肩たたき







「なあフェイ、シャル、どっちか暇かー?」

「ごめーんちょっと無理。今大事なデータプログラミングしてるからさ」

手元から目を離さず、カタタタと素早く指を動かしながらシャルが答える。

「どしたの?」
「いやーなんか団長から本薦められてよ…読んだらすっげー肩凝っちまって」
「で、肩を揉めって?それ俺たちに頼むの?女の子たちじゃなくて」
「そちの趣味だたかフィンクス」
「ちげーよ!そら俺だって野郎よりは女のがいいっつの!でも今日は女は1人もアジトにいねーし、それに…」

頼んだらすげー軽蔑の目で見られそうだ…、
声をひそめるフィンクスに、ああ、とシャルはその童顔を苦笑させる。

「というわけだ!フェイ、」
「嫌ね」
「はやっ!!…んだよ、別にいいじゃねーかちょっとぐらい」
「誰がおまえの肩なんか揉むか、死んでもごめんよ」
「いいじゃねーかケチくせぇ」
「嫌ね」
「頼む!」
「嫌ね」
「頼むって!」
「嫌ね」

む…としばらく無言で睨み合う身長でこぼこコンビ。が、やがて、フィンクスは溜め息をついて頭を掻き始めた。

「あー……分かった、じゃあもし肩揉んでくれたら、これから1ヶ月フェイのピーマン代わりに食べてやる。これでどうだ?」
「おまえ、自分が交渉できる立場にあると思てるか」
「決裂か?」
「……………………………………………乗たね」
「あはは、フェイタンてば素直!」

シャルは爽やかな声で笑い、足を組み直した。エンターキーを押して一段落する。

「でもあんまり好き嫌いすると体に悪いよ……って、………もういないや」

振り返ったときには既に辺りには血の通わぬモノばかり。
シャルはくすりとまた頬を緩ますと、よぉしもうひと踏ん張り、と再びキーボードに指を滑らせた。







「おーし!さー頼むぜぇー!」

どかりとフェイタンの前に胡座をかいたフィンクスがそう大声を出す。座ってやっとのこと視線に頭頂部が映る、そんな身長差であった。

「……おまえ、ワタシが大人しく揉んでやるとでも思うか?」
「別に肩たたきでもいいぜ、死なない程度の強さなら」
「…もとよく効く方法あるよ」

マスクの下でにやりと口端を上げると、フェイタンははてなを浮かべているフィンクスの肩を掴み、もう片方の手に力を籠め、

「いっ…てぇえええええっっ!!!」

ゴキンと、盛大な音を存分に響かせた。


「お…っまぁ、なぁ…!」

ぴくぴくと肩を外されていない方の腕、及び全身をひくつかせてフィンクスは悶絶する。顔を上げることすらままならないようだ。
そんな様子を平然と、むしろちょっと楽しげに見るフェイタンはご愛嬌である。

「いきなり、何す…」
「荒療治だけど、治りはいいよ。脱臼や肩凝りには特にいいね」
「いっ!!?」

ガキンッ!とまた大きな音が皮膚下で起こる。
しかし動かしてみると、なるほど先程よりもかなりよく回る。

「マジだ…すっげー軽くなってる…」
「久々だたから、さきは加減がイマイチだたね」
「てめ…だからあんな痛かったのかよ…」
「次は大丈夫ね。行くよ」
「っ、」

ゴキン、音は相変わらずだったが、神経から伝わる痛みはフェイタンの言う通りだいぶ薄まってていた。
まあ、もちろん痛いのだが。

しかしまぁ、殺しのテクもピカイチでこういうこともできるたぁ…

医者は殺し屋にもなりうると言うが、逆もまた然りということだろうか。なんだかこの相方が頼もしく思えて、フィンクスは思わず笑みを浮かべた。

「何笑てるかフィンクス、気色悪いよ」
「うお、バレた?」
「バレバレね…おまえ、本当に単純馬鹿ね」
「うっせーな」

バキ、と骨が音を立てる。いつつ…今のは痛かった…、とフィンクスは涙目で首を押さえた。

「それよりフィンクス、隙ありすぎよ」
「は?」
「ワタシが操られてたらどうするつもりか。無防備なおまえの頸ぐらい、楽勝よ」
「平気じゃん」
「今だけでなく他の場面もね」

少しの間フィンクスは思案する。しかしまさに文字通りほんの少しの間で、傾いでいた首をすぐにフェイタンに向ける。

「おまえそんな簡単に操られるか?」
「仮定の話よ。ワタシそんなヘマしないね」
「ならいーじゃねーか」


おまえが俺を裏切るはずねーし。


予想もしていなかった発言が、フェイタンの鼓膜を揺らし、全身に溶けた。それは、あまりにも単純で、ともすれば妄信と捉えられかねないような。
何を根拠にほざいているのか、本当に幻影旅団の一員なのかこいつはと、フェイタンは呆れ果てる。

だが、

「さー痛ぇのにも慣れてきたし!どんどんやってくれぃフェイタン!」

何が楽しいのか肩を回して笑う男にとって、それはぴったりなような気がした。フィンクスはこうでなくちゃ困る。

「本当に…単純馬鹿な奴ね…」











――――――

仲いいよね








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