(忍たま乱太郎/乱太郎+しんべヱ→きり丸/成長,死)
在りし日
体を突き飛ばされた。 何が起こったのかわからない。ただ乱太郎の叫び声が耳に入るだけ。 ようやく体を起こした僕が見たのは、息が詰まるような綺麗な赤を身に纏ったきり丸だった。
「六年は組、以上十名…卒業試験クリア!卒業おめでとう!」
ワッと声をあげると、みんなは頭巾を上へ放り投げる。僕も一瞬遅れて頭巾を取ると、空へめがけて放り投げた。 ひらひらと舞う十枚の緑の布。 最高学年の緑の制服は、きっときり丸にも良く似合っただろうに。そしてゆくゆくは黒の忍装束姿を得意げに見せに来ていたかもしれない。
「わっ、ぷ!」
上を向いてぼーっとしていた所為で、頭巾が顔に降ってきた。 驚きもがく僕に、乱太郎が笑いながら声をかけてくる。
「しんべヱ、何してるのさ。ほら、早く行こう」 「え?どこに?」 「きりちゃんの所だよ。卒業できたこと、ちゃんと報告しなきゃ」 「あ…う、うん!」
走り出した乱太郎を追う。 校舎をぐるっと周り、教師長屋を通り越し、何が入っているのかわからない倉庫をいくつか通り過ぎる。 やがて見えてきた大木。ひっそりとしたその場所に、きり丸は眠っていた。
「私達、ちゃんと卒業出来たよ」
膝をつき墓石を撫でる乱太郎のその手は、小さく小刻みに震えている。 僕はそっと目を瞑った。
きっときり丸一人なら、あの戦場から生きて帰ってこれただろう。僕たちを助けたから、彼はこんな寂しい場所で眠ることになった。 今でも思い出すのは、赤。 見渡す限りの赤だ。 誰かも知らない足軽の血、全ての物を焼き払う炎。 それらが霞んでしまうほど、きり丸が流した赤は綺麗だったように思う。
「しんべヱ、私は卒業してもここに残ることに決めたんだ」
目の前で背中を向けて屈んでいる乱太郎の顔は見えない。 けれど震える肩が、震える声が、全てを教えてくれる。
「いつか忘れ去られてしまうなんて、絶対に嫌なんだ。私に出来ることはここに残り、彼を想い続けること…」 「僕も…絶対にきり丸を忘れない。ここには残れないけど、時間があれば足を運ぶから」
振り返った乱太郎の顔は、涙でぐちゃぐちゃだった。 気が付けば僕も涙を流していた。
ねぇ、きり丸。 君がいた日々がとても輝かしかったと気づいたのは、もう二度と君に会えなくなってから。 きっと近くにいすぎて、当たり前になっていたんだね。 こんなことを思うと、君は絶対怒るだろうけれど、それでも何度でも思ってしまうんだ。
もしあの時、きり丸と一緒に死んでいたなら…こんな辛い思いをせずに済んだのかな―…?
end. 20110917
智美様のみお持ち帰りOKです。 しんべヱ視点で書いてみました。初挑戦だったのですが、アリですかね…? 乱太郎の影が薄くなってしまったような気もしますが(汗 ちょっとした補足です→きり丸の死により、二人は忍術学園を必ず卒業することを目標に頑張ります。 それが達成出来た今、次の目標が見えず不安に揺れている…そんな状況だと思って読んでやって下さい。 リクエストありがとうございました! |
二万打記念でフリーリクエストを行っていたのでリクしました
しんべヱ視点はあまり見た事がないので新鮮な気持ちで拝見しています
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