い出せないんでしょ?だから、私に貴方が名前を思い出す手伝いをさせてください。」
どんどん言葉を連ねていくりんごちゃんにどぎまぎしながら、僕は必死に返す言葉を考える。
うん?ありがとう?よろしくね?なんと言えばいいのだろう。
僕が悩んでいる間にりんごちゃんはふと公園内にある時計に目を向け、おっと、と声をあげる。
「じゃあ、また明日、この公園で会おう。私、家が八百屋さんで、そのお手伝いをしなくちゃいけないんだ。だから今日はここまで。」
まだ返答をしていないのに、どうやらりんごちゃんは僕の名前を僕が思い出す手伝いをする気満々らしい。なんだか滑稽だな、今の状況。
展開についていけずにおろおろしていると、りんごちゃんはさっさとブランコから降りて僕に背を向ける。
「まっ・・・」
て。と言おうとしたところで、りんごちゃんは「あ、」と声を上げこちらへ顔を向ける。
「朝と昼は学校があるからここ来れないんだ。だから午後くらいに来てもらえるかな」
あ、やっぱり学生だったんだ。
しかしその言葉は飲み込み、
「う、うん」
とだけ返す。
りんごちゃんはさようなら、また明日!と手を振って今度こそ背を向け走り出した。
りんごちゃんがいなくなった公園はとても静かで寂しかった。
これから日が落ち暗くなる。
でも、明日になったらまた会えるのだと思ったら自然と不安はかき消された
ああ、これからまた暇になる。一人はつまらない。
早く明日にならないかな、
next...
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