願い


出会ってわりとすぐの誕生日の捏造。



 それは些細な疑問だった。
「恵ってさ。誕生日とクリスマスのプレゼント一緒だった時ある?」
 なんとなく昔クリスマスと誕生日が近いクラスメイトが言っていたことを思い出した悟はそう質問する。つまり出来心で聞いてしまったのだけれども、質問を受けた恵からの返事は予想の斜め上の答えだった。
「いや、祝われたことがあんまりなかったんで」
「え?」
 貰ったことないですという彼の返答があまりにも予想外で思わず変な声が出た。悟の声があまりにも素っ頓狂だったからか、恵は不審そうに眉を顰めた。だがすぐ勘違いするなという目で「津美紀は祝ってくれましたけど……」と返してきた。
「あ〜その。そっかあ」
 なんて声をかけるべきかわからず乾いた笑いが出る。不遇な生活は片親の存在と彼の達観した言動で理解していたものの、よもやここまでとは。悟は今だけは自分のデリカシーのなさを恨んだ。
「あ〜じゃあ、恵君はプレゼントに何か欲しいものある?」
 気を取り直して悟は質問する。自分の好奇心とデリカシーのなさで話が逸れてしまったが本題は別にある。明日は彼、伏黒恵の誕生日だ。最近とは言え、後見人になった身としては是非とも誕生日プレゼントを用意したかった。もらったことがないなら尚更。
 最新のおもちゃ?ゲーム機とか?せっかくなら三人で遊べるものがいいかな、なんて思考を巡らせると恵はそっと口を開いた。
「……いちごの乗ったショートケーキ」
 声になるかならないかという小さな声で言われた一言は、だけど悟にはとても衝撃だった。苺のショートケーキだって?そんなド定番の、しかもそれはプレゼントとは別に用意されるべきものじゃないか。驚きで声を出せずにいると恵が続けた。
「……その、津美紀から誕生日にはケーキって聞いたことがあったので、無理ならいいんですけど」
 恵は悟が返事をしないのを悪い方にとったのか、しどろもどろで言い訳をする。声がだんだん小さくなり俯くので、悟は慌てて訂正した。
「え!いや、そんなのお安い御用だよ!何ホールあればいい!?」
「いやカットしたやつひとつあれば十分なので」
 そんなのでいいの?という声はなんとか飲み込んだ。俯きながらひとつあればいいと言う恵の顔がなんとなく赤い。こんなささやかな誕生日プレゼントを望むなんて、いじらしいところもあるじゃん。
「わかった、明日持ってきてやるから待ってなさい」
「ありがとうございます」
 恵から素直な感謝の言葉を聞いたのはこれが初めてかもしれない。照れ臭くて恵の頭をくしゃくしゃに撫でたら非難のうめきがあがったのでとりあえず今日は退散しようと立ち上がった。
「じゃあまた明日、バイバーイ」
「……さよなら」
 
 さて明日の約束をしてしまったが、予定を空けるためには任務の調整やらなにやらやらねばならないことだらけだった。だがまず電話するならここだろう。悟は携帯を取り出すと上機嫌のままお気に入りのケーキ屋に電話をかけた。
「とびきりの苺の乗ったショートケーキ!ワンホールお願いします。明日の予約で!」


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