「巽さん、巽さんですね。こんなところでお会いするとは…すみませんすみません、冗談です、巽さんがいらっしゃるのではと思って足を運んできました。教会に何の用かって。そうですね、教会……と言うよりは巽さんに用があって参りました。でもあなたのお邪魔はしませんので。
よろしければ私の罪の告白を、聞いてくださいませんか。ええ、ええ、そんなお時間ありませんよね、ごめんなさい……私なんかが出過ぎた真似を……卑しく矮小な自分には相応しくない申し出でした……すぐ消えてなくなりますので……え、聞いてくださる。本当に。嬉しい、ありがとうございます、神は私のようなものでも見捨てないのですね。Amen。ああ、つい、巽さんの口癖を……ごめんなさい……私なんかが口にしていい言葉ではありませんでした、今すぐ消えてなくなりたい……え、いいから早く本題をですって。そうですよね。こんなことにお時間を頂戴しているのに……ええ、ええ、話します。話しますとも。では懺悔のお時間です。」
「私は一人のアイドルを、人を殺しました。いえ本当に殺したわけではありません。本当です、本当ですからどうか落ち着いて座っていてください。彼は生きていますので。ええ。彼は素晴らしいアイドルとして今も生きています。だから落ち着いてください。
 巽さんもご存知でしょう。私の卑しい生き甲斐を。ええ、私は私の卑しい欲望から1人のなんてことない人物を、美しい偶像に作り替えてしまったのです。彼は最初から光るものを持っていました。それはそれは素晴らしいものでした。ただ彼はそれに全く気付くことなく日々無駄な、と言っては失礼ですが、効果の薄いトレーニングを黙々と続けておりました。その姿がたいそうおいたわしく……つい手を出したくなってしまったのです。私は彼に話しかけました。そっと……悪魔の囁きのように……彼はその言葉で雷に打たれたように目を丸くして、そうだったのか、と叫びました。それからしばらく彼のレッスンを手伝いました。ああ、なんと素晴らしい日々だったことでしょう。くる日もくる日も練習は続き彼は別人のように成長しました。周りからも再度評価を見直されアイドルとしての一歩を着実に歩んで行きました。しかし彼は私の指導をうけるうちに本来の自分を見失ってしまったのです。いえ、これだと懺悔になりませんね……ごまかさずにお伝えします。私は彼の本来の姿がアイドルをする上で一番不要なものと判断しました。だから……少しずつ少しずつ彼の本来あるべき姿を否定して、粉々にして再構築することにしたのです。これは大変成功いたしました。その結果彼はスーパーアイドルになり、引きかえに本当の自分をなくしてしまったのです。そうです。私が殺したのは彼の本来の人間性です。アイドルとして生きるために自分を殺されてしまったかわいそうな人……ああ、なんて私は残酷で恐ろしい生き物なのでしょう。時々自分が怖くなります。巽さん、あなたもどうかお気をつけて……自分でいうのもどうかと思いますが、私は本来自分の欲望に忠実で残酷な存在なのです。」
「ここまで聞いてくださって本当にありがとうございます。そして大変失礼いたしました。こんなこと言うべきではなかった。だってせっかく同じユニットになれたのに自分でまた溝を……でも巽さんなら、とちょっと期待をしてしまったのです。やはり昔と何も変わっていないようです、人につけ込んで自分の欲望を満たす卑しい性格は……」
「巽さん、ではまたお部屋で……ああ、最後にこのお話はここだけのお話にしていただけませんか。お二人にはまだお伝えすべきではないかと思い……ああ、すみませんすみませんすみません、巽さんにばかりこんなもの背負わせてしまって……問題ない、ですか。むしろ話してくれて嬉しいですって!ああ、なんて眩しいお方だ!浄化されてしまう……そうなる前に私は退散させていただきます!こんな逃げ腰でごめんなさい。お時間ありがとうございます!ではまたすぐにでもお会いしましょう!今度は何事もなかったかのように!さようなら、さようなら」

私の懺悔を聞いてくださいますか

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