ぽとり、と冷たい感触が侵食する。溶けたアイスが手をつたってスラックスに吸い込まれて行く様子をぼーっと見つめていた。
「おい、日向!垂れてんぞ!」
はっとして顔を上げる。俺を現実に引き戻したのは左右田だった。
「どうしたんだ?ずいぶん府抜けた顔してんなぁ…」
そう言うと左右田は自分の持っていたアイスにかじりつく。シャリ、という音と共に溶けかかっていたそれは左右田の腕をつたう。
左右田の腕をつたう溶けたアイス。どんなに拭ってもこの暑さでは無駄だと思っているんだろう、拭おうとはしない。なぜかその姿が艶めかしく感じてしまうのはこの暑さのせいだろうか。
「日向?どうしたんだよ、さっきからぼーっとして。暑さでどうかしちまったのか?」
「あ…いや、なんでもない」
「ならいいけどよー。お前までどうにかなっちまったら俺困るわー」
ケラケラと左右田は笑う。笑い事じゃないのに。俺はとっくにおかしくなってるのに。溶けてお前の腕をつたうアイスにすら嫉妬するんだ。お前が好きなんだよ、たぶん。
アイスクリーム症候群
2012.0828