「お前たちがどう想像したのか知らないが、俺はアイツのことなんて何とも思っていない」 その瞬間、俺の胸中に何とも言えない不快感が渦巻いた。同時に、仁王の眼が鋭く光ったような気がした。 「……参謀は、何とも思っていないヤツなんかに平手打ちをかますようなヤツじゃったかのう?」 「に、仁王君…。ですが、彼の言う通りです。柳君は本当に、彼女の事を何とも思っていないのですか?もう一度、しっかり自分の胸に聞いてみて下さい。」 挑発的に投げ掛けた仁王を宥めるように、けれども俺を諭すように柳生は言った。 ――俺は、アイツを―― 照れたように笑う姿、本を読む真剣な眼差し、からかうと眉をハの字に下げる表情……傷付いた顔を隠しきれていない笑顔、別れ際の寂しそうな表情、……俺を呼ぶ、切ない声、くしゃくしゃの泣き顔…。 思い出すとキリがない。アイツのいろんな表情やしぐさが浮かんでは消える。その度に胸の奥が締め付けられる思いだった。 「……あぁ。」 俺はアイツが好きなんだ。 俺の表情で察したのか、仁王と柳生は俺を立ち上がらせ、そのままアイツが去った方向へと背中を押した。 「俺達は幸村の所に向かうぜよ。」 「柳君は彼女を追いかけて下さい。」 「しかし…」 「気にしないで下さい。……そのかわり、しっかり彼女と仲直りしてきて下されば結構です。」 「……すまない。後は任せた。」 俺は荷物を引っ掴むと脇目も振らずに駆け出した。 「……やれやれ、柳君も困ったものですね。」 「やーぎゅ、いつの間にあんなこと言うようになった?」 「ふふ、久し振りに貴方の困った顔が見えました。なかなかに似ていたでしょう?」 「……ピヨ。」 back ×
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