「HiMERUさん、君はHiMERUさんではありませんね」 巽とHiMERUが誰もいないCrazy:Bの居室で会うことが当たり前になってきた頃、例の如く二人は部屋で身体を重ねていた。こんな関係もずるずると続くと心が麻痺して耳障りな声も心地よく感じる気がした。
行為のあと巽はおもむろに呟いた。心地の良い響きに相応しくない恐ろしい言葉。 何が違うって。わからない。 「なんでそんなことを言うのですか、巽」 前にもそんなこと言われたなと思ってごまかす方向でいつもと同じ調子で困った声を出した。 だが思考とは裏腹にHiMERUの心臓は早鐘のように鳴り、ごまかせているとは到底思えなかった。 「今までは1年経ったから変わったのだと思っていました」 巽はHiMERUの疑問を聞いているのかいないのか。そのまま言葉を続ける。 巽の口ぶりからこれは確信していると分かってしまう。ああ、この関係も終わりか。ごめん、HiMERU。俺はHiMERUにはなれないようです…… 「要さん」 再会して初めての夜に呼ばれた名前が降ってくる。ああ、それは俺の名だ。HiMERUになった時捨てた名前。風早巽には知られたくなかった、俺のたった一つの真実。 「なぜ……」 それ以上続かない。なぜその名がHiMERUではないとわかったのか。聞きたいことはたくさんあった。言いたいことも。 本当は俺はHiMERUじゃない、お前なんか嫌いだと今まで我慢してきた気持ちをぶつけたかった。だが逃げられない。それだけこの関係は『俺』の中にずっと刺さっていた。 「俺はそれでも君を愛しています」 例え誰あっても……そう言って巽はHiMERUの身体を引き寄せてそっと告げる。HiMERUは逃れようと身体を捻るが思った以上に巽の力は強かった。 「……やめてください!」 やめて……やめてくれ。涙があふれてきて目をギュッと瞑ると巽の腕にさらに力が入ったような気がした。
どんな君でも愛しています
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