ドーナッツ


「恵、お願いがあるんだけど」
 ドーナッツ買ってきて。男は言う。無視するとうるさいので買ってくると食べさせて
 無理やり口に押し付ければもぐもぐと咀嚼音が部屋に響く。
「おいしいね」
 食べ終わったのか、満足そうに男は床に寝ころんだ。
 この男は大の大人だっていうのに時々こうやって甘えてくる。人の部屋に入り浸って恵≠ニ甘ったるい声で自分に構う。うざったいし面倒な要求がセットでついてくるので無視すればいいのだが、どうやったって自分には無理だった。だから口だけ抵抗する。
「アンタ、本当にどうしようもないな」
「そうかな。それなら恵もどうしようもないってことにならない?」
 だって僕の言うこと全部聞いてくれるよね。
 ああいえばこういう。やはり五条先生はどうしようもない。だがサングラス越しでもわかるほどまぶしく光る青い目が俺の心をどうしようもなく貫くから、やはり俺もどうしようもない。だから結局はいつもこの結末だ。
 今日も五条先生の仰せのままに。

ドーナッツ


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