少女の幸せとは

Step.10 腹が空いては
その後は特に何事もなくーー強いて言えばトイレも寮も薄汚れていて掃除するのがとても大変だったーー時間が過ぎ、1日目の仕事が終わった。夕食は仕事が終わってから支給されるカップ麺のみで、各自寮の個室で食べるそうだ。
私にもきちんと個室が割り当てられており、昼に着替えた自分の服が何故か置いてあった。イヤミさんだろうか。

ちなみに終業時間は夜中の12時。こんな時間に食べたら太ってしまうーーと、言いたいところだがそんなことに構っていられない。カップ麺1個で腹が膨れるか!!状態である。

そんな人の為に寮には厨房があり、誰が買ってきたのか分からない食材が置いてある。名前の書いてない物は基本自由に食べてもいい食材なので、お腹が空いたら自分で料理して食べてね。という救済措置だ。

そうと決まれば、急いで今のみすぼらしい格好から自分の服に着替えて厨房に行こう。
ついでに食堂で食べてしまおうとカップ麺も握り締めて、私は厨房へと向かった。

厨房は食堂の奥にあり、この工場が出来た当初はきっとカップ麺ではなく、三食きちんと栄養バランスが計算されたご飯が出てきていたであろう過去が予想される。人員削減で食堂のおばちゃんが真っ先にいなくなってしまったのかもしれない。
そんなことを考えながら大型の冷蔵庫を覗くと結構色々な食材が入っており、レンジでチンするタイプのご飯が冷蔵庫の半分を占めていた。
私はお目当の食材を手に取り、薄汚れた器具を綺麗に洗ってから調理を始めた。

***

一方その頃、六つ子達はカップ麺を一瞬で平らげ尚も空腹を訴える身体を持て余していた。

まだまだ食べ盛りだというのに、あんなにも長時間労働を強いられたというのにも関わらず、自分達の食事をカップ麺1個で済ませようとする上司に不満タラタラなトド松、おそ松を見てチョロ松がハッと何かを思いついたらしい。

「ねえ、やっぱカップ麺だけじゃお腹いっぱいにならないよォ」
「だよな〜。カップ麺1個とか俺らの胃袋嘗めてんのかっつーの。」
「じゃあ、食堂に行ってなんか作れば良いんじゃない?」
「チョロ松にーさんナイスアイディアでっせ!」

チョロ松の案に、一同はオー!と感心したが、部屋の隅で体操座りをしていた一松がいち早くある問題に気付き顔を上げた。

「……でも、この中で料理出来るヤツいんの」

一瞬で静まり返った空間が答えだった。ニートである彼らが出来ることと言えば食って寝る事。
例えば卵かけ御飯やインスタントの味噌汁なら簡単に作れるだろうが、毎食きちんと手作りの凝った料理を食べる彼らは、出来ればインスタントは食べたくなかった。

「oh…マミーの手料理が恋しいぜ」

悲壮感を漂わせてサングラスを外したカラ松を、いつものようにイタいと責める者は居なかった。珍しく同意見だったのだ。

結局空腹には耐えきれず、ある物を食べようという意見にまとまったため、六人は空腹を訴えるお腹を摩りながらどやどやと食堂へ向かった。

食堂へ近付くにつれ、食欲をそそる良い匂いが鼻腔をくすぐり、六つ子達は顔を見合わせる。
“誰かが料理を作っているのかも”上手く相手を丸め込んであわよくばお溢れを頂戴しようと企んだのはどの松も一緒だった。

「すんませーん、俺らにもそれ(夕飯)分けて欲しいんですけどぉ。」

お願いしまーす、と食堂に雪崩れ込んだ六つ子達の目に飛び込んだのは、菜箸を右手に持ったまま固まる幼馴染の姿だった。
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