冬に至る


「えっ恵って誕生日とかあんの?」
 五条さんがこたつから顔を上げて叫んだ。ここは幽鬼骨董店の応接室。だった場所だ。応接用の立派なソファは片付けられ、部屋の真ん中にはボロいこたつが設置されていた。
「てっきり僕が拾った日がバースデーだと思ってたよ。いつか忘れたけど」
 五条さんはこたつから出ることなくそうのたまった。今まで五条さんと誕生日の話などしたことがなかったから、そもそも興味がないのだろうが、それにしてもひどい男である。ペットは責任を持って飼うべきだろう。俺は呆れた声で返事をした。
「さすがに誕生日ぐらいありますよ。アンタって本当に失礼だな。二十二日が俺の誕生日です」
「二十二……って今日じゃん。なんでそんな楽しそうなこと言わないわけ」
 それを聞いた五条さんはこたつから顔を出してこちらを驚いた眼で見つめた。でもすぐに表情が嫌な笑顔に変わる。しょうもないいたずらを思いついた顔だ。続きは期待してはいけない。
「えー、誕生日何がほしいの? 大好きな五条さんのふかふかアn……」
「いや、言わんでいい」
「遮んないでよ。あ、じゃあみかん食べる?」
 案の定しょうもない提案で、すぐに口を挟んで阻止した。五条さんは不満そうにしながら代わりに丸々太ったみかんを差し出してきた。どこから取り出したのか、こたつには大量のみかんが乗っていて、片付けられていない皮も散乱している。でも部屋の隅にあるみかん箱にはばんせい農園と書いてあるので食べたいとは思えなかった。
「いや、いいです。というか五条さんの誕生日は……?」
「え、僕は八日だったよ」
「終わってるじゃないですか、なんで言わないんですか」
「いや、誕生日祝うとかそんな習慣なかったし。別にそれが正しい日かもわからないじゃん?」
 五条さんはまたこたつに身体を埋めながらゆるく手を振った。魔都で孤独に生きてきた彼にとってはきっと祝う者も祝われる者もいなかったのだろう。それはそれで寂しい気がする。俺は寝ころぶ五条さんの隣に腰を下ろしてこたつに足を突っ込んだ。
「あっつ、どんだけ温度上げてるんですか」
「なんだ、恵もこたつ入りたかったの? てか狭いから向かいとかに入ってよ」
「うるさいな、アンタプレゼントの自覚あります? プレゼントはプレゼントらしく俺に場所を譲ってくださいよ」
 そう言って強く抱きしめると五条さんは大人しく腕の中に納まった。二人並ぶと五条さん仕様の巨大こたつでもきつかったが、たまには狭いなかで寝るのも悪くない。
「え〜、そのまま寝るつもり?」
「そうですよ。いい抱き枕がほしかったのでちょうどいいです」
「あはは、この五条悟を抱き枕呼ばわりとか、恵もでかくなったねえ」
 五条さんはからからと笑っていた。俺は腕の中の男を感じながら目を閉じた。

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