「君に会いたいとずっと思っていました」 耳障りな声で睦言を紡ぐ男をHiMERUはぼんやりと眺めていた。
ここはHiMERU達『Crazy:B』に割り当てられた星奏館旧館の居室。本来は皆でここに住まなければいけない決まりなのだがここで過ごすものは誰もいない。そのためHiMERUは風早巽との逢い引きにここを選んだ。 「HiMERUさん、ずいぶんご無沙汰になってしまいましたがまた会えて嬉しいです」 「HiMERUも巽にまた会えるなんて嬉しい限りですよ」 などと親密な関係を思わせる会話を重ねる。 実際はこんな不毛な会話なんてやめてすぐにでも自分の家に帰りたい。でも『HiMERU』と『風早巽』の関係にヒビを入れるわけにはいかなかった。
「その、要さんとお呼びしてもよろしいでしょうか」 不意に聴き慣れた、この男の口からは絶対に聞きたくなかった名前が飛び込んできてHiMERUは目を見開いて、しかしすぐに戻した。動揺を悟られまいと視線を逸らすと、巽は否定ととったようで少し困った声を出した。 「ああ、ごめんなさい、突然。無作法でしたな。」 「あ、いえ、その……」 取り繕わなくては……そうしないとすぐにでもお前がその名を口にするなと激昂してしまいそうだった。 煮えたぎる思いをなんとか抑えてそっと口を開ける。 「今のHiMERUはただの『HiMERU』です。それ以外の何者でもありません。ねえ、巽。だからどうかHiMERUのことはHiMERUと呼んでください」 出来るだけ殊勝に聴こえるように声を作り目を見てそっと告げる。巽は寂しそうに笑って、そうですな、と返した。 「愛しています、巽」 HiMERUはHiMERUのために心にもない言葉を選んで告げた。 「はい、俺もです、HiMERUさん。」 巽はそれでも嬉しそうに言葉を返してきた。 お前のためなんかじゃない、決して。 心の中で悪態をつきながら身体だけは巽に寄せてそっと目を閉じた。
秘める想い
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