『十神白夜』ならばきっとこんな曲を好むのだろう。数あるレコードの中から世界的に有名な交響楽団のレコードを選び出すと、車内で流すように指示を出す。壮大な曲が流れ出し、ここが車の中だとは感じられなくなった。信号待ちをしているときにふ、と窓の外の騒がしさに視線を移すと神社が目に入る。

「・・・祭りか」

ひとりごとのように呟くと運転手が「賑やかですね」と答えた。神社では祭りが行われており、楽しそうな笑顔の参加者が目に付いた。窓を開け、その様子を観察していると、のど自慢大会が始まった。決してうまくなどない、それなのになぜかじっと引き込まれてしまったのはなぜだろう。

(『十神白夜』だったら、きっとこんなの「くだらん」とか言ってしまうんだろう)

今の自分は『十神白夜』だ。だから彼になりきらなければいけない。「ふん、くだらんな」そう言って窓を閉めてしまうんだろう。それなのに、できなかった。惹きつけられてしまった。楽しそうに自分たちの歌声を披露する姿を誰かに重ねていた。誰かを思い出していた。

(君なら、どんな歌を歌うんだ?澪田さん)

信号が変わり、車が動き出す。少しずつ神社が遠ざかり、彼らの下手くそな歌は聞こえなくなる。静かに窓を閉めると、交響楽団の演奏するクラシックが妙に大きく響いた。


君ならどんな歌を歌うんだろう
2012.1016

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