「…………」 私は何度、柳君を失望させたのだろう。 ―みょうじ― 最初は、趣味の合う友人だと思ってた。 ―みょうじ…なまえ― 昔から人気者だった柳君と仲良くできるなんて、話ができるだけで幸せだと思ってたのに。 ―なまえ、と…呼んでもいいだろうか。― でも、クールだと思ってた柳君の、テニスに対する熱い想いとか、好きな著作者について饒舌に語る所とか、ふと微笑んだ顔とか…たくさんの顔を見ていると、次第に友人という関係が物足りなくなって、でも気持ちは伝えられなくて。 柳君は幸いにも私の好意に気付くことがなかった。その代わりに、柳君のことを私と同じように好きだと思っている女子が、私の好意に気付いてしまった。 元々柳君の友人という立ち位置も快く思われていなかった私は、悪意の目に晒されていった。 物を隠されたりだとか、そういう直接的なことは少なかったけれど、すれ違い様に悪口を囁かれたり、嫌悪の目で見られたり、女子特有の陰険な嫌がらせを日々受けていた。 ―なまえ?― 元々気が弱いと自負している私は、いじめと柳君とを天秤にかけて、いじめを取ったのだ。 なんて最低なことをしたんだとずっと後悔した。 柳君を初めて拒絶したあの日、目を見開いた柳君を見て泣きそうになった。 それでも、私は柳君を拒み続けた。次第に目が合うとお互いに逸らすようになった。 そんな日が続いたある日、東京への引っ越しが決まった。最後くらい、と名前のない手紙で柳君を呼び出して、一方的に別れを告げた。 ―……そうか― それだけだった。自分から突き放しておいて酷く傷付いた。 青春学園へ転入しても、私は柳君のことを忘れられずにいた。未練がましく、どこかで見かけられたら…なんて考えてテニス部のマネージャーになった。 ……何をしたかったんだろう。結局、私がしたことなんて、双方の傷口を抉るだけにしかならなかったのだ。 「おい!危ないぞ!」 突然聞こえた慌ただしい声に顔をあげると、トラックがこちらに向かって物凄いスピードで走ってきていた。 back ×
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