背伸び
煙草を吸い始めた。興味心もあったけれど先生の真似っこだった。先生は絶対怒るから私はこそこそ吸っていた。まだ十六歳だった。未成年であることや好きな大人の陰でこそこそ吸っている背徳感やら背伸びをしたような気分がちょっと気持ちよかった。
けれど大人も先生も馬鹿じゃない。馬鹿な大人が先生にチクッて喫煙がバレた。先生は不機嫌そうな顔をして私を怒った。もちろん先生は私に甘いから怒るというよりは諭すという方がしっくりくる。
煙草は体に悪い、お前は未成年だからと先生は私を注意するけれど納得できなかった。だって先生の体には煙草は害ではないの? なんで先生は良くて私はダメなの? 未成年だなんてあなた達大人が勝手なエゴで決めた基準じゃない。私は言った。もう私の体は成熟してる。背も伸びておっぱいも小さいけど先生が欲情するくらいにはあるし、先生の精を絞り取ってるアソコからは先生の赤ちゃん妊娠することもできる証が月1回ある。完全に女の体だ。……なんて言うのも恥ずかしいし、先生は私よりもっと恥かしがり屋だからきっと黙り込んでしまう。
そもそも先生が煙草を吸いながら私の喫煙について怒るのはさすがに理不尽じゃないかしら! 先生にそう不満を漏らすと先生はちょっと苦笑いをして加えていた煙草を口から離す私を膝に乗せる。先生の顔が近いから思わず頬を重ねてスリスリする。剃ってから少し経っているのかちょっとチクチクする。けど構わず頬ずりを続ける。
理不尽だし大人の勝手だと思う。分かっていても大人は自分のエゴで子供を縛り付けたがる。それが子供を守るためだと信じているから。お前も大人になれば分かる。
大人になれば分かる。先生はすぐにその言葉を使う。ずるい言葉だ。だって私は先生の年の十つも離れているし、その十の距離が近くなることも追い越すこともないからだ。それ以上離れることはないことは幸いだがどんなに努力しても縮まらないのだ。だから私が大人になれば先生はおじさんになるし、私がもっと大人になれば先生はおじいさんだ。先生が今、何を考えているのか分かるのにはあと十年待たないといけない。もしかしたら十年待っても分からないかもしれない。だから私は先生の真似をする。同じものを食べ、同じものを見て、同じ空気を吸って、同じように笑ったり怒ったり泣いたりしてみる。そんな私に先生は寂しがり屋か、と言ったけれど自覚はなかったので驚いた。でも確かにそうかもしれない。こんなに近くにいるのに私は先生になれないのだ。だからもどかしい。同じものを見ているはずなのに感じ方は人さまざまで。同じ時を過ごしていても気持ちは同一にはならなくて。それが当たり前だし一緒の方がおかしいかもしれないけれど、先生と性別も年も違ってしまうと心細い。のかもしれない。じゃあ先生が同性の同い年だったら解消されるのかと言われたらちょっと違うけど。
先生の手から煙草を盗もうとするが腕を伸ばされ、反対の手でガードされて呆気なく終わる。悔しいから吸いたいー吸いたいーとジタバタしてみる。先生はいつからニコチン中毒に…とちょっと本気の呆れ声だったからそういうわけじゃないけどーと付け足して更にジタバタする。するとやめろ! と言われ、ガードしていた手に顎を掴まれてキスをされる。気持ちいい触感を唇で感じた。思わずバタバタ動かしていた手足を止める。苦い、タバコの味がした。
おいしいか? 先生は微笑を浮かべて私に聞く。あぁ、本当に敵わない。いつか追い越したいのに。追い越して頼りにされたい。私のエゴで先生を守りたい。けれど、今は。それよりもこの与えられた快楽の方が欲しい。何度も唇を重ねる。そのたびに先生も答えてくれる。舌も入れるともっと苦いタバコの味がした。
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