真ちゃんの一番の理解者は自分なんだっていつも思ってた。監督だって真ちゃんのことは俺に任せてたし、先輩たちだって「よく緑間とうまくやれるよな」って感心していたし、だから俺は真ちゃんの一番なんじゃないか、だなんてそんな淡い期待を抱いてしまったのだ。だけど、そんなはずはなかった。そのことに気がついたのは一番聞きたくない言葉を真ちゃんの口から聞いたときだった。
「だから、彼女ができたのだよ」
俺はきっとひどく驚いた顔をしていたんだろう。
聞いていなかったのか、というようにため息をついた真ちゃんの横顔。え、なんだよそれ。知らないよ俺。俺は真ちゃんの一番じゃなかったの?
「え…あ、すげーじゃん真ちゃん!いつからだよ?」
気づかれてはいけない、動揺してるだなんて思われちゃいけない。いつも通り明るく振舞う。真ちゃんは照れてるのか少し顔が赤い。その表情がまた俺を傷つけた。ズキズキなんてものじゃない。ガラスの破片なんてかわいいものじゃない。まるで鋭利な刃物で刺されてるみたいに、心臓が脈打つたびに痛む。そんな俺に気づくはずもなく、小さな声で「先週だ」とつぶやく真ちゃんなんて死んでしまえばいいと思った。
「どんな子?」
聞けばもっと傷つくのに、聞かなければいいだけなのに。でも聞かなかったとしたって、きっと傷つくんだ。そのうち昼休みだって、部活帰りだって真ちゃんは俺じゃなくて俺の知らない真ちゃんの彼女と過ごすようになる。そうだ、俺は真ちゃんの一番でいることなんてできるはずがなかったんだ。それこそ必然的。心のどこかでずっと前からわかってたんだ。
「あ…ごめん真ちゃん!妹ちゃんから電話来ちゃった。ちょっと電話してくるな」
こらえきれなくなって教室を飛び出した。電話なんて嘘。頭とからだはバラバラ。トイレに駆け込んで鏡を見るとやっぱり泣いてた。泣くつもりなんてなくて、泣いたら真ちゃんが困るってわかってて、とまれ、とまれよ!って命令してるのに俺の目は俺の命令を聞かない。ぼろぼろと溢れる涙は洪水みたいでとまらない。ごめんね、真ちゃんごめん。真ちゃんの幸せを願ってあげられなくてごめん。俺はね、きっと真ちゃんのただの一番じゃ嫌だったんだ。いまさら気づいたんだ。俺は真ちゃんの一番好きな人になりたかったんだ。あふれて流れる涙と一緒にこの感情も流れてくれればいいのに、だけどそんな願いはきっとかなわない。
君の一番になりたかった
2013.0112