愛の輪


真希が呪いでふたなりになってしまい、それを解呪するためにセックスするまきまいの話





 やってしまった。
 任務帰り、禪院真希は途方に暮れていた。自分の性格上、困って立ち止まるなどあり得ないことだ。だが今回は問題が問題である。さすがの真希も普段通りとはいかなかった。
 状況を整理しよう。真希は今までに起きたことを振り返る。
 京都での任務を言い渡され、その任務中のことだった。討伐には成功したものの、呪霊との戦闘で真希はとある呪いにかかってしまった。呪い治療の専門家曰く、体調不良は認められない。身体にもほとんど∴ル常は見られない。そのほとんど≠フ部分が今回の大問題なのだが……
 専門家に治療法も聞いてはいるものの、少々やっかいな話だった。なにしろ一人では解決できないのだ。言い渡されたときはどうしたものかと思ったが、一応頼るアテがないわけではない。
 いや、むしろ。真希は思いなおす。これは好機なのではないだろうか。この状況を楽しめる唯一の方法を思いついた真希は、知らず口角を釣り上げた。
「賭けてみるか」
 ここは幸いにして京都。目的の人物は近くにいるのだ。真希はさっそく思いついた案を実行に移すべく京都校へと足を向けた。


 京都校の門をくぐり、目的の人物を探して校内を歩く。いそうな場所を予想し順々に歩いていくと、それほどの苦労もなく探し人を発見することができた。すらりとした体躯と短い緑の黒髪が印象的な女、真希の双子の妹、真依だ。真希はそれを認めるなり声をかける。
「よお、真依。ちょっとツラ貸せよ」
「何よ、いきなり。失礼じゃないかしら、真希」
「そこはお姉ちゃんだろ、妹。いいから来いよ」
 いつも通りのつんけんした態度だが、そんなものは日常茶飯事。真希にとってどうということ話ではない。だから特に気にすることなく、真依の手をつかんだ。
「頼みがあるんだ。お前にしか頼めねえから。な」
「……」
 そう言って真希が手を引いて歩きだせば、彼女はしぶしぶとついてきた。不服そうな視線を向けてくるとは言え黙って従ってくれるのだから、口では何と言っていたって結局は姉思いの良い妹だった。だから今日はそれにつけ入ることにする。
 妹の手を引き、真希は任務用に割り当てられた仮の住処に引きずり込んだ。


「なによ、これ……」
 部屋に入るなり服を脱ぐ。その異常さにとがめるような視線が刺さるが、今はそれどころではなかった。手っ取り早く状況を理解させるにはこれが一番早い。そう判断して適当に制服をぬぎ捨てる。真希の下半身がすっかり露出すると、真依は息をのんでそうつぶやいた。
「何って、呪い?」
「なんでアンタがそんなものにかかってるのかを聞いてるの!」
 真依はヒステリックに声を荒げる。彼女の目線の先、露出した真希の下半身には普段ならついているはずのない男性器がぶら下がっていた。そんなものを見せられたら驚くのは当然だろう。だが、あまり大声は感心できない。ここはまだ玄関に入ったばかりの場所だ。他の部屋に人がいるとは思えないが、あまりいい場所ではないのは間違いない。叫ぶなよ。ばれたらどうするんだ。と、耳元でささやいて彼女を壁に追いやった。
「ちょっとシクっただけだって。ま、なんでもいいだろ、入れてやるよ」
 真希は少し高圧的に真依に迫る。真依は身体をそらせて逃げようとしたが、すぐ壁に阻まれて動けなくなった。
「は、何言って……いやよ!」
「拒絶すんなよ。お姉ちゃん悲しいなあ」
 真依の抵抗を無視して制服に手をかける。露出の多い制服は簡単に乱すことができる。真希は制服のスリットから手を差し込んで柔い太ももをゆるゆると撫で上げた。
「……だってそんな、呪いの相手なんて御免だわ」
 赤らんだ顔で息を乱しながらも、妹は未だ抵抗をあきらめていなかった。だがもう彼女の目はこれからの快感を想像して揺れている。それがかわいくて、つい意地悪をしたくなってしまうのは姉故だろうか。真希は彼女の耳を舐め上げ、そのまま耳元でささやいた。
「でもオマエ、他の女で私が解呪したら拗ねんだろ」
 核心を突いた一言に真依が息を飲んだのがわかる。わかりやすくて笑ってしまうが、本当に笑うと機嫌を損ねるので一応は我慢しておく。
「っ、そんなのモノですればいいじゃない!」
「ところがどっこい。人とセックスしないと戻らないんだとさ。いいから付き合えよ」
 彼女の言い訳を一つずつ潰して、追い詰める。ついでに壁までの距離もさきほどよりぐっと詰めた。気持ちよくさせてやる。ダメ元でもう一度耳に息を吹きかけて、真希は意地の悪そうな笑顔で下半身を押し付けた。普段なら絶対に存在しえないグロテスクな塊。それは徐々に固くなり真依の気持ちいいところを擦り上げる。
「だからって……あ、あぅ」
 制服の隙間に足を割り込めば、きわどいスリットから容易に下着が目に入る。真希はそれに手をかけてずるりと引いた。
「濡れてんな」
「言うな、バカ……」
 触って確認するまでもないほど、真依のそこはすでに濡れており、下着と糸を引いていた。それは彼女の抵抗が口だけであることをありありと物語っている。結局真依も期待しているのだ。このイレギュラーなセックスを。元々彼女は気持ちいいことに弱い。だからこの賭けも最初から結果が分かっていたようなものだった。
 賭けの結末に気をよくした真希は、唇にちゅっとかるくキスをして彼女を姫抱きの要領で持ち上げる。するりと地面から足が離れたからか、真依は不服そうに口を尖らせた。
「なに、すんのよ」
「あ、玄関で最後までしたいのかよ」
 変態。からかえば押し黙るので、真希はそのまま上機嫌でベッドまで運んで行った。


***


「いやよ!お姉ちゃんはこんなことしない!」

 ベッドに移動し、指を押し込んでゆるゆるとかき混ぜる。もういいかと、そろそろ入れてやろうかと体勢を整えるが、ここにきて思いもよらない抵抗に遭う。
 おいおい、ここにきてお預けかよ。真希があきれて真依を見やるが、彼女はそのまま腕で顔を隠して泣き出してしまった。泣きながら拒絶する姿に、流石にこれ以上無理かと身体を引く。
 男とのトラウマでも思い出したのか。ぐずる様は本当に怯えているようだった。そんなやつ絶対あとでシメてやると心で思うものの、まずは安心させようと頭を撫でて、悪いようにはしないと、自分はその男とは違うと言い聞かせた。
「悪かったって。真依が嫌なら入れねえよ」
 隣に寝そべり、頭を撫でて甘やかす。真希の胸に彼女の頭が埋められて、素肌に髪が当たってくすぐったい。
「なあ、どうして欲しい?」
 嗚咽が落ち着いたのを確認して、耳に息を吹き込む。「なんでも言ってみな」と甘く続けると、緩やかに落ち着いてきた真依は潤んだ瞳でこちらを見やった。もう怯えた様子はなく、むしろ期待した目をこちらに向けている。
 真希にはこのどうしようもない天邪鬼の思考が手に取るようにわかっていた。でもこちらから言ってはやらない。にやにやと意地の悪い顔で見下ろせば、観念したのか真依がおずおずと口を開くのが見えた。本当、可愛いやつ。
「……入れてよ、馬鹿」
「へーへー」
 赤らんだ顔でこちらを見つめる目には、もう嫌悪感はない。今までの男と比べられるのは反吐が出るが、こちらに向ける安堵と信頼の視線は真希にのみ与えられているのだと思えばそれはそれで悪くない。
 もう一度足を抱え直して、濡れた秘部に性器を押し当てた。その瞬間をじっと見つめる真依の喉がゴクリと動くのが見える。期待している。彼女のその感情が真希をどうしようもなく昂らせた。入れるぞ。と一応声をかけて腰をぐいと進める。
「あ、入って……」
「ああ、入ってるな」
「言わないでよ」
「先に言ったのお前だろ」
「う、るさい」
 軽口を叩き合いながらも探るように進めていくと、真依の息が次第に上がっていく。
「あ、あん」
 喘ぐ姿が可愛くて、強く腰を動かすと声はいっそう高くなる。
「は、可愛い声」 
 彼女の喘ぎ声に耳を傾けながらも、そのまま一気に押し進めて真依の中を蹂躙した。真依は涙目でこちらを見つめてくる。だがそれは先ほどの嫌悪から来るものではなく、気持ちよさからくるものだと分かっていた。だからそのまま腰の動きはやめず、ゆるいピストンで快楽を促す。
「ん、どうだ。気持ちいいか」
「あ、そんな、の、言わなくても……わかるで、しょ」
 バカ。そう罵られるのは今日で何度目だろうか。だが照れ隠しの罵倒など可愛いのもだ。
「言えよ」
 身体をまげて耳に唇を寄せる。わがままなプリンセスはすこし強引な方が好きらしい。だから少しだけ強い言葉を並べる。瞬間、中が締まるので効果は確認済みだ。
「ア!……ん、気持ちい、から」
 喘ぎ声に少し遅れて言葉が続く。真依は潤んだ瞳でこちらを見た。視線が絡まるのが気持ちよくて、するりと顔を近づけた。唇が触れるか触れないかの距離で真依が動いて二人の唇が触れる。そのまま舌がゆるゆると絡み、真希は快感に腰が重くなる感覚を覚えた。
「なあ、これ中に出したらどうなるんだろうな」
「な、に」
 唇を離し思っていたことをそのまま告げると、真依は目を白黒させてこちらを見た。
 準備なんてほとんどないも同然だったので、ゴムもせずそのまま事に及んでいる。専門家曰く問題はないとのことだったが、本来であれば避けるべきことだった。でもせっかくなら最後まで楽しみたいと欲をかいたのは真希の本能だ。それは真依も同じで合意ではあるが、多分そこまで深く考えてはいないだろう。詳細も告げていない以上、流石にやめておくか。外に出そうと腰を引くが、それは真依の足に阻まれて叶わなかった。彼女の細い足が真希の腰に巻きついて引き留めるようにうごめく。
「お姉ちゃんなら、いい……から」
 逃げないでよ。真依は泣きそうになりながら真希に全身でしがみついていた。必死な様子は正直かわいい。でもこの状態は、さすがに、ちょっと、まずい。
「おい、そんな、締めるなって……」
「だから、いいから……あ、ん」
 真依はとろけた視線で真希を見た。その顔はいつもの怒ったような表情ではなく、どこか許しを請うような、甘く切ない表情だった。その珍しすぎるストレートな感情表現に思わず胸がざわつく。中もぎゅうぎゅうに締まって、やばい、と感じた時にはもう遅かった。真希は出そうとした性器を再度奥に押し込んでそのまま彼女の中に吐き出した。
「あ、くッ」
「あ、ァーー」
 真依もそのまま達したのか、ひときわ高い声を上げた後、絡み付いていた足がぱたりとベッドに転がった。真希も身体が解放されたのに合わせてずるりと萎えたそれを取り出す。抜けたところを見やれば、そこはたった今出された精液と彼女の愛液でぐちゃぐちゃになっていた。
「あー、その」
「謝んないでよ、馬鹿」
 顔を見ようとしたが、真依は本日何度目かわからない「馬鹿」を残してシーツにくるまってそっぽを向いてしまった。だが隠れきれていない耳が真っ赤なのでこれはやはり照れ隠しだ。だからたぶん調子に乗っても問題はない。
「気持ちよかったぜ」
「重いから乗らないでよ」
 シーツお化けにのしかかるといつもの調子で返される。殊勝な姿もかわいいがやはりこれぐらいがちょうどいいか。一方的にじゃれていると下半身が軽くなるような感じがした。これは、と下半身を触ってみるとさっきまであったはずのものが跡形もなく消えていた。
「あ、無くなってら」
「……あら、本当ね」
 真希がそう呟くと真依はシーツから抜け出してこちらを振り返った。
「むしろ、あるぐらいがちょうどよかったんじゃないかしら?」
 真依は下半身をまじまじと見つつ、大変失礼な物言いを寄こす。だが表情は心底ほっとしたという顔で、むしろ真希本人よりも安心しているようだった。
「悪かったな、心配させて」
「な、心配なんてしてないわよ!」
 素直な気持ちを伝えると、またつんけんした態度。でもこれが日常なのだから、それはそれで悪くない。真希はベッドにあおむけに寝転がり真依の腕を引いた。真依はその動きを予想していなかったようで、「あ」と驚いた声を上げて真希の胸に落ちてきた。セックスの余韻を感じながら頭をなでると彼女がうめく。
「もう、絶対呪いになんてかからないでよ」
 真依は胸に顔を埋めてそう告げた。どうやらこちらが思っていたより心配させてしまったらしい。告げる彼女の声は少し涙声だった。
「そうだな」
「……約束よ」
 返す言葉も思いつかず、とりあえずの返事をすると念を押された。
「……わかったよ」
 約束だ。呪術師である以上、絶対などあり得ない。真希も真依も、そこはわかっている。でも。それでも約束をしようというのならば、いくらでも誓おう。努力はしよう。柄ではないと思うが、それだけこの胸の中の妹が自分にとって大きな存在なのだから。
 (あー、でも今の気持ちよかったな。)
 そんなことをぼんやり考えながら真希は胸の中の彼女を再度なでた。

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