キラキラと輝くステージと仲間たち。
 大舞台に立てることを望む小さな希望。
 俺はHiMERUが好きで、だからこそここにいる。そのはずなのに。


「こんな時に考え事なんて妬けますな」
 そう言ってグッと侵入してくる熱にHiMERUの喉はヒュッと短く息を吐いた。話しかける男、風早巽だって本当はHiMERUの恋人なのに。なのに今はなぜか俺と恋人の真似事をしている。
「巽のことを考えていました」
 嘘。それもかなり稚拙。それでも巽は笑ってそうですか、と短く返した。
 口ぶりとは裏腹に切羽詰まったような動きが可愛くて、つい手を伸ばし巽の首に回した。無言でキスをねだる。するとすぐ沢山のキスが降ってきた。唇、ほお、おでこに耳や首筋まで。くすぐったくってちょっと笑ってしまった。
「やはりキス、お好きですな」
 それはHiMERUのことだった。でも今は俺のことなのかもしれない。もはやどちらでもよかった。この気持ち良さに今だけは溺れていたかった。
「巽っ……」
 自分も切羽詰まったような声になっていた。こんな状態では巽のことは言えないな。気持ち良さに任せて現実から逃げるようにキスをした。前とは違う。自分の意思で。HiMERUを辞めたいなんて一度たりとも思ったことはないけれど今だけは俺は俺でしかなかった。逃げ込んだ先が暗いシーツの中なんて笑える。でも今だけはそんな感傷は放っておいて、この逃避行を満喫しようと思った。

逃避行

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