[フーム]
「(うわあ……)」
「いつ見ても素晴らしい!」
 施設のある実験室、わたしは責任者と一緒に実験室内を見学する。魔獣と人間の融合――話には聞いていたけど実際に見るのは初めてだ。円柱状の容器に特殊な液体が入っていて、その中で歪な形のものが蠢いている。気持ち悪い、それがわたしの第一印象だ。責任者は愛おしそうに容器の中のものを見つけていた。ガラスの板を叩いたり、言葉のようなものをわたしたちに向けて叫んだりしているものもいる。魔獣退治や超能力者から一般市民を守ることが施設の表の顔なら、ここはいわば施設の裏の顔だろう。
 暴走した超能力者で身寄りがない場合、施設が引き取る場合がある。いくつか条件はあるが、施設に引き取られた人は年に数回は必ず現れる。ときには遠くから引き取りの依頼が来ることもあり、毎年必ず研究の犠牲になる人は出てくる。依頼が来たときは部門の垣根を越えて幹部で臨時会議を開き、賛否を問う。わたしもその会議に出席しているが、引き取り予定の人に人権などないに等しい。施設にとって有益な存在か否かが最大の争点になっている。わたしは毎回聞くだけに徹していた。わたしなんかが意見しても却下されるに決まっている。
「最近魔獣が増えて嬉しいことなのですが、人のサンプルが不足しがちで……。メタナイト卿やカービィを調べてみたいものです」
「それだけは自重してください」
「失敬。とはいえあの二匹は研究者魂をくすぐられます」
 メタナイト卿やカービィはあんたたちの道具じゃない。彼らだってここで確かに生きている。わたしは責任者を睨みつける。研究者は喉を鳴らす。あまり効果はないようだ。研究者としてはある意味正しい姿勢なのだと思うけど、良心が傷まないのかしら。幹部ならもっと施設のことを詳しく知るべきだ、という幹部たちの要らない親切心から現状につながっている。わたしだって研究すること自体は好きだ。ただ、この人たちの研究は理解できない。
 仕事の一環と思って責任者の話を聞く。最終的な目標や、試作品ができたら実践に投入する、などなどたくさんのことを聞いた。ほぼ責任者の一人語りでわたしは特に話すこともなく終わった。気になることは何度か質問をして、記憶する。この研究室から出たら幹部たちと会話することになるだろう。そのときのためにある程度はここのことを把握する必要がある。気持ち悪い部屋を出て、わたしに研究室を把握するよう勧めた幹部とすれ違う。たぶん待ち伏せをしていたのだろう。
 すれ違った幹部は事あるごとにわたしに嫌味を言ってくる。わたしが仕事でミスをすると、どんな些細なことでもご丁寧にねちねちとわたしに直接言う。陰口より直接悪口を言ってくれたほうが心理的ダメージが少ないからまだマシなほうかも。表情で何が言いたいのか分かる人もたくさんいる。わたしが気づいていないとでも思っているのだろうか。それぐらい察することができなかったら今のわたしはいない。
「フームさん、カービィの行く末が分かっていただけましたか?」
「お気遣いありがとうございます」
 わたしは営業スマイルを保ちつつ幹部の人と話す。しばらくあの生き物たちを思い出して仕事が思うようにはかどらなくなった。異形のものたちの悲鳴が忘れられない。メタナイト卿やカービィに心休まる場所はないのか。カービィには学校に通ってこれからの生活に備え教養を身に付けてほしいし、メタナイト卿もこんな辛気臭い建物の中だけではなく落ち着いた雰囲気の喫茶店でゆったりとしたときを過ごしてほしい。
[カービィ]
 最近フームの元気がない。ボクはまだ言葉を話すことができないから、行動でフームのことを心配していると表現する。抱きついたり、フームの顔をじーっと見たり。フームはボクが心配していることを分かっているみたい。無理やり笑うフームは見ててつらい。ボクをナイトメアから解放してくれて、ずっと面倒を見てくれているフームはボクにとってママみたいな存在だ。怒られることもたくさんあるけど、それだけボクを大切にしてくれているってメタナイトが言ってた。
 フームがため息をついた。ボクはフームの部屋でお菓子を食べていた。フームはお仕事中だから、近くに行くのは我慢する。お菓子を食べたり、絵本を読んだり、おもちゃで遊んだり……。フームのようすを見る。フームはお仕事に集中できてないようだった。ボクはおもちゃを放り投げてフームに近づく。いつもは怒られちゃうけど、今は許してくれるような気がした。もう少ししたらブンが来る時間だ。ボクはフームの服を引っ張る。
「ぽよっ」
「カービィ、どうしたの?」
「ぽよぽよー!」
 フーム、進まないお仕事なんか無視して中庭でブンを待とう。今のままだったらこーりつが悪いよ。フームはパソコンの画面をしばらく見る。パソコンの画面には難しい言葉がたくさんあった。ボクは絵本を読むのが精一杯だから、パソコンの画面に何が書いてあるのかよく分からない。フームがマウスを操作すると、画面が暗くなった。確かしゃっとだうんっていうんだよね。お仕事が終わったら必ずしゃっとだうんする。ボクはフームと一緒に部屋を出た。
[メタナイト]
 施設に来てどのくらいになるだろう。フームという少女は幼いながらにしてかなりの知識をもっていた。長く生きてきた中で彼女は初めて見るタイプの人間だった。彼女は自分の立ち位置を理解して、数多くの制約の中で抜け穴を見つけてはできる限りもがいている。彼女が幹部になったのは後ろで操ろうとする愚か者がいたから。彼女はそのことを察してもなお幹部の地位を手に入れた。そして私の恩人でもある魔獣部門のトップに協力を仰ぎながら操り人形になることを避けている。
「フーム、一ついいか?」
「何?」
 中庭でカービィとブンが遊んでいる。フームと私は木陰で二人を見守っていた。カービィが来てからフームは生き生きとしている。カービィの世話は骨が折れるが、その苦労も彼女にしてみれば楽しくて仕方がないのだろう。良くない感情や見下している人が多く常に周りを警戒している彼女がカービィといるときだけは年相応、もしくは育ちざかりの子供を見守る母のような表情をしている。カービィは文字通りフームの癒しだ。私と一緒にいるときでもあそこまでリラックスはしていなかった。大人げないが少しだけカービィに嫉妬している。
 大多数の施設の人間は私を疎く思っているか好奇の目で見ているかのどちらかだ。魔獣部門のトップやフームは珍しい。彼らがいなければとっくの昔にどこか遠い所に行ったかもしれない。人型に擬態できるように仕組んだことのみが生みの親であるナイトメアを評価できる点だ。カービィが来たあと、魔獣部門のトップと話す機会があった。初めて会ったときから幾月が経ち、白髪が目立ってきた。一方の私はあの頃のままの姿を保っている。魔獣と人間の違い、本来ここは私がいてはいけない場所。
『カービィとフームを守ってほしい』
 憂いを帯びた顔でお願いされた。この人からお願いされるのは滅多にない。彼は今の立場でいられることが長くないことを悟り、自分が施設から離れたあとのことを心配しているのだ。カービィもフームも私たちからしてみればまだ幼い。フームはある程度自分の身を守る術を身に付けているが、カービィがかかわると感情に突き動かされる面がある。彼女らしいといえばらしいかもしれない。何かあったときは私が守ってみせる。
「――そなたはなぜ幹部になることを選んだ」
 施設の一職員として働く選択肢もあったはずだ。自ら茨の道を突き進むことに長年疑問をもっていた。フームは楽しそうに遊んでいるカービィとブンを見る。育ち盛りの子供を見るような、優しい眼差しをしていた。
「未熟なのは分かってる。でも、例え罠であっても守る力がほしかったの」
「実にそなたらしい。だが無理は禁物だ」
 フームは超能力者ではない。その代わり秀でた頭脳をもつ。彼女は多少の危険を冒しても守りたいものがあった。本来私はここにいてはいけない。しかし、今は彼女やカービィを見守るために存在している。フームはなんでも一人で背負い込もうとするときがあるので、私がしっかりとサポートせねば。あの人やフームの父上の代わりに私が彼女を守ろう。それが私に課せられた使命であり、ここにいる存在意義でもある。


(こんなちっぽけな魂でキミを守る事はできる?)
フームとカービィとメタナイト



つっこさん好きです。フーム→カービィ→メタの順で時間が進んでます。皆それぞれに守りたい者がいるっていう事を書きたかっただけです。
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