痕が残る(燐ひめ)
「いっ、た……」 要から悲鳴にも似たうめきがあがる。それを聞いた燐音は首元から口を離して要を見下ろした。首元にはくっきり歯形と赤いキスマークが数か所。日に焼けていない白い肌には赤が似合うなと満足げに指でなぞると下から非難の声があがった。 「天城、噛むのはやめろと言いましたよね」 「そう言っちゃって、メルメルも気持ちいいくせにぃ」 強情だなあと揶揄うとこちらを睨みつけてくる金色と目が合った。上気した頬と目じりの涙が快感を雄弁に伝えており全くもって逆効果だ。腰を軽く振ると文句だってすぐに嬌声にかわる。 「あ、クッ……あまぎ、はげし」 「かるーくゆすっただけっしょ。メルメル感じすぎ」 揶揄いながらさっきより強く揺さぶると漏れる喘ぎも激しくなる。かわいー声出しちゃって。おかしくなって自然と笑い声が漏れちまう。すると要は不満そうに何がおかしいのですか、ととぎれとぎれに訴えてきた。 「いやあ、メルメルってこんなにかわいかったっけって思って、よ」 最後のよに合わせて最奥をつくと、一層甲高い声が響く。あ、イっちった? 聞くまでもなく腹に白い液が散らばったのでわかってはいたがこれも要を煽るためにわざと言っている。我ながら性格わりいと思いつつも反応がいいのでやめられない。今だって羞恥心からか顔を真っ赤にしてこちらをにらんできている。だからその顔意味ねーって。 「イってるところわりいけど俺っちにちょーっと付き合ってくれよな」 「あまぎ、まだ、だめだって」 止める声を無視して腰を動かせばまたすぐ甘えた声にかわる。ほんとエロいねーなんて漏らせば、うるさいと言葉だけは強気の返事。まだまだ大丈夫そうならとことんまで付き合ってもらうっしょ。腰の動きを早くして再度の絶頂へと追い詰めていった。
「メルメル寝んの早くね」 ピロートークもなしに寝落ちてしまった要に問いかけるが勿論返事はない。大体寝るときはいつもこうだ。激しく盛り上がるのも楽しいけどあま〜いピロートークぐらいあってもよくね。燐音クンちょっと寂し〜。なんて口にするのも寒々しい。 「まあ、ちょっと激しくしすぎたか」 反省なんてこれっぽちも感じない声を出しながら要の身体を見る。そこには先ほどつけたばかりの歯形やらキスマークやらの痕があちこちに散らばっている。これ明日怒られっかなと眺めながらぼんやり思ったがそれならそれで別にいい。要は仕事に差し障るからと嫌がるが燐音としては常に自分のものだと刻み付けておきたかった。 メルメルもつけてくれてもいいんだぜ。そんなことを思いながら歯形の痕を指でなぞる。すると手が冷たかったのか要の口から声が漏れた。その声は本当に小さなものだったが、確かに聞こえた。 ――燐音。 いつも呼ばねえくせによお。呼ばれた名前が刻まれたように脳に染み付く。燐音は盛大にため息をついてベッドに転がった。
痕が残る
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