体に強い衝撃が走る。どうやら僕は道路地面上に横たわっているようだ。
あれ、ここはどこだろう。ゆっくりと体を起こす。
見慣れた様な、そうでない様な、そんな場所。
立ち上がり、あたりを見回す。
ぼんやりとした意識の中、ここがどこだか確かめるべく僕は歩き出した。
ここは本当にどこなのだろう。というか僕は何でこんな所に倒れていたんだろう。というか僕って誰だっけ。
いわゆるここはどこわたしはだれ状態にある自分。そこまで状況判断が出来るほどに歩いている内に僕の意識は次第に鮮明になってきていた。
とある道路に出ると、学生と思しき人が多く行き交っていた。ここから学校が近いのだろうか。ここは・・・通学路・・・だっけ。学生が多く登校登下校の為に通る道。
今は日の暮れかた的に夕方か。きっと皆登下校中なのだろう。
と、向こうから一人の少女が駆け足でこちらへ向かってきた。
向かってきたといっても、僕に向かって来ているわけじゃないんだけども。
「あれ?」
どこかで会ったような、
その少女にすれ違う寸前、突然声をかけられた。
そういえば、自分もこの少女に見覚えがあるような、言われてみればそんな気がしてきた。
「僕も、君にあったことがある気がする」
「だよね?」
うーんと唸り試行錯誤する少女。
少女と一緒に僕も思い出そうと懸命に記憶を隅々まで探る。
なんだか、おしいところで何も思い出せない。
知っていた、ような、とても曖昧なそれだけで。
お互いにお互いを知っているのに、どちらも寸でのところで何も思い出せない。もどかしい。
「うーん、よく思い出せないけど、とりあえず私と貴方は仲が良かった気がする」
そうなのかな?
どうやら少女の方が記憶は濃いようだし、なによりそう言ってくれていることだし、
僕は素直に少女の言うことを信じた。
「なら、僕と遊ぼうよ」
え?と少女から気の抜けた声が出た。
僕には行くあてが無い。ここがどこなのか僕が誰なのかわからない。どうすればいいのかわからない。つまり、暇なのだ。ここはどこわたしはだれ状態の中暢気なものだが何故だか緊張感が湧かずにいた。
だからこんな言われた側にとっては頓珍漢なことを平然と言ってみせた。
でも、僕と君は仲が良かった気がするんだろう?
「僕、今暇なんだ。だから、遊ぼう」
少女は悩む素振りを見せる。見たところこの子も制服を着ているし、おそらく登下校中の学生だろう。
宿題とか、家のこととかで忙しいのかもしれない。だから悩んでいるのかな。
「用事があるんだったら、いいよ」
途端に寂しい気持ちに襲われる。
あれ、この感覚は、
自ら遠慮の言葉を言っておいて、何故だか寂しくてたまらなくなってくる。何故だろう。
わからずじまいだったが僕はとにかく先ほど言ったことの否定の言葉を待った。すると、
「ううん、大丈夫。いいよ。遊ぼう」
よかった。僕は安堵し胸を撫で下ろす。
突然、少女は僕の手を引いて小走りを始める。
うわわ、と突然のことに僕はよろけながらも、必死に少女について行った。どこへ向かっているのだろう。
疑問は心内に留めておくことにした。
少女が行った先は、公園だった。
いたってなんの変哲も無い、どこにでもあるような公園。
「ブランコにでも乗りましょうか」
少女はブランコに向かって駆け出す
僕は少女の後ろに続いてブランコに駆け寄る。
二人並んでブランコに乗り、距離が一気に縮まった。
「そういえば、貴方はなんていうの?」
なんていうの、とは、名前のことだろうか。
僕の名前、
あれ、
そういえば、僕の名前はなんだっけ
そもそも僕はどうしてここにいるんだっけ。
いつの間に、って言葉が妥当なのだろうか。
気付かぬうちにこの世界にいて、ふらふらと歩きまわっていた。
そして少女に話をかけられた、
それで今ここに連れてこられて・・・
僕はいつの間にか状況を整理する事に夢中になっていた。
僕がだんまりとすると、少女は頭上にはてなを浮かべる
どうしたんだろう、そんな顔をしている。
そういえば名前を聞かれているんだった。早く答えないと。
そう思った途端に、少女はにこっと笑って、
「私はりんご。あんどうりんご。」
と、先に名乗り出た。
りんごちゃん。懐かしくて、愛しい響きだ。
やっぱり僕はこの少女を知っている。
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